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セカンドバレット  作者: 猫めっき
12/14

新たな宣戦布告

総合商社、サンケン。


その会社の受付に

美沙が現れる。


「音楽家の金子美沙と言いますが

企画開発室の須藤さんか野口さんは

いらっしゃいますでしょうか?」


「御約束ですか?」


受付の女性が、定型文を読むように丁寧に対応する。


「アポイントは取っていません。

父が生前御世話になった話しを聞きましたので

その御挨拶に伺いました」


「少々お待ちください。部署に問い合わせますので」


そう言うと、連絡を入れてくれる。

電話先と、事務的な会話を済ませると


「須藤と野口は現在出張中とのことですので

代わりの者がお話しを伺うと言っておりますが

今すぐ参りますので、

そこの応接室でお待ちください」


そう言うと、受付バッジを手渡してくれる。

それを受け取り、襟に挟むと

右手にあるテーブル席へと案内された。


しばらくしてから

その部署の人らしき女性が降りて来る。

受付に促されて

真っ直ぐに美沙の元へとやってきた。


いかにもキャリアらしい

スーツを着こなした女性である。


「お待たせしました。私こういう者です」


名前を言われたのだが、美沙は覚える気は無い。

名刺を見て、ただそんな名前なんだと

一応認識はしておく。


「まだ高校生ですので、個人の名刺は有りませんが

事務所の連絡先と、かわりにこれを差し上げます」


そういって差し出したのは

小さなメモと、先日発売したCD。


サイン入りにしておいた。


その女性はそれを一瞥して手に持った書類の上に

乗せると


「それで、どういったご用件でしょうか?」


単刀直入に聞いてくる。


「生前父が御世話になった話しを

知り合いから聞いたのですが

どういう仕事をしていたのか、伺いたくてお尋ねしました」


「生前、ですか?」


「五年前になります。何分自分は記憶を失っていて

記憶が戻ったのがつい最近でしたので・・・

その頃のお話しでもお聞かせ頂ければと思ったのですが」


そう言うとその女性は事務的に


「お話しは判りました。本人が出張から戻りましたら

私から伝えておきますが、仕事上の事ですので

お答えできないかもしれません・・・

そこは御理解頂けますか?」


「それは承知しています。出来ましたらで結構ですので。

それと・・・

須藤さんと野口さんにもこれをお渡し頂けますでしょうか?」


そう言って、もう二枚CDを手渡す。

勿論こっちもサイン入りである。


「承知致しました。責任を持って、渡して置きます。

それで、お返事はどの様に?」


「事務所の方へ御連絡を頂ければ

私に伝えてくれることになっています。


仕事がら、直接の連絡先は伝えない様にと

言われていますので、そこは御理解ください」


「承知致しました」


笑顔でそう事務的に受け答えすると

その一枚も、先ほどの一枚に重ねて

一礼してその女性は上階へと帰って行った。


一息ついて

受付にバッチを返すと、美沙はサンケンを後にする。


須藤が今ここに居ない筈は無い。

前もって、須藤の方は匿名の電話で確認している。

今は席を外していると言う。

それが、ほんの数分前の出来事。


だが本人は居留守を使った。

出張していると言う、名目を付けて・・・。


やましい事が有るのが、これで明確になった。

それだけで美沙には十分だった。



************************************************



サンケンの本社を後にすると

その足で自分の事務所へと向かう。


誰かにつけられている

可能性も有る。


自分が間違い無く

今話題になりつつある

音楽家である事を判らせる為だ。


これはデモンストレーションなのだ。

ここに私はいます、という

アピールのための。


これでサンケンの名前を

マスコミに出す口実も出来た。


インタビューを受けた時

父の話題でさりげなくその名前を

出す事の切っ掛けを得る事も

今回の訪問の一つの目的である。


同時に、これは新たな宣戦布告だ。


サンケンがどう動くのか。

企画開発室が

どんなリアクションを取るのか

その出方によって

自分は今後の対応を考えようと思っている。


少なくとも

父に関心を持っていた社員は

姿を見せないと言う

対応を示した。


これは間違い無く

父の死に関して

何らかの後ろめたさを持っている事を

意味する。


無関係なら、

上司では無く自分達で対応すれば

良いだけの話しだ。


つまり上司も一枚嚙んでいる事になる。


どんな出方をするのか

美沙には楽しみに待つのだった。



************************************************



「室長、どんな話でしたか?」


部屋に戻って来た女性に対して

部下と思しき一人が声を掛けた。

その顔は蒼褪めていて

やつれて居る様にも見える。


「ただの御挨拶だそうよ。はいこれっ」


そう言って預かったCDを手渡す。


「そんなCD、要りませんよ」


そう言ってゴミ箱に捨てようとすると

それを見ていた若いスタッフが


「捨てるんだったら、それ下さい」


そう言って手を伸ばして取り上げた。

どうやら来客の名前を聞いていたらしい。

そのCDを見るなり


「お宝じゃないですか。サイン入りなんて。

金子美沙とどんな関係なんですか?


いますっごい人気なんですよ。

広告でも使おうって話しも

有る位なんですから。


こんな伝手(つて)が有るんだったら

アポ取ってくれって、絶対言われますよ」


そう言われて

その男は、少し困った表情を見せる。


その言葉に答えられずにいる男こそ

美沙が会いに来た社員の片割れ

須藤その人であった。


「室長、自分はどうしたらいいですか」


その言葉に室長は少しだけ考えて


「何もしなくていいわ。

これは総研案件だから、無視しなさい。

また訪ねて来ても、一切対応はしないように。

いいわね。

彼女への連絡も無用よ」


「承知しました」


そう答えた須藤だったが、その表情は

明らかに不安に満ちたものだった。





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