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8.後悔

「意気地なし」


 シャロンは悪魔のような表情で、この状況を心の底から楽しんでいるようだった。それとは対照的に、スペンスはがっくりとうなだれている。


「……うるさいな」


 シャロンはご機嫌だった。大好きなフローレアが、シャロンの裁縫の腕を褒めていたこと、彼女の力作を大変気に入って、その場で新しい帽子に付けていたことを話したからだ。


「……ところでシャロン、お前その頬の傷はどうしたんだ」


 見ると、右頬に赤く線を引いたような切り傷が出来ている。


「ああ、馬から落ちたのよ」


 シャロンはなんでもない風に言うが、馬に乗ることは父と母から止められている。


「また父と母に内緒で馬に乗ったのか……他に怪我はないか?」


「平気よ。止まっている馬から落ちたの、少しバランスを崩しただけよ」


 シャロンはスペンスによく似ている。女性にしては背もすらりと高いし、人形みたいに整った顔立ちもよく似ている。彼女は総じて、昔から同性に"王子様"扱いされてきたため、どうも"王女"という自覚が薄い。むしろ、頑なにスペンスと張り合おうとしている。馬に剣術、フローレアまで。


「ほどほどにしておけよ、顔に傷が残ったらどうする。お前は裁縫を極めればいい」


「意気地なしのお兄様は黙っていてくださいな」


 しばらくは、"意気地なし"と揶揄われるようだ。なんと反論しようと、口喧嘩で妹には勝てない。スペンスは甘んじて受け入れることにした。


「フローレアは"嬉しい"と言ってくれたのでしょう?」


「優しい人間はみんなそう言うのさ」


 天使のようだと称されるスペンスが、今では見る影もないほど落ち込んで卑屈になっている。

 兄にこんな表情をさせるのはフローレアくらいだと、シャロンはこっそり感心していた。そして、"さりげなく"とはいえ、兄の求婚を一蹴してしまうとは、さすがフローレアだ。


「……フローレアに、もっと本気で求婚しなくてはダメ。他の男性に奪われてもいいの?」


「マルセルは……」


「マルセルさんのことじゃないわ」


 どうも兄は、恋敵はマルセル一択だと思っている節がある。確かにマルセルは強力な恋敵のように思えるかもしれないが、二人を見ていたら分かる。あれは、兄弟のような熱い友情だ。シャロンが少し嫉妬してしまうほどの、固い絆で結ばれている。


「彼女はアンバーウッド家の長女よ、縁談話も来るだろうし……」


 シャロンはいつになく真剣な様子だった。


「何より、フローレアは魅力的だわ。美しいし、話していてとても心地がいいの。お兄様にも縁談話がいくつかきているでしょう、覚悟を決めてくださいな」


 私はフローレアにお義姉さんになってほしい。その為には、兄にもう少し頑張ってもらわなくてはいけない。


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