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セカンドバレット  作者: 猫めっき
13/14

分家の思惑

「お父さま、これが大切な用事なのですか?」


真琴は席に着くなり

父を問い詰める。

その質問に笑いながら


「その通りだ。御家の一大事と言って良い」


「ふうん、そうなんだ」


少し訝しがりながらも

真琴は正面を見据える。

そのコンサート会場は、徐々に人で一杯になった。


クラシックコンサートでは

珍しい現象である。

普通ならこの手のコンサートでは

その学校の関係者とか先生とかが

一角を占めるのが通例なのだが

これはどうやら違うらしい。


同じ音楽関係者でも

毛色が違う。


撮影クルーまで入っている。

報道関係者が、一角を陣取っていた。

新聞社もちらほら見受けられた。

もしかして社会性が有るの?

余程人気が有るらしい。

クラシックでは、珍しい現象である。


「真琴、周りをよく見て見なさい」


その一言に、真琴は会場内を見渡す。

その多くは、普通の観客なのだが・・・

やがて、挙動の不審な人物がいるのが見える。

普通の人では気付かない

自分にしか判らない、犯罪者の眼差し。

驚いたように父親の方を向き直すと


「お父さま、これって・・・」


「気が付いたか? 面白いだろう」


そう言って、鼻で含み笑いを嚙み殺している。


「止めなくていいんですか」


「多分大丈夫だろう、まあ見ててごらん」


やがてこのコンサートの主役が登場すると

それだけで割れんばかりの拍手が響く。

さかんに点滅するフラッシュ。

一頻り、撮影タイムが終わると

会場の照明が落とされ、

柔らかなスポットライトによって

その少女が照らし出した。


その途端、暗闇に紛れる様に

二つの影が動くのを

真琴は感じた。

さっき気になった怪しい人影。


そちらを振り返ると、

その人影は

少しよろめいたかと思うと

まるで地面に吸い込まれるように

姿を消してしまった。


目を丸くする真琴。


「一体何が・・・?」


そんな真琴に、父は小声で


「面白いだろう?」


そう言葉を重ねて来る。


「一体何なんですか? お父さま。これって・・・

あの人達は・・・」


「標的はおそらく彼女。蠢いたのは刺客。

彼女を狙っているのは本店。


過去にも何回かチャレンジしたらしい。

しかし、誰もあの子を殺せていない。

失敗ばかりしているのさ。

本店がプロを使って、でも殺せていない。


真琴。あの子をちゃんとよく見てごらん。

オマエなら見えるだろう」


そう言われて、その子を見ると

不思議な薄いベールで全身が包まれているのを

感じる。

僅かに光るモノを纏っている様だ。


「オーラですか?」


「そう言えなくも無いが、少し違う気がする。

むしろ障壁の様に私には見えるが・・・」


「バリアーですか?」


「あの子は本店に喧嘩を売っているらしい。

たった一人で。

そうとは気付かれないように。

余程の自信が無ければ、そんな事出来やしない。

だったら、その自信は何処から来ていると思う?」


その言葉に真琴は返せないでいる。


「絶対に負けない自信が有るんだよ。

むしろ、殺されない自信が有るって言った方が

正確かな。


どうだ、面白いだろう」


そう言いながらも、父は彼女の演奏に耳を傾けている。


その音楽は、とても心地よく

真琴にも響いて来た。



************************************************



車の中でも

真琴はまだあの音楽に酔いしれている。


謎の楽器、クロアの音色は

それ程までに魅惑的だった。

そんな真琴の様子に呆れながら


「オマエ、もう少し修行をした方がイイぞ」


父が水を差してくる。


「世間では魅惑の音色と言ってるし

確かに魅惑的では有るが、あれは人によっては毒だ」


その一言に、真琴は驚いたように


「あの音楽が、毒ですか?」


「ああ、毒だ。実際に本店の人間が何人もやられている」


「それって、どういう事でしょう?」


「あの音楽は、大抵の人には心地良いが

一部の人間にとっては、悪魔の音楽に聞こえるらしい。


本店の人間の何人もが、

あの音楽で苦しめられているって話しだ。


どんどん悪夢に苛まれて、

精神的にも追い詰められていると聞く」


「あんなに心地の良い音楽なのに、ですか?」


「その理由は、詳しくは判らないが

総研の主力部門の人間がそうなっている以上

彼らには見過ごせない話しなのさ。


最初は原因が判らなかったらしい。

でも話しを総合すると

有るプロジェクトに関係している人間だけが

そうなっている事が判った。

その詳しい内容は

まだ推測の域を出ないのだが

だがこれはもしかしたら・・・」


「もしかしたらって・・・、何ですか?」


「本店が壊滅する可能性が有るって事さ。

それ程の事態に成るかも知れない」


「下野ですか?」


「下野で済めばいいが・・・。

文字通り壊滅となったら

うちの、本店昇格が有るかも知れない。


本家が何を仕出かしたのかは知らないが

そんな事態に成り始めているように

私には思える。


だから真琴・・・、転校しなさい」


その突然の一言に

真琴は少し面食らっている。


「はあっ? まだ入学したばかりですよ。

それを転校しろって! どういう事ですか?


そんな無茶な話し、しないで下さい」


「無茶でも何でも、転校しろ。

そしてあの子に近付け! 同じ高1だ。


何としてでも友達になれ!

本店の情報を、出来るだけくれてやれ。


本家が潰れても、分家が残れば何の問題も無い。

それが直道家の家訓だ。


本家の敵なら、分家が味方に付かなくてはならない」


「そんな大事(おおごと)なの?」


「そんな気がするんだよ。

これは間違い無く大事(おおごと)に成るって気が・・・。


本家は何かを仕出かしてしまったんだ」


父は面白そうに笑っている。

本家が日本の中枢に君臨して、130年。


その転機に来ていると

父は信じている様だった。




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