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第1話「草原のただ中」

 ふと気付くと、その場にいた。

見渡す限りの草原のただ中である。

何故に、自分がその場にいるのか記憶にはない。

ただ、踝の少し上くらいの長さの草が広がっている場所にいる。

太陽がほぼ真上にあるが、今は昼頃なのだろうか?

周囲を見ると、草原の中にある道の真ん中に立っている事に気付く。

幾人もの人が長い年月を掛けて踏み固めたような土の道が前後に伸びている。

周囲には自分一人しかいない。

(どうしたもんだかな?)

とりあえず、自分が向いている方角に歩き始める。


しばらく進んでいると、何か見えて来る。

道の先に、木の道しるべのような物が立っている。

近付いてみると、道が前方と左右に別れておりそれぞれの方向を指し示している。

道しるべに書かれた文字を見てみるが、意味が解らない。

(これ、何て書いてあるんだ?)

だが、解らないながら眺めていると、頭の中にぼんやり意味が浮かんで来る。

前方には「ハノガナの街8km」

右側には「オルタナの町3km」

左側には「ナスマの町5km」

そして、後ろ側には「ニナサの村10km」

こう読めた。

何故、最初は読めなかった文字が理解できるようになったのかは解らないが、一番近くのオルタナの町へと向かう事にする。

(とりあえず、人がいそうな場所へ行ってみるかな?)

街と町の違いは規模の違いなのだろうか?


分かれ道から歩き始めてからしばらくすると周囲の風景が変わった。

道の左右に畑が広がり、人の生活が見えて来る。

畑では幾人かの農夫が働いているが、こちらを気に留めるでもなく黙々と農作業を続けている。

(ああ、やっと人がいた。)

そのまま道なりに歩き続けていると、何時しか一人の農夫と同じ方向に歩いていた。

日焼けした中年の農夫は肩に農具を担ぎ土と汗に汚れた顔を向け話し掛けて来る。

「〇×△〇□、〇〇□」

(えっと、何? このおじさん、何を喋っているのか?)

またしても言葉が解らず、黙って彼の話を聞いていると頭の中に意味が入って来る。

「お前さん、どこから来なすったかな?」

「えっ、ニナサの村の方から」

「ああ、ニナサか~。儂もたまに野菜を売りに行くよ。」

農夫の納得にしたように頷いていた。

2人で歩いていると、オルタナの町並みが見えて来る。


同行して来た農夫と別れ、町中に進む。

「それじゃあな、兄さん。」

それなりに揃った町のようで、様々な店も並び行きかう人も多い。

「よう、サダじゃないか」

不意に誰かに声を掛けられる。

(サダ?)誰の事かと思いながら、声の方向を向くと一人の若い男が親しげに話し掛けていた。

「サダ」、ああ自分はそんな名前だったと思いながら、その若い男の顔を見ていると「トルド」という名前が浮かんで来た。

こいつは、ニナサで一緒に育った友人のトルドだった。

少々混乱しながら向き合っていると、こちらの事などお構いなしにトルドは話し続ける。

「サダ、あれからどこに行っていたんだ? 村のみんなも心配していたんだぜ。」

彼の話によるとこうだ、今から2年前に自分の家族は、村の近くの森で正体不明の魔獣に襲われたらしい。

その時に母親と父親は亡くなり遺体が見付かったが、自分だけは痕跡も無く消えたらしい。

村人総出で行方を探したが何も手掛かりは無く、その内に魔獣に食べられたと思われてしまったようだ。


「まあ、無事だったら良いが、村のみんなもお前に会いたがっていると思うぞ。」

トルドと話していると、頭の中に記憶が蘇って来る。

村の様子や両親の事、自分が農家の生まれでその日は森に薪を採りに家族で行った事。

ただ、魔獣の記憶だけは無い。

そんな記憶が自分の頭の中に上書きされて行くように蘇り、まるで別人になって行く気がする。

別人になって行くとは、どんな意味なのだろうか?

