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オンラインゲームのNPCが自我を持った物語

掲載日:2021/08/30

俺はヨウヘイ。元の名前は「強そうな傭兵」ってNPCキャラで、喋ることと言えば「町の外には手強い魔物がうようよ居るぜ」だけだったんだが、ゲームの不具合か、神のイタズラか、自我を持ってしまった。

この世界は【英雄聖戦】と呼ばれるオンラインゲームの中の世界で、広大なマップで魔物を倒したり、魔獣を狩ったり、町の闘技場でプレイヤーのアバター同士で競い合ったりする・・・らしい。

自分にはこの世界はリアルでしか無いのだが、ゲームの中の世界ということも、ちゃんと分かっている。何だか奇妙な感覚だ。ちなみにプレイヤー達の世界のことはよく分からない。

こうして自我を持ったことで、何が一番変わったかというと、自分もプレイヤーの様にクエストを受けたり、ギルドに入ったり結成したり出来るようになったことである。

出来る事はやってみたくなる。流石に自分がNPCということは自覚しており、自分でギルドを作るのは気が引けたのでしなかったが、とりあえず【セイントソルジャーズ】というギルドに入ることにした。

戦いはプレイヤーにとっては遊びでも、自分にとっては生死をかけた戦いである。一度死んでしまえば甦れるという保証は無い。だからこそ燃えるわけだが。

俺はギルドメンバーとして力を振るった。レベルを上げ、スキルを獲得し、強くなった俺はサブリーダーを任されるようになった。

大勢の仲間と強敵の魔獣を狩ったり、他のギルドとの戦いは胸踊り、自分が自我を持ったことに喜びを感じることが出来た。

「お疲れ様です♪」

魔獣の討伐クエストの終わりにギルドメンバーの一人に話し掛けられた。彼女の名前はセイコさん。ウチのギルドの回復担当のヒーラーさんだ。白いローブを着た桃色の髪に紅い目の美少女で、俺も危ないところを何度も助けられた。

「セイコさんお疲れ様です。今日も助かりました。」

「いえいえ、ヨウヘイさんの活躍には及びませんよ。今日も一回も落ちないでクエスト終えるとか驚異的過ぎます。本当にお上手ですよね。」

「いやぁ、たまたまですよ。」

死なない様に必死にやってます!!とか絶対に言わないようにしないと、変な奴だと思われる。

このあと、セイコさんとはよく喋るようになり、仲良くなった。

彼女は世話焼きで、よく気が付く人で、こういう人を伴侶にできたら・・・っと、よそう。彼女とは住む世界が違うのだから。

俺が【セイントソルジャーズ】に入ってから2年程過ぎた。最初は向こうの世界の話を振られて四苦八苦してたが、交流を深めている内に、上手く合わせることが出来るようになって来た。向こうの世界の俺は筋トレを趣味とし、株の売買で生計を立てているという架空の人物像を作り上げた。情報を少しずつ集め、慎重に慎重を重ねた自慢の嘘である。

ヨウヘイさんはリア充なんですね。とよく言われるが、意味は分からない。

「ヨウヘイさん、お疲れ様です♪」

クエスト終わりにセイコさん声をかけられた。

それ自体は珍しいことではないのだが、「ベンチで少しお話しましょう」と言われた。改まって何だろう?少しばかり期待してしまう・・・いや、そんなバカな。だがそんなバカなが現実となった。

「ヨウヘイさん・・・私達結婚しませんか!?」

「えっ!?」

まさかの提案に驚きを隠せない俺。自我のない頃の様な無表情が出来れば良いんだが。

「ど、どういうことですか?」

「ふふっ♪現実じゃないですよ♪このゲーム上での話です。ほらっ、結婚したら色々アイテムも貰えますし、夫婦限定クエストにも行けるようになりますし。」

現実じゃないと言われても、俺にとっては現実だ。結婚というのは重大問題である。

「誰でも良いってわけじゃ無いんですよ。ヨウヘイさんだから結婚したいんです。駄目ですか?」

嬉しいことを言ってくれる。だが次に彼女はこう語り始めた。

「私、現実だと二十歳過ぎても引き籠もりで、少し太ってるし、髪もボサボサで、親に凄い迷惑掛けてるし、夢も希望も無いんです。だからこのゲームぐらいでは良い思いしたくて、というか今はこのゲームが私の全てでして・・・って、ごめんなさい。私の身の上なんて、聞いても楽しく無いですよね。」

セイコさんは始めて自分の身の上を話してくれた。それ程まで俺に心を許してくれているのは嬉しい。だから俺は誠心誠意、彼女の為を想った言葉を口にした。

「君はこのゲームをやめるべきだ。」

「・・・えっ?」

彼女はショックを受けた様だ。画面の前の彼女も同じ顔をしているのだろうか?

