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2.秘密

「やあ、フローレア」


「スペンス王子」


 相変わらず優しい笑顔で、ゆったりとした話し方をする。窓から差し込む光も、彼の為だけに射しているように見える。


「今朝はどこにいたの? 君の家に行ったら不在だと言われてしまったよ」


 今朝……ということは、あれは私の家から帰る途中だったのか。手間取らせて悪いことをしたと申し訳なく思うのと同時に、お陰で彼の外行きの王子様スマイルを見られたことを神に感謝した。


「あら、そうだったの。帽子を新調したくて町に出ていたのよ」


「ああ、風で飛んでしまったんだったね。マルセルが話していたよ」


 マルセル、という単語に思わずビクッと体を揺らしてしまう。意識してはいけないと思いながらも、頬が紅潮していくのがわかる。


「マルセルが? 」


 喜びに、思わず声が震えてしまう。


「ああ、昨日も私の家に来て楽しそうに話していたよ」


「……マルセル、また貴方の家にお邪魔していたのね」


「ああ、昨夜は家に泊まったんだ。多分まだ私のベッドで寝ているよ」


 ……なんですって?


 とんでもないパワーワードに眩暈がした。マルセルがスペンスの家に泊まるのは珍しいことではない。よくあることだが、これは素晴らしい宝庫だ。大抵、胸を熱くさせるようなエピソードが、二、三、いや今回はおそらく五はある。

 だって、スペンス王子のベッドで寝ているのよ。もしかしたら、今も。


「まあ、楽しそうね」


「楽しいよ、マルセルは可愛い」


 マルセルはフローレアの幼馴染でもある。到底"可愛い"タイプではない。

 背が高く、体格もがっしりとしている。赤みがかった髪に、鋭い目つき。一見とっつきにくそうな無骨な男だ。

 口下手だが、顔立ちが整っているので女性からの人気ももちろんあるのだが、それ以上に同性からの支持が厚い。スペンスに至っては、マルセルに全幅の信頼を寄せているようだった。

 二人は兄弟以上のような関係だという。ぽろりとスペンスが言っていたのだが、フローレアはその言葉を、宝物のように胸に仕舞っていた。忘れてしまわないように秘密の日記にも、もちろん記してある。


「どんなことをしたの?」


「どんなって……そうだな、マルセルが用事があって隣町にまで行っていたようなんだが、その時に綺麗な石があったとかで持ってきてくれたんだ。見るかい?」


 それは、真っ白で象牙のように美しい石だった。まるで、スペンス王子に触れてもらう為に生まれてきたようだ。


「マルセルは剣の飾りにでもしたらどうだと言うが、なんだか手を加えてしまうのも惜しくてね。こうして持っているんだ……綺麗だろう? マルセルは私の好きなものを本当によく知っている」


 ここなんてほら、すべすべしている。と言って大事そうに触れていた石を触らせてくれる。


 こんな尊いものに触れてもいいのかしら……。フローレアは二人の結晶のような美しい石にそっと触れた。


 スペンスは、昔から綺麗な石が好きだった。川で遊んでいると、よく熱心に探していた。

 マルセルに張り合う訳ではないが、そのことはフローレアだって知っている。重要なのはそこじゃない。


 マルセルは、どんな石をスペンスが求めているかをわかっているのだ。


 しかも、スペンスが常に持ち歩いている剣の飾りにして欲しいだなんて……。


 情熱的だわ、フローレアはあまりの感激に震える胸を押さえた。


「素敵ね、運命的な石が見つかったのね」


 少し大袈裟な言い回しをしてしまったことに後悔したが、スペンスは照れ臭そうに笑った。


「ああ、私の為に探してくれたらしい」



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