タマゴと母
久しぶりに実家に帰ると、父が楕円形になっていた。
正確には、タマゴ型とでも言おうか。
色白でまるまると太ったカラダ、それとつながるようなナデ肩の上にある円錐形の大きな顔、頭髪もなくなってしまっていた。
その姿は、まさに、手足がついたタマゴそのものだった。
半年前に見た時はまともな人間の形をしていたのに。
玄関で出迎えてくれたタマゴの父を見て思わずボクは呆然としてしまう。
――どういうこと?
そんな目配せを母にしてみると、
「……陽気のせいかしらね」
それだけを短く答えて目をそらした。
その後、玄関で何か一言二言会話をしたが、ボクはほとんどうわの空だった。
ボクに入って来るように促して父と母は私に背を向けた。
言われるがままに、玄関を上がり、二人の後ろをついていく。
と、目の前にある父の後頭部にヒビが入っているのを見つける。
ハッ、とボクは気がつく。
もしやこのタマゴは割れるのではないか、と。
タマゴを割れば、中から筋骨隆々な元通りの父が現れるのかもしれない。
この後頭部のヒビも、中から父が割り出ようとしているためのものに違いない。
『卒啄同時』という言葉通り、父にヒビがはいっている時、タイミングよくボクが帰ってきた。
――ボクが割ってあげなければ!
ボクは、廊下に飾っている花瓶をそっと手に取る。
背後を付いて歩きながら、何気なく、徐々に父との距離を詰める。
忍び足で、父の真後ろに立つ。
気づかれていない。
花瓶を高く掲げて。
思い切り振り下ろす。
バリンッ
と、大きな音を立てて花瓶がタマゴ型の父にめり込む。
ボクが花瓶を引き抜くと、父はそのまま前のめりに倒れた。
恐る恐る近づき、大きくひらいた後頭部の穴の中をのぞき込むと、
「……あれ?」
空っぽだった。
なにもはいっていない。
――もしかして割るのが遅かった?……いや、早かったのかもしれない。
「あらあらぁ」
すぐとなりにいた母がとまどいの声を上げた。
母は、倒れた父を見て、花瓶を持つ私を見る。
「まぁまぁ」
母が口元に手を当て、さも困ったげな素振りを見せた。
「陽気のせいかしらね?」
そんな母の額に、ボクは小さなヒビを見つける。