心が少し痛むが、他では無い彼女の為だ、仕方ない。

「ゲームは遊び、入れ込み過ぎてはいけない。人は自分の生まれた世界で一生懸命生きなければならない。現実に目をつぶり、偽りの世界に生きることは虚しいことだと思う。」

偉そうに、綺麗事のような言葉を冷たく並べた。けれどこれが彼女の為になると信じている。

「・・・て、手厳しいんですね。ヨウヘイさん。確かに私は逃げてます。ぐうの音も出ないです・・・困ったな。」

本当に困った様に笑うセイコさん。現実の彼女はもしかしたら泣いているかもしれない。ここで腹を立てないのは彼女らしい。本当にセイコさんは優しいのだ。だからこそ幸せになって欲しい。

「セイコさん、アナタは現実で幸せになれる。俺が保証する。」

こんなに優しい人が自分の人生を諦めてしまうなんて、そんな甲斐の無い話があってたまるか。

「そ、そんなの急に言われても・・・」

それもそうだ。こんなNPCごときが何を偉そうに言っているのかと、自分でも呆れてしまう。それでも、それでも・・・。

「でも、こんな風に後押しされたのは初めてです。家族も私のことは腫れ物扱いなので、戸惑いましたが、正直嬉しいです。・・・少し考えてみます。暫くここには来ないかもしれません。皆にも言っておいてください。」

「・・・はい。差し出がましいことを言って申し訳ない。」

彼女は無言で、無理に笑って手を振りながらログアウトした。

それ以来、セイコさんを俺がこの世界で見掛けることはなくなった。

無責任に俺は一人の女性の人生を歪めてしまったのだろうか?

それは今となっては分からない。



〜10年後〜

雪が降り、町中のメッセージボードには【英雄聖戦】に対するプレイヤー達の様々なメッセージが書かれている。

俺はベンチに座り、もの思いに耽っている。

この世界は、あと十数分で消えてなくなる。どうやらオンラインサービスの終了ということらしい。

ここ数年でめっきりプレイヤーの数も減り、この世界の活気は目に見える形で無くなっていた。

それでサービス終了である。【セイントソルジャーズ】はこの前、盛大に解散パーティーを開いた。ランキング一位まで登りつめたギルドだ。運営からも感謝のメッセージが来て、ギルドメンバー達の皆は笑っていた。パーティー中、俺はこのギルドで起こった出来事を思い出し、感慨に浸っていた。こんなNPCの俺に居場所をくれた皆には感謝してもし切れない。

ここが無くなっても皆には帰る場所がある。しかし、俺にはここ以外に居場所など無いのだ。この世界が消える=俺も一緒に消える。消えることは不思議と怖くない。あるのは充実感だけである。ギルドメンバーの仲間がふとした時に俺を思い出してくれる時もあるかもしれない。そうなれば嬉しいな。

一つ気がかりなことがあるとすれば・・・

「こんにちは。ヨウヘイさんですよね?」

聞き覚えのある懐かしい声、声のした方を向くと、懐かしい人がそこには居た。

「セ、セイコさん。」

前と変わらぬ姿の彼女がそこには居た。

「隣、良いですか?」

「・・・どうぞ。」

色々と思うところはあったが、世界の終わりに彼女と話が出来るだなんて、神様も粋な計らいをする。

「お久しぶりです。ヨウヘイさん。【英雄聖戦】のサービスが終わると聞いて、もしかしたらヨウヘイさんに会えるかと思って、10年ぶりにログインしました。アカウント消さないで良かったです。」

「僕に会いに来てくれたんですか?」

「はい、ヨウヘイさんは私の恩人ですから。」

そこから彼女は10年の間にあったことを話し始めた。アルバイトから始めて、介護士の資格を取り、今は老人ホームで働いているらしい。立派だ、やはり俺の目に狂いはなかった。

「今度、同じ職場の人と結婚するんです。」

「そ、そうなんだ。」

結婚と聞いて、複雑な気分になってしまった。あの時、結婚の申し出を受けていたらどうなっていたか?と少し考えたが、バカバカしい、たかがNPCが夢を見るんじゃない。

「結婚おめでとう。君に幸があることを願ってる。」

祝辞を述べる。それだけが俺の出来る事だった。

「あ、ありがとうございます。あの時のヨウヘイさんの言葉があったから、私頑張ることが出来ました。」

俺は人一人の人生を変えたのか・・・それが良いことなのか、悪いことなのか俺には判断出来ないが、彼女の「ありがとう」という言葉を聞けただけで、心が嬉しい気持ちでいっぱいになった。

そこから彼女と取り留めのない話をして別れた。別れ際、彼女は「また何処かで会いましょう」と言ってくれたが、もう会う事はない、今生の別れだ。

もうすぐ0時、俺の人生、俺の物語が終わりを告げる。

さよなら世界。そしてありがとう世界。

満ち足りた、本当に満ち足りていたよ。



こうして世界と共に、自我の芽生えたNPCが終わりを迎えた。






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