ヒロインはどうなっていますの?
ふわっとした話ですので、ふわっとさらっと読んでください。
「アンナ、愛している」
はいはい。
とてもとても見目麗しい金髪碧眼の王子様からの告白ですが、毎日何度も何度も繰り返され、早三年。さすがに疲れました。
「いい加減にしてくださいまし、リュート殿下。護衛の方も困っていらっしゃるではありませんか」
「アンナに叱られてしまった…」
捨てられた子犬のようにしゅーんとしょげてしまわれました。ど、どうしましょう!
「あ、いえ、その…もうっ。とにかく、そろそろ授業開始ですので席に戻りますわ」
スッと殿下の膝の上から降ります。
齢五つで婚約者となり、学園に入学してからは愛してる、離れない、何だかんだともう本当にとにかく…しつこい。
わたくし…悪役令嬢だったはずなんですけれども?
そう、何を隠そう、わたくしアンナ・テレワーズは転生者なのです。
乙女ゲームの王道という王道のストーリー。ヒロインと王子が結ばれるために婚約破棄される悪役令嬢。ヒロインへいじめを行う悪役令嬢。
それが、何故かその王子に溺愛されています。
もちろん、ヒロインも学園へ入学しています。彼女の名は、リースレット。明るい茶でふわふわした髪、杏色の瞳をしたとてもとても可愛らしい見目の女性です。小動物のようにくるくると動かれます。癒し系の女の子です。
対してわたくし、アンナ・テレワーズは真っ直ぐに伸びた群青の髪と藍色の少しつり上がった瞳。パッと見では冷たい印象を与えます。第一王子の婚約者であり、身分も公爵家の令嬢ですので、そうそうに声をかけてもいただけません。
身分と見た目で、悲しいことに親しい友人はおりません。中身は臆病で小心者ですが、身に付いた教養上、常にキッとした雰囲気を頑張って保っております。孤高の青き女王と陰で呼ばれております。
でも、誰かわたくしと何でもないお話していただけませんかね?本当は心細くて寂しいのです。
少ししょんぼりしてしまいました。
「アンナ?私が隣にいるから、そんなに悲しい目をしないでおくれ」
いつの間に王子が側に来ていらしたのでしょう。授業中でもお構い無しです。
「殿下、授業中ですわ。自席にお戻りくださいませ」
「アンナ、そんな悲しいことを言わないでおくれ。私はアンナを愛しているんだ」
疲れました。
常にこの状態で学園生活を送っているものですから、クラスメイトや先生は慣れています。わたくし達のやりとりなぞ、聞こえてもいないように授業は進みます。
そうそう、このような授業風景ですが殿下とわたくしの成績は常に一位と二位でございます。王城で幼少の頃より教養を受けておりましたし、少しではありますが既に公務も行っております。
本来は授業を受けなくても問題はございません。ですので、先生も何も仰いません。わたくしは言っていただきたいのですが。だって、学生の本分は勉強ではないかしら?友達と協力し合う…ということが出来ないことは理解して諦めました。ですが、せめて授業は受けたいのです。いくら、先生が間違っているとしても。
「ガイ先生、その内容は先日の論文発表により変わりまして、最新ですと××となっておりますわ」
「そ、そうかね…失礼した」
正しい知識は大事ですものね。
少し頬を染めて、じーっとわたくしを見つめてくる殿下。
「殿下?何か仰りたいことがございます?」
「アンナは僕の論文を読んでくれていたんだね!」
…ああ、あれって。また殿下でしたか…。本当に賢い方なんですよ。素晴らしく賢い方なんです。
しかし、クラスメイトは誰一人として驚きません。こんなやり取りも三年続けば慣れます。成績順で分けられるクラスのはずですが、どういうことかわたくし達のクラスメイトは一人も変わっておりません。一位と二位の殿下とわたくしが変わらないのは分かりますけれど。
本来のストーリーでしたらヒロインと同じクラスになっているはずだったのですが?
同じクラスには攻略対象である、宰相の息子とヒロインの幼馴染と身分を隠されていらっしゃいますが隣国の王子がおります。ヒロインと同じクラスに騎士団長の息子がいらっしゃるようですわ。他の攻略対象はわたくしと二つ離れた兄です。兄とは一年目に接点を作らないとルートに入れない、難関攻略です。入学試験の段階で決まります。わたくしと同じクラスではない時点で兄のルートはございません。
そんなことをぼんやりと考えている間に授業が終わったようです。
気付けばいつの間にか側に立っていた王子に手を差し出されています。
その手にそっと自分の手を置き、立ち上がります。
「皆さまごきげんよう」
丁寧に挨拶をしてから教室を後にします。殿下にしっかりと手を握られたまま連れられて、王家の紋が入った馬車に乗り込みます。
他人からの視線がなくなったため少し気が緩みます。そんなわたくしを見て殿下はニコニコしながら狭い馬車内にも関わらず隣に座り更に近付いてきました。
「…リュート殿下、近すぎですわ」
「こんなにアンナを愛しているのに伝わらない…」
またしょんぼりさせてしまいました。このままでは今からの公務に支障が出てしまいます。仕方ないので、膝の上に置かれたままの殿下の手にわたくしの手を重ねてにこりと殿下に向かって微笑みます。するとご機嫌に戻った殿下はわたくしの足をサワサワと触りだしたのでそれはパシリと叩いて窘めます。
しかし、どうして殿下はこんなにわたくしのことを好きになっているのでしょうか?本当に分かりません。というか、ヒロインのリースレットは一体誰のルートに入っているのでしょう。
誰かヒロインの状況を教えてください!
書き散らかし中。書いてるけど書けてない…