変わった転校生
朝、教室に入ると
新しく入って来る
転校生の話題で持ちきりである。
飛び切りの美人らしい。
男子生徒は大騒ぎ。
こんな時期に転校生。
しかも本人が望んで
名門校からわざわざ転校して来ると言う
変わり種。
転校する為だけに
随分と寄付をしたとも聞こえて来る。
でも入ったのは隣のクラス。
美沙にも今日子にも
初めは関係の無い話しだと思っていた。
しかし昼休みになると
その転校生は
突然教室の中に入って来て
つかつかつかと
美沙達の前に歩み寄る。
そして
席に着いている美沙の
目の前に立つと
その少女は美沙に向かって
「私、直道真琴。
あなたと友達になりたくて
この学校に転校してきたの。よろしく」
そう言って手を差し出した。
その勢いに負けて
美沙も手を握り返す。
「少し話しがしたいんだけど。
よかったら屋上まで一緒に来てくれない?」
そう言って
美沙の耳元に口を近づけると
小声で
「サンケンの事で話しが有るの」
微笑みながら、単刀直入に切り出して来る。
少し驚いた美沙だったが
真琴が真っ直ぐに自分を見つめて来るので
「構わないわ。行きましょうか」
そう返事をし
おもむろに立ち上がった。
隣りにいた今日子が驚いて
美沙に続こうとすると
「あなたは少し遠慮してくれないかなあ。
二人でとっても大切な秘密の話が有るの」
そう言って、真琴が今日子を押し止める。
「美沙!」
美沙を見つめる今日子の表情は
少しだけ不安が混じっていたのだが・・・
「大丈夫」
そう言い残して
美沙はその少女と屋上へと向かった。
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「それでどんな話しかしら?」
屋上から下を眺めながら
美沙は真琴と、少し距離を置いて
並んで立っている。
屋上には他にも数人の生徒がいたのだが
そこからも距離を取った。
小さな小犬が迷い込んでいたらしく
一部の女子高生から歓声が上がっている。
「勘違いしないで欲しいんだけど・・・」
真琴は一度、そこで言葉を切った。
「同じ直道家でも私は分家。
サンケンは本家の管轄だから、私とは無関係。
そこは先ず知ってて欲しいの」
「分家っ?」
「私達は本店って呼んでいるんだけど、
本家と分家は別物なの。
本家が主流派なら、分家は反主流派。
組みする事は一切無いわ。先ずその事を知ってて欲しい」
「・・・・・・・・
ふうん、そうなんだ」
美沙は曖昧な返事で応えた。
「私は分家だから、本家とは袂を別ちあっている。
でも、だからと言って仲が悪い訳でも無いの。
本家にとっても分家にとっても
大切なのは、直道家が永遠に残る事。
それが家訓であり、何よりも一番大切な事。
・・・・・・・・
で、ここからが本題。
金子さん、本家に喧嘩売ってるでしょ!
サンケンに殴り込みをかけたとか聞いたわ」
その言葉に、美沙はどう返していいのか
少し迷った。
「別に御挨拶に行きはしたけど、喧嘩なんて・・・」
そう答えると
その表情の変化を知ってか知らずか
真琴は
「ホントにただの御挨拶なのかなあ?
その事で、本店はかなり焦ってるんだけど・・・
でも金子さん、少し相手を間違えてる」
その一言に、美沙はつい反応する。
「間違えてるって? 何が?」
「本店の中枢は、サンケンの本社では無いって事」
その一言に、美沙は驚いた。
相手は企画開発室の筈だ。
他所では無い。
だからサンケンの本丸は、
総合商社サンケンだと信じていた。
間違ってはいない筈だった。
その困惑した顔を見ながら
「確かに商社サンケンは図体がデカいから
誰もがそこが本丸って思うかも知れないけど
ホントは違うの。
サンケンはそれ自体が普通の商社だから
中にいる人達も、普通の社員が殆どなの。
まあ、何処にでも有る普通の会社。
働いている人の大部分が、あなたとは無関係な人達」
その言葉に美沙は返す事無く
聞き入っていた。
「あなたが喧嘩を売るべき相手は
サンケン総合研究所。私たちは総研って呼んでる。
そこが本店の中枢。
実際そこに居る人達が、あなたの演奏を聞いて
悶絶してるって話しだから。
・・・結構精神的にやられてるって!」
真琴が悪戯っぽく笑った。
どうやら演奏の秘密にも、少しは気付いているらしい。
「あなたが訪ねて行った企画開発室って
総研の出先部署なの。
本社の中でも、ある意味独立した部署で有り出先機関。
社全体が入手したあらゆる情報を
収集統括する部署って
思って貰った方が判りやすいのかな?
大体分かってくれた?」
一通り聞いた美沙だったが
それを鵜呑みにする事は無かった。
「そんな事私に話されても・・・。
私はただの普通の高校生よ」
その言葉に真琴の目は笑っていない。
「まあ、今はそれでいいわ。
でも、私を信じて欲しいの。
いつかきっと、あなたの役に立って見せる。
私が味方だって事を証明して見せる。
で、聞きたいんだけど・・・」
「・・・・・・」
真琴の次の言葉に
美沙は直道家の底力を知る事になる。
「この間の
あなたのコンサートに私行ったんだけど
危ない不審者が二人いたのね。
あの人達はどうなったのかなあって?
すごく興味が有るの。
教えてくれない?」
そう言った途端、真琴の体が崩れ落ちた。
まるで闇に落ち込むように・・・。
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真琴が目を覚ましたのは
保健室のベッドの上。
突然意識が戻ると、ゆっくりと起き上がってみる。
すると、保健室の先生が顔を見せた。
「目が覚めた? 転校初日だから気が張ったのかな?」
そう言われて
真琴は屋上での出来事を思い出そうとするのだが
ある瞬間から、
記憶がぷっつりと途絶えているのに気付く。
「先生。私はどうして此処に?」
「屋上で貧血を起こしたって聞いたわ。
気を失ってて、少し騒ぎになったそうよ。
もう大丈夫かな。
どうする? 教室に戻る?」
その言葉に、真琴は少し考えると
「今日はこのまま帰ります。
少し気を張ったみたいで、疲れたから・・・」
そう言って、真琴は保健室を後にした。
今回の公開は、これで終了です。
次回は、8月23日公開を予定していますが
まだ執筆は一行も出来ていません(笑)。