終人動く
洞窟奥に戻ると違和感を感じた。部屋を見渡すと、椿の後ろにあった祭壇のうえに紙の束がおかれていた。何かが書かれている。
(さっきはこんなものはなかった。誰が?というよりは、どこから?)
椿は洞窟の中をくまなく調べることにした。しかし、これといって洞窟そのものにはおかしな点は見つからなかった。床への嫌悪感は今だに続いていたため、ある程度調べてなにもなかったため、布を敷いた。むしろ、椿が気になったのは水瓶のなかである。その中の液体は透き通った緑色をしていた。近くにあった木製のコップで中身をすくってみるが、やはり、色は変わらない。臭いもない。椿はしばらく色々試した。そしてこの水は特に問題なく飲めることと、無害であることがわかった。
(フム、色々試したが特に問題はなさそうだな)
そこでふと、自分のからだが洞窟を調べたときに付着した埃で汚れていることに気がついた。
(予想より埃の付着がひどいな)
椿は部屋のなかにあった布を手に取ると壺に水を移し洞窟の外に出た。布を水で浸し体をよく拭く、予想より埃が落ちないのだ。服も同様だったので洗うことにした。運の良いことに、石鹸のようなものを洞窟内で見つけていた。色は毒々しいカビ色をしていたが臭いは石鹸そのものだった。洗った服を外に干し、洞窟に戻った椿は、そこに来てようやく。
「読むか」
と祭壇の上の紙を読んでみることにした。いつもの癖で紙になにか仕掛けがないかを調べるため、軽くさわってみたり、めくってみたりしたがなんともなかった。持ち上げてふってみるが、特に隙間から落ちたりするものはない。ひとしきり確認したので内容を読んでみる。
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獅子翁 椿くんへ
君に、ある頼み事をした。これは君にしかできないことだと、わたしは思っている。たがらこそ、君がこれを了承してくれたことを、とても喜ばしく思う。やってもらうことはとてもシンプルだ。君にはその世界を探索してほしい。もちろん世界の隅々までだ。とても厳しい世界であり、困難や災害など、道中色々なことがあるだろうけど、君ならなんなく乗りきれると確信している。時にはこちらからの一方的な要請で動いてもらうかもしれないが基本的には君自信が自由に動いてもらって構わない。昔君がやっていたように、道中誰かを救うため行動しても良いし、何かの事象について調べてみても良い。ただあることが起きたときだけは速やかにその場所に向かってほしい。それが一方的な要請というものにあたる。端的にいえば、早くつけばつくほどより良い結果になると思ってほしい。さて、その方法を説明する前にまずその世界にある特異な性質について説明しよう。イメージによる具現化が可能なのだ。限度はあるが、構造や性質を理解していれば、それを作り出すことが可能らしい。超能力とも言える。おそらく君もその理に適応されるだろう。道中是非試してほしい。そして頭のなかで地図を思い描いてほしい。おそらく君がみた範囲の情報が簡略化され表示されていると思う。
椿が言われた通りにしてみると確かに頭に地図が浮かぶそして少し離れたところに赤い点が強調されるように表示されていた。怪訝に思いながらも読み進めていく。
その地図は君が世界を知れば知るほど精密かつ広大なものとなる。それを埋めてもらうことが最終目標ではあるが大変な作業になるペースは君に任せるよ。なに、時間ならいくらでもある。そして優先してほしいあることについてなんだが思い浮かべたマップに赤い点が表示されたときだ。
椿はその瞬間動いた。紙を台座に起き走り出す。洞窟を出たところで一目で目的地がわかった。赤い点が指す辺りが激しく燃えているのだ。それを確認するや否や移動を開始する。アスリートを彷彿とさせるような見事なフォームと速度で常人を越えた速度の移動をする。そして燃える木々の近くまで来たところで、椿の瞳から色が消えた。
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わたしはノール村のハニとレジの娘ハル、私たちの村では木々と共に暮らし自然を愛する習わしがある。文字通り木の上に家を作り木と共に生活する。そんな私の村では男女で仕事が別れている。男は魚を取りに、女は自然に感謝する歌を歌いながら食べる分だけの木の実や植物をとる。というものだ。広い村ではないからすんでる人のことはみんな知ってる。優しくて暖かいとてもいい村だ。その日もいつも通りに漁から帰って来たお父さんを、先に帰ってきてたお母さんと一緒に迎えた。夕飯の時間、お父さんの持ってきた魚とお母さんがとってきた木の実と野菜のスープはとてもおいしい!そんなひとときの途中、外から唐突に悲鳴が聞こえた。お父さんが急いで家から飛び出す。そして外をみるとすぐに私とお母さんを大声で呼んだ。
「ハニ!ハル!!今すぐに逃げなさい!!」
お母さんはすぐに私を抱き抱えるとお父さんの見ていた反対方向に走り出した。木から木へ飛び移る。私が下を覗くとそこかしこが炎に包まれていた。お母さんが行きなりピタリと止まりなにかを見ている。私も自然とそっちに目がいく。そこには緑の鱗と鋭い爪を持った4メートルはありそうな化け物がいた。
「サラマンダー!?」
(なんでこんなところに……そもそもどうやって地脈の結界を突破したの!?)
下では男たちが必死で弓矢による牽制を行っていたが炎の前には無力だった。次々と炎にのまれていく、魔法で対抗しようとするものもいたがレベルが違いすぎた。全く歯が立たない。ハニはそれを見て逃走を再開した。村の外れにこの村1の戦士がいる。その戦士に助けを求めるためだ。そして目の前の暗闇から火柱が上がった。それはちょうど目指していた戦士の家の方向だった。
「……嘘」
ハニには一瞬見えてしまった。さっきの倍はある巨駆のサラマンダーがいることを。
(キングサラマンダー!?なんで竜クラスの化け物がこんな森に!?)
恐怖と絶望感からか足が止まってしまい、後ろの気配に気づくことはできなかった。
「お母さん!!」
娘の声に正気に戻ると後ろには爪を構えたサラマンダーがいた。娘を抱え飛び退こうとするが少し遅かった。両足の膝から下をサラマンダーの爪が切断した。