プロローグ
932:後ろの名無しさん
なあ友達が言っていたんだけど時計に囲まれた喫茶店があるんだって
友達の友達がそこに行ってからなんかおかしくなったらしい
誰か知ってる?
933:後ろの名無しさん
友達の友達は>>932の友達ではなく知人ですらないただの他人だな
934:後ろの名無しさん
>>933友達の友達だと知っているんだから知人だろ
ほら涙拭けよ
935:後ろの名無しさん
>>32自分は喫茶店じゃなくてBARの話なら聞いたことある
936:後ろの名無しさん
店内の装飾で時計を並べたりするのは普通
937:後ろの名無しさん
その時計ばかりの店がなんだって?
938:932
ややこしいから俺の友達がA友達の友達をBにするわ
Aが久しぶりにBに会ったらしいんだけど、少しおかしくなってたって言うんだ
おかしいというか、元々明るい人らしかったんだけど妙に楽しそうだったんだと
で、Aが何かいい事でもあったかって聞いたらBは時計が沢山ある喫茶店に行ったら色々楽になったって言ったらしいんだよ
嫌な事をすっかり忘れられたって
その嫌な事は何だってAが聞いてもBは忘れたから知らないって
939:後ろの名無しさん
おおう⋯それの何が>>938の興味を引いたんだ
喫茶店行きました良かったです程度の話じゃ無いか
940:932
そんな店があるなら行きたいって思ったんだよ
忘れたい事沢山あるから
ここは都市伝説のスレだから誰か知っているかと聞いたんだよ
>>935それは何処?
941:後ろの名無しさん
まあ確かに都市伝説っぽいか?時計ばかりの店に行くと嫌な事が忘れられるってのは
本当にそんなのがあればなw
942:後ろの名無しさん
>>940大都会の飲み屋のおねーちゃんからだよ言わせんなw
BARってんだから繁華街辺りじゃね?
943:932
>>942ありがとう行ってみる
944:後ろの名無しさん
行くって
945:後ろの名無しさん
その行動力w
946:後ろの名無しさん
こうして>>932は伝説となった
947:後ろの名無しさん
勇者www
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48:後ろの名無しさん
そう言えば前スレの時計の人店見つかったのかね
49:後ろの名無しさん
忘れてたわそんな事w
50:後ろの名無しさん
時計が沢山ある喫茶店だかBARだか探してた人か
都市伝説は置いておいても面白そうな店だよな
51:後ろの名無しさん
その店の噂実は聞いたことある
何でも入店して何も頼まないのにその時に飲みたい物とか必要としている物が出てくるんだとさ
52:後ろの名無しさん
超人店主w
53:後ろの名無しさん
心理学でもやってたんだろ人って欲しいものとか興味あるものに自然と目が行くとかあるらしいから
54:後ろの名無しさん
これまさか前スレの932じゃない?
「〇〇海岸で男性保護」
「所持品もなく警察は男性の身元解明に急いでいる」
55:後ろの名無しさん
932は店を探していたんだから関係ないだろ
56:後ろの名無しさん
調べて来た
「保護された男性は記憶を失っている可能性」だと
もし、932なら嫌な記憶を消せて本望なんじゃね?
57:後ろの名無しさん
記憶を消してくれる店か俺も探してみるかな
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思わず書き込んでしまった。
記憶を⋯⋯消す店。そんなものが存在しているのか。極平凡に極めて善良に生活する者には有り得ないと分かっている話だ。現にこの掲示板の人達は本気で信じてはいない。
しかし、彼はその存在を信じ、探した。そしてその店を見つけたのだ。
タブレットを放り出し目頭を押さえる。
先日、ある男性が記憶を失った状態で発見された。
マスコミへの発表は「身元不明」だったが彼は警察が追っていた人物、大岩マサシだった。
大岩は何を聞いても「時計」としか発さず、取調べは難航している。
そして今日、大岩の家をガサ入れした際に得た情報。
警察が睨んだ通り大岩は薬物の売人だった。パソコンに取引を行った形跡が残されており、大分危機感の薄い奴だと苦笑した。
それよりも気になったのがパソコンに「時計」「喫茶店」「BAR」を検索した形跡と、履歴にあった掲示板に大岩が書き込んだと思われるログ。直ぐに書き込み主の特定にプロバイダーへ発信者情報開示請求を行った。
何故彼が記憶を無くしたのか。本当に記憶を無くしているのか。
「記憶を消す店」この場所が分かれば大岩の足取りを掴めるのではないか。
「奴さん、全然埒があかない」
溜息に溜息が重なりギシリと椅子を鳴らして疲れた顔をした同僚が珈琲を持って隣に座った。
「これじゃ起訴できても医療刑務所、起訴できなくても隔離病院だなあ」
警察は容疑者を捕まえる。検察は罪を確定する。
自分達は大岩の薬物ルートを明らかにするまでしか手を出せない。それなのに当の大岩は記憶を無くしてほぼ廃人のようだった。
「取引の証拠は見つけた。後は奴が何処からそれを手に入れたのか裏が取れたら起訴出来るんだがな」
薬物捜査はイタチごっこだ。
大抵の場合大元に辿り着けず捕まえられるのは末端の末端。彼らはトカゲの尻尾のように切り捨てられて捜査は終了する。その繰り返しだ。
「どうして薬なんかに手を出すんだろうな」
そんなのは個人の考え次第だろう。とは、立場上軽々しく言ってはならない。
上手く行かない人生から逃げたい。そんな心の隙間に悪魔は甘く囁き入り込む。
神は試練を与えるばかりで救ってなどくれない。
悪魔は人生と言う対価を払えば救いの手を差し出す。もう片方の手に大きな鎌を携えて。
「ところで、何を調べていたんだ?」
放り出されたタブレットを覗き込んだ同僚が眉を寄せた。
「お前⋯⋯探しているのか?」
「ああ、気になるんだ。記憶を消す「時計」の店が」
大岩の足取りを辿る。
ただ、それだけの為に不確かな情報に縋る。
ギシリと椅子を鳴らして同僚が立ち上がった。
「その話、息子から聞いた事がある。学生の間で話題になっているらしい。時計だらけの店に行くと「記憶」を無くせるらしいとな。よくある都市伝説の一つだ」
「⋯⋯息子さんは行った事があるのか?」
「あいつは無いだろう。誰もが見つけられたら都市伝説にはならないからな」
飲み終えた珈琲のカップを潰しゴミ箱へ投げ入れながら同僚は続ける。
「おいおい、俺達の性質上非科学的なものは証拠にならないんだぞ」
「ああ。俺はもう暫く大岩の足取りを調べるよ」
「外回りに行くときは声かけろよ。二人一組が決まりだからな」
「了解」
背伸びをして「聴取の続きだ」とひらひらと手を振る同僚の背中を見送り、タブレットを片付けようとしたその手を止めた。
73:後ろの名無しさん
>>57無くしたい「記憶」があればもしかしたら見つけられるかも知れないね
──無くしたい「記憶」。
ふっと頭に一面の芝桜が浮かんだ。何処までも続く芝桜の絨毯の先に手を振る姿。
あれは──。