4 私は私を知りたいのです
「え~と、こんにちは…でいいのかな?ごめんね、洞窟だと昼か夜かわかなくて。
それと、いきなり石をぶつけちゃってごめんなさい」
暫しの沈黙の後、ゆっくりとヤツは口を開いた。
「驚いたな。君は喋れるのか。初めて見たよ、そんなゴブリン。
それに強い…というより邪気が無いというべきなのかな。僕の秘技を無効化する存在も初めてだ。
まああの技を食らっても無事ってことは、とりあえず邪悪な存在じゃないらしいね。
因みに今は夕方だからこんにちはで大丈夫」
良かった。ちゃんと会話できる。
異世界にきて初めての会話だね♪
彼の言い方だと、ふぅん、ゴブリンは普通は喋れないのか。
そっかそっか。
ていうか、私やっぱりゴブリンなのね。
話の脈絡からして彼?はどうやら善良な存在らしい。まあ「僕」って一人称を使ったからといって「彼」とは限らないけど、とりあえず「彼」でいいでしょ。
ていうか、あんな変なポーズで技を出すあたり厨二っぽいけど、話すとわりと普通っぽいね、この人。
「えぇ、喋れるわ。それにたぶん邪悪な存在って者でもないと思う」
そう答えると、不思議そうに彼が聞き返す。
「と思うってのはどういう事?」
それから私は彼に、自分に数分前までの記憶がない事、いきなりこの近くで♂ゴブリンに襲われそうになって洞窟に逃げ込んだ事、これからどうしたらいいのか分からない事などを話した。
転生した事はこの際黙っててもいいだろう。
そしてできるならこの世界の事を教えて欲しい事、自分の置かれた状態や自分の能力を知りどう生きるかを考えたい事も伝えた。
改めて考えると現状が分からないのは致命的だよね。
何をするにしても周りの環境と自分を知らなきゃ先に進めない気がする。
知ることができれば身の振り方を考えるベースになるだろう。
「成る程ねぇ。
この世界の事はもちろん教えてあげられるよ。
それと自分の事を知りたいというのは、まずはステータスの確認がしたいという事でいいのかな。
♀ゴブリンだというのは確定みたいだけど」
「うん」
「そうか。解った。
しかしそうなると…参ったな…
実は僕は他人のステータスは見られないんだ。
自分自身のステータスは見ることができるけど、他人のステータスを視るには鑑定というスキルが必要なんだが。
う~ん…どうしたもんか…
単に今のステータスを覗くだけなら鑑定スキル持ちを紹介すればいいんだが…」
何やらブツブツと呟いた後さらに彼が言う。
「通常ゴブリンのような下位モンスターには自身のステータスを見ることすら無理なんだが…
ふむ、ところで君は処女か?」
そう言いながら彼は興味深そうに私の下腹部を見て…
視線を感じながら私も自分の体に目線を落とし、そうして私は自分がマッパである事を再確認したのだった。