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セカンドバレット  作者: 猫めっき
9/14

格上

マンションの屋上から

スコープでターゲットを確認する。

ここは住宅街。

狙撃とは無縁の街並み。

標的は一般家庭の住人。


本番では無い。

あくまで、下調べの為だ。


海外からの仕事の依頼で有る。

大手の仲介者だったが

仕事を依頼された自分は

まだ受けるかどうか

実は決めかねていた。

気が進まないので、返事は濁してある。


その仲介者には義理が有った。

今回の成功報酬は、普段の2倍。

破格で、しかも簡単な仕事だ。

しかし、気は乗らない。

どう考えてもヨゴレ仕事。

標的は15歳の子供である。

そんな仕事、受けたくは無い。

でも義理が有る。

完全な板挟みだ。

だから即答は出来なかった。


距離は1500メートル。

目を瞑っていても外さない、簡単な距離だ。

絶対に外す事の無い、失敗する筈の無い距離。


何故狙撃限定なのか?


その理由と目的は

全く知らされてはいなかった。

事情が有るのだろうが

それでも

どう考えてもヨゴレ仕事だ。

子供が死ななければならない理由など

まともな筈が無い。

その多くは、利権とか後継者問題絡みが

普通である。


対象者が家の外へ出て来た。

あの少女なのか!


じっくりと見る。


するとその少女は

見られている事に気付いたかのように

こちらを見ている。


見ている。


まだ見ている。


まだじっとこっちを

見詰めている。


気付かれているのか?


この距離で?


そんな事は有り得ない。


その少女は後ろを振り向くと

誰かと話しをしているようだった。


「あれが標的か?」


念の為

隣りにいる観測手に声を掛ける。


「ああ、そうらしいな」


観測手は、スコープを覗いたままだった。

しかし

家から出て来た男の顔を見た瞬間・・・


直ぐに顔を伏せた。


老練な観測手。

キャリアもはるかに自分より上の

先輩である。


だがその人は

伏したまま決して顔を上げようとはしない。


「お前も下がれ」


そう言うと

じりじりと後退りをする。


「止めだ、止め。

オレはこの仕事は受けない。

命がいくらあっても足りない仕事だ」


その言葉に驚いて


「どういう事だ」


そう聞き返す。


「それは言えない。

向こうに、自分が狙った一人だと知られたくない。

オレの名前は絶対に出すなよ。

オレはこの仕事を、受けていないからな!」


「何の事だ。説明してくれ」


スコープを覗いていると

その二人は

ただ会話をしている様にも見える。

すると男はスマホで、電話をし始めた。


「下がれと言ったろ。死にたいのか?」


そう言うと、機材を仕舞い込み

もう既に帰り支度を終えている。

自分を置いて、さっさと理由も言わず

観測手は帰って行った。


何だか、キツネに抓まれた話しだ。


何を恐れている?

