21 ブルータス
私は今、湖の汀に立てた一本の杭に片足で立ち、両手を水鳥の翼のように広げながらバランスを取っている。
この体勢から身を屈め、軸足を振り上げると同時に逆足を杭に降ろしてまた一本足でバランスを取る。
「シャオ」って言いながら両手の爪で物を切り裂く事はできそうにない。
が、きっと足腰の鍛練と蹴り技の訓練に違いない。
ホネオを師匠の元に連れて来てから三日が経った現在、私の日課はまた変化を遂げていた。
あの日ホネオを連れた私をジト目で迎え一度だけ軽くため息をついた師匠だったが、ホネオとの経緯を話した後は一緒に過ごす事を受け入れてくれた。
ホネオはというと、見目麗しい師匠に入れ込むかと思いきや、やはり下着を着けていないという理由で全くなびく様子を見せなかった。
ていうかスケスケでもない服を着た状態で瞬時に下着の有無を判断できるホネオはやっぱり普通じゃないと思ったね。
その後師匠との情報交換でこの世界に下着の概念が無い事を知ったホネオは、前世の知識を遺憾なく発揮する事となった。
概念すら無かったこの世界に下着愛が溢れ過ぎるホネオがもたらしたイノベーションは師匠の琴線に触れまくり、伸縮性に優れた師匠の糸のお陰もあってその日のうちに私の裁縫時間に生かされ、あれよあれよという間に立体裁断によるブラ(ワイヤー無し)とショーツが誕生する事になったのだった。
流石下着フェチと言っておこう。
お陰で師匠も私もしっかりショーツを履いている。
え?ブラ? いたしません!
私、生後まだ1ヶ月ですもの、そんなもの必要ないわよ、オホホホホ……どうせツルペタだよチクショウめ!
じゃあ何の為にブラ作ったかって?
師匠が大喜びで着けてるのよ男の娘のくせに、チッ!
だいたいあの胸、いったい何でできてんだろ?
もしずっとペッタン子だった場合、痛くないなら私も入れて貰おうかな…
それはともかく朝のお務めも変化があった。
まず、洗濯はホネオの担当となった。
くれぐれもクンカクンカすんなと言い聞かせておいたが、どうやら私も師匠も奴が興奮する匂いではないらしくて
「ショーツを嗅いで欲しかったらせめて三日は履き続けてね」
なんて言うので、絶対毎日履き替えるように師匠にも徹底して貰っている。
すっかり意気消沈したホネオは洗濯しながら
「水の冷たさが骨身にしみる」
とかボヤいてたけど、身はついてないからね!
壁と塀のペンキ塗りは終了して、その時間は今やってる最中の杭に立っての訓練だったり、豪華客船の舳先で両手を広げてセリ○ヌ・ディオンを歌ったりしている。
えっと、ほんとはホネオが揺らす小舟の舳先に立って、湖に生息してる鱒みたいな魚を銛で突いている。
この魚は鮭みたく身が紅くは無かったけど、味は鮭そのものだった。
スラマサが日本でもイワナやヤマメみたいに海に降りない鱒科の魚は身が紅くないって言ってたけどホントかなぁ。
ニジマスとか紅っぽそうなんだけど…
前世で食べた事の無い私にはホントかどうかは判らないや。
鮭っていったら、やっぱり白米が欲しいな…
とかなんとか色々考えながらではあったけど、私は杭から落ちる事なく本日のバランス&キックをやり遂げた。
よし、今日も美味しい魚を突くぜ!と気合いを入れ直して舟で近付いてくるホネオを振り返って…杭から落ちそうになった。
な ん で お 前 が 私 の シ ョ ー ツ を 履 い て い る !?
ブルータスお前もか!スラマサといいホネオといい…
「てめぇ、ホネオ!バラバラにしてやるからそこになおれ!」
私は杭から舟の舳先に跳び移りざま片足を振り上げた!
爪先は綺麗にホネオの顎を捉え、バラバラになって吹き飛ばされた奴はそのまま湖へと落ちていく。
見ろ!ホネがゴミのようだ!!
そして何事も無かったように舳先に佇む私!
よし、訓練の成果出てんじゃん♪
「究極の力を手に入れたぞ!逆らうやつは皆G…げふんげふん」
これじゃ悪者みたいだし、究極の力でもなんでもなかったね。
さて、どうやってホネオのホネを回収しようか…
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