通報報告数千件
「ポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチ(スマホを打つ音)」
キンブルクは一日中、スマホをいじりながら通報活動をしていた。
彼はいつもは、新聞社員として活動していた。機械人間は身体的に疲れるという概念がないため、休みの日はない。もとより休みという概念がない(ただし、朝と夜の区別があり、日が沈んだら業務終了)。休む間はないのだが、いじることは造作もないのである。
一日の平均通報数は3000前後である。彼は様々なヘイト的キーワードを検索して、それを投稿している輩どもを躊躇なく通報している。
マシーヘルで使われているSNSは一国につき一つとしている。アカウントは複数の所持が可能となっている。国営のためいわば公共のサービスに相当する。キンブルクのいる国(以下、S国と呼称)の場合、報告された投稿は全て「言論保安省」という役所により凍結か否か判断される。
凍結への条件は憎悪表現、侮辱表現、偽情報の三要件を満たせば凍結される。どれか一つか二つ該当しなければ凍結はできないが、体の部位の一部が喪失することとなっている。通報への結果発表は1日後の朝としている。
キンブルクは就寝する毎に、「明日はいくつ凍結されているんだろう。」と楽しみにしている。凍結報告が来ればその日のテンションは半端ない。しかし、0件であれば相当頭にきており、国に不満を愚痴ることさえある。キンブルクは一種のサディスティックな状態に陥っていた。
ある日の朝、凍結報告が来ており、キンブルクは爽快な気分でいつもの職場に向かった。
「おはよう、諸君!今日も仕事がんばろう!」
「...ってあれ、リボルトは?遅刻しているのかい?」
リボルトはキンブルクの右隣の席で働いており、良き同僚であった。
新聞社の上司エントラルが言った。「彼は4回目の凍結を受けて、消えてしまったよ...」
「なんてことだ、いったい誰がリボルトを通報したんだ!」キンブルクは憤怒し、悲しんだ。
しかし、理由はすぐに分かった。
リボルトの右隣に座って働くパーコフはリボルトのSNSのすべてのアカウントを知っていた。彼は20ものアカウントを持っており、一つは憎悪表現に満ちたアカウントであったのだ。
まさかとキンブルクは慌てて自分の凍結報告を確認したところ、パーコフに教えられたリボルトのアカウントが凍結されてしまったのだ。
「そんな..リボルトがそんな奴だなんて..俺が彼を消し去ってしまったのか。」
キンブルクは自責の念と裏切りへのショックへ動揺していた。