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3.親友

「おかえり、スペンス」


「なんだ、まだ寝てるのかと思ったよ」


 屋敷に帰ると、マルセルはすでに身支度を整え、ゆったりとコンソメスープを飲んでいた。いい香りがしている。


「ああ、これアーニャが用意してくれたんだ」


 マルセルはスープを一口啜って美味い、と呟いた。まるで家族だな、とスペンスは思った。


 幼い頃から一緒にいるため、ヴァーレイ家の使用人であるアーニャはマルセルのことも、スペンス同様に息子のように可愛がってくれている。


「フローレアには会えたのか」


「ああ、朝は帽子を新調するのに町へ行っていたらしい」


「じゃあ、ちょうど良かったな」


「……?」


 何のことだ、とでも言うようにスペンスは不思議そうな表情でマルセルを見つめている。


「おいおい、スペンス。フローレアの所には帽子へ付ける飾りを渡しにいったんだろう? シャロンから預かってたって言う……」


 ああ、情けない。すっかり失念していた。昨夜妹のシャロンから、フローレアに渡して欲しいと預かっていたのだ。スペンスは、頭を抱えた。

 妹のシャロンは、フローレアととても仲が良い。シャロンは口癖のように「フローレアみたいな姉が欲しい」と言う。フローレアもフローレアで「シャロンみたいな可愛い妹が欲しい」と言っている。二人は本当の姉妹のようだった。


 それはとても微笑ましく、スペンスはふっと暖かい気持ちになった。


 だが、ほっこりしている場合ではない。シャロンは兄であるスペンスには遠慮がなく攻撃的だ。フローレアと会ったにも関わらず、まだ用事を済ませていないことがバレたらどうなることか。


「……まずいな」


「まずいな、シャロン怒るぞ。というか、スペンスは何しにフローレアの家に行ったんだ、まったく……」


 マルセルは呆れたように笑った。彼の言う通りだ。


「つい……話に夢中になってしまったんだよ。彼女、聞き上手だろ」


 マルセルは手元にあった本を適当にパラパラとめくっていたが、その言葉に手を止めて、スペンスの目を真っ直ぐに見て心配そうに訊ねた。


「……そうだな、どんな話をしたんだ? 」


「ほとんどマルセルの話だよ。今は私のベッドで眠っていると言ったら、穏やかに笑ってくれた。私の、つい長くなってしまう石への情熱も、彼女は健気に聞いてくれる」


 可憐だ、そう呟いてスペンスは頬を染めている。


「他の誰より、私の話を聞いてくれる」


 それを見たマルセルは深く溜息をついた。


 彼女は確かにお前の話を健気に、それにうっとりとした表情で聞いてくれるだろう。だが、それはスペンスが思うような純粋な心からではない。


 彼はフローレアのことを純真無垢、天真爛漫な女性だと信じているようだ。


 女って怖い、マルセルの苦い表情を見てスペンスは慌てて付け加えた。マルセルが"他の誰より"と言ったことに、嫉妬したと勘違いしているようだ。茶目っ気たっぷりに笑っている。


「あくまで女性では、という意味だ」


 太陽の光を存分に受けた眩しい海のように澄んだ色の瞳を輝かせて、にっこりと笑って見せた。


「マルセル、お前は特別だ」


 顔が良い、そしてこのパワーワード。


 フローレアの力説する通り、スペンスはとにかく顔がいい。そして、いつも穏やかで柔らかい空気を纏っている。まるで天使のようだ、癒される。


……この表現は、フローレアに毒されている証拠だな。


 この天然人たらしめ、と友の美しい笑顔を見ていた。


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