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4.恋心

 スペンスは悩んでいた、フローレアのことだ。


 彼女は魅力的な女性で、一緒にいると楽しい。年頃で気難しい妹とも仲良くしていて、いつも良くしてくれる。

 美しくて聡明で、家柄もいい。彼女の欠点を探そうとどんなに探っても、きっと見つからないだろう。


 父からは、結婚についてずっとせっつかれている。自分としては、まだもう少し先でもいいと思っているのだが、一国を治める者として心配しているのだろう。せめて、将来を考えている相手がいると紹介できれば、父も安心するかもしれない。


 できることなら、フローレアに自分の思いを伝えたい。そして、彼女を家族に紹介したい。


 しかし、フローレアは恐らく、親友のマルセルに気があるのではないかとスペンスは考えていた。


 マルセルとフローレアは昔からの友人だ。二人はお互いにまだよちよち歩きをしていた頃から知っていたらしい。


 マルセルは照れ屋で女性と上手く話すことが出来ない。その所為で、無口で無愛想な人間性だと誤解されることも多い。

 もちろん、そんな所が男らしくて素敵だという女性も多いが。そんなマルセルが、唯一フローレアとはよく話し、よく笑うのだ。スペンスでさえ見たことがないくらい、フローレアと一緒にいる彼はくるくると目まぐるしく表情を変える。

 彼女は天性の聞き上手だし、優しくてユーモアもある。だが、理由はそれだけではないだろう。二人の間の友情の深さと、信頼関係がそうさせている。気の置けない関係性なのだろう、見せつけられるたびに胸が痛むこともあった。


 それに、スペンスがマルセルの話をすると彼女は決まって頬を染める。


 二人のことをもっと聞かせて、と天使のような深い声で囁く。最初は、つまらない話を女性に聞かせるのは申し訳ないと気が引けた。例えば、川でどちらの石が遠くまで飛んだか勝負をしたことや、異国の地で二人で食べた朝食の話。「つまらないだろ」というと、彼女は首を横に振って、可愛らしい目を細めて優しく笑った。楽しいわ、続きを聞かせて。


 もしかしたら、マルセルのことをもっと知りたいのかもしれない。


 マルセルはどう思っているのだろう、今度話をしてみないといけない。フローレアのことは好きだけど、マルセルのことも大切に思っている。失いたくない。


 どちらも失いたくない、それは贅沢な話なのだろうか。


 テーブルの上には、フローレアのためにシャロンが丁寧に仕上げた帽子の飾りが置いてある。彼女の瞳に合わせたサファイアを基調としていて、大きなリボンとレースがあしらわれている。


 彼女の優しく揺れる青い瞳を思い出して、スペンスは深く溜息を吐いた。


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