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セカンドバレット  作者: 猫めっき
11/14

懺悔

朝目覚めると

小母さまが朝食を作ってくれていた。


ここの所、しょっちゅう遊びに来てくれている。

ジュンくんもネネちゃんも

寮に入ってしまうと

あっちでは自分はする事が無いらしい。


ここに居る方が楽しいし

する事もいっぱい有るし

気が紛れると言う。


「いいんですかおばさま。ここに居ても」


「大丈夫よ。

あの人なら向こうでもこっちでもすぐ来れるし

場所なんて関係無いから。

あちこち飛び回ってるし。それより・・・」


窓から外を見て指差すと


「うろうろしている人がいるんだけど・・・」


外を見ると、叔父さんだった。

じっと立ったまま、考えている様だ。

それを見た美沙は


「おばさま、

どうやら真相を知っている人が来たようです。

中に引き入れて話しを聞こうと思いますので

おばさまも一緒に聞いていて下さいますか?」


「判った。じゃあ、お茶の準備だけしとくわね」


そう言うと、キッチンに向かう。

美沙は玄関を出ると、叔父さんに歩み寄って行った。



**********************************************



「叔父さん、中に入ったら如何ですか」


美沙にそう声を掛けられて

ようやく決心が付いたのか

叔父さんは家の中に付いて来る。


リビングで奥のソファーを勧めると

少し浅く腰を下ろした。


キッチンには

二人分のお茶の準備が

出来ていて

それを持って行って

叔父さんに差し出す。

自分のも置くと

美沙はやや斜向かいの位置に

腰掛けた。


お茶を啜る音がして

しばらく沈黙が続いたが

意を決したかのように

叔父さんが重い口を開く。


「話しておきたい事がある・・・」



********************************************



事の発端は、父の持ち帰った御土産だと言うのだ。


父は研究目的の長旅から帰ると

必ずその土地土地の珍しい御土産を

持って帰って来てくれた。


子供心に、それはそれで

嬉しい出来事だった。

御土産の全てが、

嬉しかった訳では無いのだけれど。


当時叔父さんの持つ会社は経営難で

普段の生活にも困っていて

父にしょっちゅう借金を申し込んだと言う。


でも父もそうお金が有る訳では無いし

でも手ぶらでも帰せないから

旅先で手に入れた珍しい物を

売れば幾許かになる筈と、

しばしば手渡されたと言う事だ。


店を選ぶ必要はあったが

父の言う通りそれらを売ると

確かに生活費の足しには出来て

助かっていたらしい。


問題はそれから起こった。


叔父さんの元に、二人の人間が訪ねて来たと言うのだ。

それが・・・


サンケンの社員だった。



**********************************************



サンケンの二人の社員が

叔父さんを訪ねて来たという。


名刺を差し出し

サンケンの企画開発室の人間だと名乗った。


そして鞄から

取り出して見せたのは

父から貰って、売り払った御土産の一部だった。


ある店でそれを偶然見つけたと言う。

今までに無い商品だと感じて

その社員は興味を持ったらしい。


その店から情報を得て

訪ねて来たと言うのだ。

そして


「こういった物は、他には有りませんか」


と切り出した。

そしてもし有ったら、

高値で買わせて貰いたいとも告げた。


提示された金額は

自分が売った時の10倍の金額だった。


そして、どんな物でも構わないから

手に入れたら先ず先に見せて欲しい、とも

念押ししたと言う。


それを聞いた叔父さんは

もしかしたら

一気に借金を返済出来るかも知れない、と

その二人の社員の出現によって

希望を見い出してしまった。


叔父さんはその話を

父に伝えると

借金返済の足しになりそうだから

是非とも手伝って欲しいと頼み込む。


それから父は

旅先で手に入れたお土産で

その商社に売れそうな物を選んでは

叔父さんに手渡していたらしい。


初めて聞く話だった。


最初の頃は

その人達も気前よく

買い取ってくれたらしいのだが

有る日を境に、少し様子が変わって来る。


或るお土産で、気に入ったから

大量に手に入れて欲しい商品が有るという。

そういう申し出がなされたというのだ。


購入資金は、全てその会社持ち。

こちらに負担は掛けないとも言った。

纏めて手に入れてくれたら

これだけの御礼を出すと提示された金額は

借金を遥かに上回る金額だった。


叔父さんは父にその商品を見せ

入手を頼み込んだのだが

何故か父はその申し出を断ったという。

大量に手に入れる事は出来なし

自分一人ではとても運べない、と。


叔父さんは自分も手伝うと

言ったらしいのだが

父は頑としてその申し出を断ったらしい。


そして

もしその話しを続けるのであれば

もう手伝わないし、来ないで欲しいとも

告げたという。


それはとても

父には似合わない言葉だった。

父は基本、人に優しい。

困っている人を見たら

助けずにはいられない人だ。


そんな父が断ったのである。


実際叔父さんは

次に訪ねて行っても

一切相手にして貰えなかったと聞く。


叔父さんはその商社の人に

もう手に入れる事は出来なくなったと

伝えると

どうやって手に入れたのか

しつこく聞いて来たと言う。


そして

もし教えてくれれば

相応の謝礼を出すとも言って来た。


提示された金額は

借金に等しかった。

後で思ったらしいのだが

もしかしたら自分の借金の事も

調べられていたのかもしれない。


足元を見られていたのかも・・・。

しかし叔父さんには

その申し出を断る事が出来なかった。


借金の返済が出来るのである。

この機会を逃す事は

自分は出来なかったと言う。


その謝礼と引き換えに

お土産の入手の経緯と

父の事を

その人達に洗いざらい伝える。


それ以降

サンケンの社員は

叔父さんを訪ねて来る事は

一切無かったと言う事だ。


自分でも

その会社の名前は

今まで忘れていたし、忘れようとしたとも聞く。


そしてあの事件は起きた。


あの事件は

自分には関係無い事だと

叔父さんは耳を塞ぎ

つとめて距離を置いたいたらしい。


自分と事件を結び付けるモノは

何も無い。

警察が訪ねて来ても

そんな質問は一切出なかったから

自分は無関係なのだと

自分自身に言い聞かせて来た。


そしてこの一件は

何が有っても

墓場まで持って行こうと

決めていたらしい。


先日私の口から

その名前が出て来るまでは。



***********************************************



叔父さんは

自分にその社員の名刺を手渡すと

言い残した事はもう無かったと見えて

気持ちが落ち着いたのか

自分の家へと帰って行った。


それを見届けると

小父さまと小母さまが姿を現す。


「おじさま。いらしてたんですか?」


「こいつから連絡が有ったからな。

一緒に聞いた方が早いと思った」


小母さまが、お茶を入れ直してくれる。


「サンケンが

そんな小さな事で関わって来ていたとは

思っても見なかった」


小父さまが呟く。


「お土産が切っ掛けだったなんて・・・

どういう事でしょうか?

まさかそんな事が殺される理由になるとは

思えないんですが・・・」


「御土産の何が欲しかったのか、それさえ判れば

全てが判って来るのかも知れないな。

だが、もしかしたら・・・」


そう言うと

小父さまは、また少し考え込んでいる。


総合商社、蚕繭(サンケン)の企画開発室。


網は徐々にではあるけれど

絞られつつ有るように

美沙には思えた。





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