主人公?いいえ、妖精さんです
「……おい、大丈夫なのかこいつは」
「死んでる?」
「息してるのに死んではいないだろう」
「誰か起こしたら?」
「嫌よ、見てこの髪に服。関わりたくないわ」
青い空に緑豊かな大地。
穏やかで、平和で、人々は皆笑ってる。
そう、表面上だけは美しく塗り固められている。
そんなつまらない世界だ。
美しい顔をした少年は無表情に家路を歩いていた。
いつも通りに薬草を採取し、いつも通りに薬を作り、いつも通りにそれを売り、いつも通りに飯にありつく。
そんな日常の繰り返しを、その日もする予定だった。
あるイレギュラーが起こるまでは。
「何をしていらっしゃるんですか?皆さん」
家に帰る道の途中、それもど真ん中に人だかりができていた。
邪魔だな、と少年は一瞬眉を動かし、そしてまた無表情に戻して人だかりに問いかけた。
人だかりは一様に肩をビクリと跳ね上げさせ、そしてその中の一人がおずおずと声を出した。
「これは……妖精さん。いやね、人が倒れているんですが、何やら妙な見た目をしておりまして……なんだか変な臭いもするし、ここらの者じゃないでしょうからどうしようかと」
やれやれ、と少年は目を細めた。
これだけ人が集まって誰一人何もしようとはしないとは呆れたものだ。
そんなに誰も関わりたくないのなら、この村内から摘み出すか、この場で殺して畑の肥料にでもしてしまえば良いのに。
「どれ、ボクにも見せて頂けますか?」
少年の一言に、人々はさっと道を開けた。
少年は開いた道を通り、一度背負っていた自分の籠を地面に下ろした。
そこから近寄って見てみると体格の良い男がうつ伏せで倒れている。
確かに見かけない服装をしていた。
随分と軽装で、見たところ何も持っていない。
ボサボサの髪に、風呂に入っていることもなさそうな臭い。
どこかで賊にでも遭ったのだろうか。
「どうしましょう、妖精さん」
「このままここに捨て置くのも、ねぇ」
自分達では何もしない、しようともしない人間達に、少年は軽く頭痛を覚えた。
(まぁ、異端を嫌うのは人も妖精も同じ、か)
なるべく関わらず、なるべく手を汚さずに排除したがる。
それは人という種族に限ったことではないなと少年は思い直した。
「それなら、ボクがこの人を一度家に連れて帰ります。害を為すようでしたら森にでも捨てて魔物の餌になってもらいましょう」
少年がそう言うと、人々はホっとしたように口々に少年に礼を述べた。
薄っぺらい言葉にいい加減嫌気が差し、少年はさっさと男にその長い人差し指を向けた。
すると、180cmはある肥満体の男の身体がふわりと浮いた。
(無駄にMPを使ってしまったな。その分この男には働いてもらおう)
少年は浮かせた男を先導させながら、自分の荷物を持って再び家路についた。
村から多少離れた森寄りの木造りの家、そこが少年の家だった。
扉を開けて木でできたテーブルに背負っていた籠を下ろし、男をそのまま風呂場へと浮かせて運んだ。
男はまだ起きない。
あれだけ周りで騒がれても起きないのだから、ちょっと声をかけたくらいでは起きないかもしれない。
少年は男を風呂釜に下ろすと、サラサラの金髪をなびかせて薬草を保管している部屋へ足を運んだ。
沢山ある引き出しの中から赤紫色の花を一輪取り出し、男の居る風呂場へ戻ると、その花を男の鼻へ近づけた。
案の定、男は瞬時に悲鳴にも似た声を上げて目を覚ました。
「な、なんだ!!?今、肺を鷲掴みにされたような……」
「よかった。目覚めはどう?」
相変わらずの無表情で少年は問いかけた。
男はポカンと口を開けたまま微動だにしない。
「えっはっん、え?」
状況が理解できていないらしい彼は言葉にならない言葉を繰り返している。
少年はそんな男を見下ろしながら淡々と言い放った。
「説明なら後でゆっくりしてあげるよ。だから今はとにかく風呂に入って。……言葉、分かる?」
男は返事はせず、ただ首をブンブンと縦に振った。