自分は、サダではないのか?

「今までどうしていたんだ? これからどうするのか?」

2年は経ったらしいが、その間の記憶も無い。

どうやら村には、もう自分の家も畑も無いらしい。

これからの事をどうしようかと考えていると、トルドの口から一言漏れる。


「冒険者でもしていたのか?」

冒険者という言葉には聞き覚えがあったが、よく解らない。

トルドから聞き出した言葉をまとめると、こうなる。

この世界には冒険者という職業があり、ギルドに属す事により身分が保証され様々な仕事が得られるという。

冒険者は様々な土地を巡りながら、仕事を請け負うらしい。

家も畑も無いならば、冒険者になるのも良い。

村に帰るというトルドと別れ、冒険者ギルドに登録しに行く事にする。

「じゃあな、トルド。またな。」

「おう、サダも元気でな。」

冒険者か~まるでゲームだ。

ところで、ゲームって何の事だろうか?


 町の中ほどに、その石造りの建物はあった。

他の建物に比べて倍はある「冒険者ギルド」と書かれたその扉を開けた。

建物の中には、広い部屋に幾つかのテーブルと椅子が並び、訪れた人がくつろげるようになっているようだが、今は誰も休んではいない。

入口の向かいにはカウンターがあり、中に若い女性と中年の男がいた。

「冒険者ギルドに、何か御用ですか?」

若い女性から声を掛けられる。

中年の男はやや目を細めて、こちらを見定めるような視線を送って来る。

男には構わず、カウンターに近付き女性と話し始める。

「ギルドへの登録がお望みですね? では、登録料として1ゴールドが必要です。」

1ゴールドとは、通貨の単位で金貨1枚という事だ。

ちなみに、1ゴールド=100シルバーとなる。

そんな知識も、何時の間にか得たらしい。

金は持っていたかと懐を探すと、幾らか入った革袋が見付かった。

中身を確認すると60シルバーが入っていた。

「あれ? 他はどうだ?」

他にも探してみたが、手持ちは、それしか無かった。


カウンターの女性が、気まずそうに話し掛けて来る。

「登録料には、少し足りないようですね。もしも、何かの職業や技能があるならば、まずはそれで稼いでから登録してはどうでしょうか?」

そう言うと彼女は、カウンターの裏から30cm程の大きさの長方形の石板を出して来た。

「左右どちらの手でも良いので、このボードの上に置いてください。」

言われるままに、右手をボードの上に置いてみる。

すると、ボードが僅かに光を発し、黒い表面に文字が浮かび出て来る。


「農夫Lv.3」

「水魔法Lv.1」

「腕力+1」

「土質鑑定+1」

「植物鑑定+1」


「農夫さんですね。技能も農業向きで水属性魔法も使えるようですね。ならば、農家で働いてみてはどうでしょうか? 働き先もこちらのギルドで紹介は可能です。」

住む場所も無いので、住み込みで働ける農家を紹介して貰う事にする。

それと、魔法の使い方が解らないので、聞いてみた。

「魔法ですか? それでは付いて来てください。」

彼女に促され、ギルドの裏口から中庭に出る。


中庭に彼女が、両腕で抱えられる位の桶を置く。

「まずは、水をイメージしてください。そして手の先からその水をこの桶に移すように思い浮かべてください。」

言われるまま、水のイメージを体の前に着き出した両手の間に作るようにしてみる。

「水は液体ですから、それを受け止めるイメージで」

彼女から更なるアドバイスを受け、目を瞑ってイメージを浮かべる。

(水、水、水、う~ん)

