第10話「ハノガナの街へ」
冒険者となった主人公サダ。
2人の仲間と出会い、新たな街へと旅立つ。
新しい街、その名はハノガナの街、地下迷宮がある場所だ。
地下迷宮への挑戦が始まる。
3人組でのパーティー活動、そんな生活がしばらく続いた。
気付けば、キオウは戦士Lv.17、自分とナルルガは、共に戦士と魔術師のLv.16となっていた。
そろそろ、初心者冒険者は、卒業と言った所だろう。
最近は、オルタナの町だけでなく、ナマスの町や付近の村での依頼も受けていた。
キオウ「なあ、そろそろ活動の方針を変えても良くないか?」
「そうだね。今までの町の活動では、少し物足りないかな?」
キオウ「俺も、そう思う。ナルルガは、どう思う。」
ナルルガ「・・・、ちょっと難易度とか、報酬とか、物足りないかも。」
キオウ「だろだろ。この際、拠点を変えてみないか?」
「いいけど、どこがいい?」
キオウ「そりゃあ、この辺りなら、やっぱりハノガナの街さ。あそこなら、今以上に、いろんな依頼もあるぞ。」
「そうか、でも、自分達で、大丈夫か? あんな大きな所で。」
キオウ「何言ってる、今の俺らなら大丈夫さ。ナルルガもそう思うだろう?」
ナルルガ「行けるんじゃない。私は大丈夫だけど。」
キオウ「なら、決まりだ。」
拠点をオルタナの町から移す事に決めた。
場所は、ハノガナの街だ。
ハノガナの街は、アルデード地方で最大の都市であり、地方領主の館もある。
人口も多い上に、冒険者ギルドの依頼の種類も豊富で報酬も良い。
その分、難易度も高くなるが、今の自分達の技量でも対応はできるだろう。
何よりも、街の近くには地下迷宮があり、ここでの稼ぎが美味しいらしい。
キオウ「よし、行こう、サダ、ナルルガ!」
ナルルガ「まあ、いっかもね。」
試しにハノガナの街で、仕事をしてみよう。
あちらでやっていけないならば、またこっちに戻って来れば良い。
念の為、少しばかり貯蓄をオルタナの町で数日稼ぎ、ハノガナに向かう事にした。
オルタナを後にして、何時の日にか通り過ぎた、あの道しるべの立つ交差路を通りハノガナの街へ向かう。
街道を歩く事しばらく、街が見えて来た。
城壁に囲まれた河沿いに広がる都市、それがハノガナの街だ。
幅50m程の河の対岸にも都市のような物が見えるが、今は廃墟となった旧市街だ。
その旧市街に、地下迷宮がある。
街の人口は、8千人はいるだろう。
まずは、街の冒険者ギルドに向かう事にする。
キオウ「やっぱり、全部が大きいよな。」
「そ、そうだね。」
自分も同じ気持ちで、行きかう人々を見る。
こんなに多くの人を見るのは、初めてかもしれない。
ナルルガ「田舎者丸出しは止めてよね。こっちの方が恥ずかしい。」
ナルルガだけは、変わらない。
そう言えば、前にこの街の魔法学校に通っていた事もあるらしい。
それ以外でも、彼女は何度か来た事もあるとか。
ナルルガ、なかなかやるな。
オルタナの街のギルドの建物も大きいが、ハノガナのそれは更に大きく人の出入りも多い。
入口の扉を開け中に入る。
幾人もの冒険者が広間のような場所にいて、奥にカウンターがあるのはオルタナと同じだが中も大きく、カウンターには幾人もの女性が横に並んで立っている。
全てが受付嬢であろうか?