こっちの事は、向こうには知られていない筈だ。

この距離で、何が判るって言うんだ。


全くと言って良いほど

判らない事だらけだった。



************************************************



入り口の看板が

閉店中なのを確認して中に入ると

奥のカウンター席に

既に先客がいた。


マスターがちらっと、こちらに目線を送る。


するとその客は

置かれた酒を一気に飲み干すと

すくっと立ち上がり

店を出て行こうとする。


自分の横を通り過ぎる時

声を掛けてきた。


「やっぱりバカ(づら)だったな」


そう言って、店から出て行く。

酒代も払っていない。

マスターは、それを特に気にする様子も無かった。


「マスター、知り合いか?」


その一言に、呆れ顔で


「オマエ、よく生きてたな?」


そう吐き捨てた。

その言葉が全く理解出来ないでいると


「昨日オマエ下見に行ったろ。

見られた事に気付かなかったのか?」


その一言に驚く。

誰にも話していない案件だった。

知っているのは

観測手ただ一人で有る。

その人物がしゃべったとも思えない。

情報漏洩が、いくら何でも早過ぎる。


「何で知ってる。こことは関係の無い別件だぞ」


「余りのバカ(づら)だからって

直ぐに電話で連絡が来た。

突然の事で、面食らったよ。

まさかそんな電話が掛かって来るとは

思わないからな。


日本は狭いって事さ。

こういう男を知ってるかって聞かれて

特長を言われて、すぐに判ったよ。

お前さんだなって。


だから、相手にしないで欲しいって頼んでおいた。

確かにバカだが

この世界では珍しくいい奴だから

何かの役に立たせるからって」


「だからどういう事だよ。説明してくれよ。

昨日だって、観測手は逃げ出すし、何が何だか・・・」


するとマスターは真顔で


「あれがゴーストの保護者だ。

オマエ、見られてたんだよ。


それをよりにもよって、ずっと口を開けたまま

スコープを覗いてたんだって。

バレバレにも程が有るって言ってた。


だから本人の顔をちゃんと見てやろうと

ここに来てたんだ。

オマエの間抜け(づら)をさ」


「・・・・・・・・・・・」


その言葉に、全く理解出来ない自分がいた。

1500メートルも離れた距離で

どうやって判るというのだ。


「何でわかる。あんなに離れているのに」


「それがあの人なんだよ。昔っからそうさ。

だからこその二つ名持ちなんだ。よく覚えとけ。


これは借りだからな。

まあ、オマエなんかに返して欲しいとも

あの人は思わないだろうが・・・。


オマエなんて

もうとっくに三回ぐらいは殺されてるんじゃないか」


その言葉にかなりムカつく。

オレにもキャリアは有る。

ペーペーの駆け出しでは無い。


「それは言い過ぎだろう、幾ら何でも!」


怒鳴って、そう言い返す。


「スコープで見ていた時点で一回。

あの人なら、殺せた筈だ。

この店に入った時点で一回。

オマエの横を、通り過ぎて一回。


隙だらけのオマエさんでは、あの人の相手にもならないよ」


そう言われて、頭に血が上る。

すぐに走り出すと

あの男を追いかけている自分が有った。


店を出て、全速力で走る。

大通りに出て、左右を見渡すと

閃くものがあった。

あの家に戻るのなら、多分こっちの方向に違いない。


走り続けると・・・・・・

見えた。


その男は自分に気付いたのか、

立ち止まると、少しゆっくりと振り返る。

そして、こちらを見た!


今、オレが先手を打てている。

確実に殺せている。

今回はオレの勝ちだ。


自分がそう思った途端

意識が飛んで、目の前が真っ暗になった。



************************************************



どうやら自分は寝ていたらしい。

気が付くとそこは

さっきまでいた店の中だった。


マスターは、呆れた様にこっちを見ている。

他の客は、こちらを見て見ぬふりをしている。


「トイレで顔を洗ってこい。

笑いモノの、酷い(つら)してるぞ」


マスターにそう言われて

少しポカンとしていたのだが

しぶしぶトイレに向かう。


鏡を見ると、

自分の額の中央に、☆印がマジックで描かれていた。

普通の人にとっては

ただのいたずら書きだが

自分にとっては屈辱的な(しるし)


眉間を撃たれた事を意味する。


誰もが素知らぬ顔をしている筈だ。

酔っ払いが仲間にイタズラされたと思って

見ていたに違いない。


油性なので、なかなか落ちない。

10分かけてシャボンとアルコールを使って落とすと

いつもの席に戻る。


「四度目の死亡」


マスターのその冷ややかな一言に

返す言葉が無かった。


「どうやってオレは戻って来たんだ?」


「あの人が担いで来たのさ」


その言葉に絶句する。

暫くの沈黙の後


「そうか、気が付かなかった」


そう言葉を振り絞った。


「2~30分は寝てるだろうって言ってた」


「何をされたのかも判らねえや」


「少しは実力の差を知る事だ。

観測手が逃げたのも判るだろう。

あの人に狙われたら、先ず生き残れない。

生き残る方が至難の業なのさ。


だから絶対に手出しをするな」


その一言に、返す言葉が無かった。


「反撃したヤツは、いなかったのか?」


その一言を、絞り出してみる。


「反撃する間も与えてはくれないよ」


「それもそうだな」


実際自分は、何も出来なかった。

何をされたのかも判らずにいた。


「飲んで忘れろ」


そう言われたのだが

その日の酒は、とても苦かった。





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