しばらく唸り声をあげながらイメージしていると、何やら指先に水の感触が生まれる。

感触がやがてぼたぼたと、水の流れに変わり桶に流れ落ちて行く。

目を開けてみると、間違いなく桶に水が少しは溜まっていた。

「やった、水が出た!」

何度か試してみたが、バケツ半分位の水を、念じる事によって生み出せるようだ。

これが、冒険にどの程度役に立つのかは解らないが、農作業にはもってこいだろう。

それに、冒険中の飲料水には困らないかもしれない。

「水属性の魔法の使い方の基本はこれです。あとは、水でどのような事をしたいのか、更にイメージを広げて行きます。容器を水で満たしたり、遠く離れた所に、塊を飛ばす事もできるようになるでしょう。」

冒険者ギルドを出て、紹介された農家に向かう。

賃金は1日に5シルバー、登録料以外にも装備などを揃える事を考えると200シルバーは最低でも必要になりそうだ。

多少は、余裕を持てる程に働いてから、ギルドで登録しようと決めた。


 翌日から、農家での生活が始まる。

そこはヤスタという中年の男の農家で、サヤという妻とノニという幼子がいた。

朝から夕方まで、畑仕事が続く。

畑では、主に小麦やイモを育て、季節に合せて数種類の野菜も育てている。

ヤスタ夫婦は、親切だった。

潜り込んだ自分を実の息子のように扱い、ノニも兄ができたように懐いてくれた。

畑での仕事は楽ではないが、どうやら体に染みついているようで、辛くはなかった。

畑仕事をしていると、両親の事もよく思い出した。

物心が付き始めてから、両親と畑に出掛けたものだった。

最初は、畑の周辺が遊び場だった。

それが少しづつ畑仕事を手伝うようになり、母の代わりに働けるようになると、母は家での作業が増えた。

畑にいると、何故か父の気持ちや母の気持ちも解かるようになった。

息子であるサダへの愛情や、成長して行く様の頼もしさなど。

それは、何故だか解らない。

両親の自分への思いなどが、何故か記憶の一部として畑にいる時には感じられるのだ。

(父さんと母さんは、もうこの世にはいないのかな?)

そう思うと、寂しさがこみ上げて来る。

自分は1人になってしまったのか。


畑の仕事は、技能の影響なのか土や作物の事もよく解かる上に、力仕事も楽にこなせる。

水の魔法も最初は単なる水やり程度しかできなかったのが、水の塊を離れた所まで飛ばせるようになる。

ただ、飛ばす加減を調節しないと破壊にしかならない。

畑に穴を開ける事もあれば、土汚れを落としてやろうとして隣の農夫を気絶させた事もあった。

単調な生活ではあるが、仕事と家庭の温かみを感じる穏やかな時間が過ぎ、気が付けば60日余りが経過していた。

農家暮らしも悪くない。

だが、そろそろ農家での生活から抜け出す事にしよう。

読んで頂きありがとうございます。

本文には関係ありませんが、一言ご挨拶をさせて頂きます。

本作は、私が何十年振りかに書いた作品であり、そして人目に触れる物としては2作目となります。

正直、小説のような物の書き方がよく解りません。

投稿を始める約半年前から書き溜めていましたが、余り順調にも書けていませんでした。


本作は、ある意味で転生物ではあります。

ただ、普通の転生物で異世界を舞台にするには、先行する他作品との差別化もできずに、それなりに工夫をしているつもりもあります。

また、チート的な超能力などは主人公らには持たせず、ゆっくり階段を一段一段登らせて行こうと思います。

女性キャラもそれなりに登場しますが、ハーレム物にはなりません。

どちらかと言えば、地味なファンタジー物になるかと。

それと、できるだけカタカナを使わずの日本語で表現できればと思っています。

その為にあえて、モンスターらも名称だけ独自の物にします。

これは、あれかなと思い読み進めていただけると嬉しいです。


最後に、本作や次回作を読んでいただけると大変嬉しいです。

ここに書いて良いのか解りませんが、同名で18禁の作品も投稿していますので、興味のある方、18歳以上の方は、そちらも目にして頂けると幸いであります。

今後ともよろしくお願いします。

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[一言] いや、小説なら段落分けぐらいしようよ…
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