その一人に声を掛ける。
よく見ると獣人であるその女性はヘルガと名乗り、ここのギルドの説明をしてくれた。
彼女の頭の両側から覗く少し体毛のある長い耳が見える。
まず、自分達3人のギルド・タグを調べられた。
ヘルガ「こちらでのお仕事は初めてですね?」
ヘルガ「それでは、旧市街でのお仕事はどうでしょうか? ただし、まだ地下迷宮へは潜らないように注意してください。」
簡単に、獣人の事を説明しよう。
獣人とは言うが魔獣の仲間などではなく、人間に近い種族だ。
姿は人型で、外見は耳や目に人間との多少の違いはあるが、言葉も通じる。
独自の言語もあるが、人間族と同く共通語も日常的に使っている。
身の動きが素早く、強靭な肉体を持っており、冒険者になる者も多い。
ヘルガは、尖った耳と少し大きな目が、人間とは違う種族である事を物語っている。
オルタナの町では獣人を見掛ける事はなかったが、ここでは珍しくないのだろう。
ギルドにいる冒険者らの中にも、幾人か獣人の姿もあるし、その他に妖精族や小人族の姿も少数だが混ざっている。
ついでに、軽く冒険者ギルドの事を説明しておこう。
冒険者ギルドは、それなりの規模の町にはほぼ設置してあり、冒険者の登録、管理、仕事の受注などが受けられる。
ただ、同じギルドと言っても、その所在地によって規模は違う。
今まで活動して来たオルタナの町に所属しているのは、十数人程度の冒険者しかいないが、ハノガナの街のような大きな都市だと、百人位は所属の冒険者がいる。
所属している町が違えば、依頼を受けられない訳ではなく、各地のギルドで登録を行えば自由に仕事を請け負う事ができる。
元々、冒険者には定住地の無い者も多く、その時々で所属を変えて行くのが当たり前でもある。
国内だけでなく、他国のギルドでの活動も、勿論、可能である。
やはり、いきなりの地下迷宮は、危険なようだ。
まずは旧市街での依頼を受け、慣れてから地下に向かうのが定番らしい。。
市街地での仕事も、自分達は未経験だ。
とりあえず、初心向けの旧市街を探索し、種類は問わずに魔獣を10匹討伐する依頼を受ける。
特に討伐する魔獣の指定はなく、旧市街を徘徊する奴を討伐するという内容だ。
すぐにでも出発したいが、まずは、街で装備を整える事にする。
ハノガナの街は、武器屋も防具屋も品揃えは良く店も大きい。
自分は鉄斧を手放し、柄の長い戦斧を購入した。価格は120シルバー。
キオウも手槍を手放し、より穂先のしっかりした戦槍を購入していた。
その他、戦斧を両手で扱う為に小型盾を手放し、籠手を購入し左腕に追加の手甲も買った。
これで盾代わりとする。
ナルルガは、武器は変えはしなかったが、魔法着を買い防御力を上げる事にした。
黒を基本色として、何色かの紋様の入ったコート風の魔法着だ。
かと言って、動きが制限される訳でもない。
街の新市街と旧市街をつなぐ石橋を渡り河を越える。
石橋を渡る時には、他の冒険者の姿も見えたが、旧市街に入ると自分達3人だけになった。
ギルドで貰った旧市街の地図を手掛かりに、廃墟の中を進む。
とりあえず、旧市街に幾つかある神殿の1つを目指す事にする。
神殿も廃墟となっているが、建物は大きく石造りなのでしっかりと形も残っており、何かしらの魔獣と遭遇する可能性があると思う。
市街地では、どこから敵が出て来るのか予想ができないので、自分が先頭を歩き、真ん中にナルルガを挟み、一番後ろをキオウが進む。
しばらくすると、建物の先に何か気配がある。
後ろに合図を送り、建物の影から先を伺う。
建物の間を一角鬼が4匹、まるで隊列でも組むよう一列になってこちらに進んで来る。
キオウ「一角鬼か。ちょっと物足りないな。」
「まあ、初回だから、あれでもいいさ。」
キオウと2人で一角鬼の一団に襲い掛かる。
後ろから援護で、ナルルガの火球が飛び過ぎる。
4匹の一角鬼を一瞬で葬った。
新しい武器の威力は、なかなかの物である。
一角鬼の遺骸を念の為に廃屋の中に隠し、先を進む。
神殿が近付いて来た。
その大きな屋根が、崩れかかった建物の間から見える。
あれから何匹かの一角鬼に出会ったが、難なく始末した。
物陰から神殿の様子を探る。
キオウ「表からは、解らないな。」
「これだけ建物が大きいと、中の様子も解らない。」
キオウ「中に入るしかないな。」
周囲も神殿の入口付近も、静まり返っている。
内部は、建物が大き過ぎて窺い知る事はできない。
足音を忍ばせて、神殿の入口に近付く。
入口近くには、様々なゴミが山のように積み重なっているが、真ん中は通路として使われているのかやや片付いている。
キオウ「何か、中に出入りしてるぞ。」
「一角鬼か?」
キオウ「多分、そんな奴らだ。」
神殿内部の探索をしてみる事にする。
内部は、所々から外の光が入っているのか、薄暗いが進むのに支障は無さそうだ。
屋内を調べてみよう。
通路もゴミが散らかっているが、進むのに支障はない。
ナルルガ「この中を行くの? ちょっと臭いよ。」
ナルルガは、余り先には進みたくないようだが。
まず、最初に入ったのは、かつては聖堂として使われていたであろう広い空間だった。
おそらくは、四主神の祭壇があったのだろう。
奥の一段高くなった場所に何か台座のような物が幾つかあるが、どれも崩れ落ちている。
旧市街に人が住んでいたのは、約150年程前までだそうだから、それ以降は放置されていたのだろう。
ここには、何も無いようなので、奥に進む。
聖堂の奥に続く、幾つかある通路の1つを選び進む。
奥に進むにつれて、何か獣のような刺激のある臭いが漂って来る。
以前の一角鬼の廃屋で、嗅いだ臭いにも似ている。
ナルルガ「うっ、酷い。これ以上になるなら、私、引き返すから。」
ナルルガは、少々お気に召さないようだ。
通路脇に並ぶ小部屋を、1つ1つ確認しながら進むと、ある部屋の中に何か気配がする。
部屋と言っても扉も無く、ただの空き部屋が続いているだけだ。
多くは、またゴミやガラクタが散乱していたが、この部屋には何かがいるようだ。
ガサガサと音が聞こえる、その部屋をそっと覗き込む。
中には、人型の何か生き物がいた。
大きさは人の背丈としても、やや高い方であろう。
茶色の半裸で腰に獣の毛皮をまとったその生き物が2匹、部屋の中で何かをしている。
大食い鬼と呼ばれる魔獣の一種だ。
一角鬼よりも大きく、力も強いが知能は同じ位だ。
大食漢で、人里にもよく出て来て家畜や人を攫う。
攫われたモノは、そのまま奴らの食料となる。
なかなかに凶暴な相手だ。
ナルルガ「私、ああいうの嫌い。」
キオウとは別々の相手にそれぞれ飛び掛かり、一撃を加える。
奇襲は成功したが、流石に一撃では倒せない。
手傷は負ったが、近くに置いてあった棍棒を持ち上げ反撃して来る。
怪力任せに振り回される棍棒を避け、こちらも攻撃を加える。
避けた棍棒が、「ブン」と空を切る。
力はあるが大振りなので、振り切った隙を付いて反撃を加える。
大食い鬼の脇、腕、胴を切り付けて行く。
戦斧で肉も骨も砕く。
新しい武器の威力は、なかなかの物である。
いつしか、大食い鬼の動きも止まった。
キオウも同じく、止めを刺していた。
次の獲物を求め通路の奥を進む。
先程の戦闘の音を聞き付けてか、何かがこちらへ向かって来る。
足音がどすどすと響いて来る。
また、大食い鬼だ。
今度はナルルガの火球が通路を飛んで行く。
真っすぐ伸びる通路では火球は避けがたい。
通路の向かい側にいる3匹の大食い鬼に1発2発と火球が当たって行く。
石造りの神殿ならば火災になる事はあるまい。
後で、水魔法を念の為に使っておこう。
大食い鬼の動きが、ほぼ無くなったので止めを刺しに飛び掛かる。
左右の部屋の確認を取りながら進めば、囲まれる事も無く理想的な戦いだ。
やがて神殿も行き止まりになったので、引き返す事にする。
キオウ「もう、この中には、何もいないみたいだな。」
「ああ、それにしても、新しい武器の威力が凄い。」
キオウ「俺の槍も少し重くなったけど、その分、切れ味もいい。」
帰りは何物にも接する事も無く、神殿を後にする。
とりあえず、討伐数に達したので帰り道は行きと違う道を通り石橋を目指す。
途中、一角鬼を3匹倒し、ハノガナの街での初仕事を終える。
報酬は、一角鬼9匹と大食い鬼5匹で、100シルバーに追加の20シルバーを得た。
一人40シルバーの報酬だ。
ハノガナの街でギルドから紹介された宿、「赤い牛」に泊まる。
3等部屋で40シルバーであった。
大都市の物価は高い。
翌日からも旧市街で幾度かの依頼をこなして、ハノガナの街の環境に馴染むようにした。
そして、地下迷宮へと乗り出そうと思うのだが、まだ足が重い。
ギルドの受付ヘルガに相談してみる。
ヘルガ「そうですか、地下迷宮へ行きたいと。良かったら、案内してくれる人がいますよ。」
現れたのは獣人の男で、名前はマグル。
ヘルガ「彼は、私の従弟なんですが、迷宮での活動経験も充分にあります。」
職業はスカウトで、偵察や探知を得意とする職で斥候士とも呼ばれる。
中には、裏で盗賊をやっている者もいるらしいが、ギルドの受付嬢の身内ならば大丈夫であろう。
マグルのレベルは、20だという。
マグル「よろしく。そんなに固くならないでくれよ。オレもそんなに経験が長い訳でもないから。ただ、迷宮にはちょっとは詳しいぜ。」
陽気で、気さくな人物であようだ。
報酬は、1日に付き1ゴールドで案内を請け負ってくれる事になる。
その分、報酬の多い依頼をこなす必要がある。
新旧市街を隔てる石橋を渡り、地下迷宮の入口を目指す。
地下迷宮は、旧市街の地下水道や地下室、鉱物の採掘抗の名残らしい。
それらが入り組んで、迷宮と化している。
旧市街の外にも通じる出入り口もあり、今は魔獣も徘徊するようになっているのだとか。
マグルは約1年前に冒険者となり、様々な冒険者と組んで何度も地下迷宮には入っているらしい。
地下は魔獣もいるが、隠された財宝もあるようだが上層部はあらかた見付けられているそうだ。
深層部には誰も達していない場所もあり、そこにはまだ期待もあるようだ。
ただ、階層が深くなるにつれ魔獣も強力な物がいるそうだ。
その深層部は、誰が作ったのか、自然の物なのか解らないと言う。
入口に到着した。
マグル「地下迷宮の入口も、旧市街に何カ所もある。けれど、場所によって難易度も変わるから、初心者にはここから入るのがお勧めさ。」
マグルが先頭に立ち、小型のランタンを左手に持ち進む。
マグル「これは、魔法のランタンだよ。迷宮では重宝するから、パーティーで幾つか買うといい。」
灯りの正面に小さな扉が付いており、それで光量も調節できるそうだ。
火を使わないので、熱くもならない。
入口は、地下道に続く石の階段である。
中は暗く、ランタンの灯りが20m程先を照らしている。
初めての地下迷宮は、緊張する。
マグルに続いて自分、ナルルガ、キオウの順に一列で進む。
地下は地上よりも、ややひんやりと涼しい。
長年手入れはされていないので、入り込んだ土の臭いがする。
雨水が所々溜まっていて、湿気た臭いもする。
ナルルガ「何か、かび臭いわね。」
ナルルガが鼻を抑えている。
今回は、地下迷宮の下見のつもりで、鉱石の採掘依頼を受けて来た。
採掘場で、何種類かの鉱石の塊を採掘する。
一人に付き20個も掘り出せれば依頼の個数以上を確保でき、マグルへの報酬も支払いも充分にできるはずだ。
鉱石は、武具や道具の素材となるらしい。
地下道をしばらく進んでいると、人工的な壁から岩をくり抜いたような場所に来た。
ここからが採掘場になるらしい。
所々を掘り返したような穴が幾つもある。
マグル「この辺りがいいだろう。」
周囲を警戒しつつ、採掘を始める。
鉱石は、マグルが教えてくれるのもあるが、久し振りに自分の土質鑑定の技能が役だった。
黒鉄鉱、青鉄鉱、赤鉄鉱、黄鉄鉱、それぞれが違った金属の材料となり、適した武具や道具の材料になるようだが、詳しい事は専門ではないので解らない。
全員の背嚢に20個以上も詰め込んで帰路に付く事にする。
途中、大ネズミの仲間である穴ネズミの襲撃を受けたが、難無く撃退する。
荷物も重いが出来る限り急いで移動する。
ギルドに戻って来た。
依頼の報酬が追加分と穴ネズミの討伐をを含めて350シルバーになった。
マグルの報酬を差し引いて一人66シルバーの分配とした。