11 そのスライム残念につき
仲間になったスライムの前世は自分の命を無駄に散らすドアホだった。
私は一頻りその死に方に説教し、何も反論できない彼は黙って頭を垂れていた…ように見えた。
スライムだからホントのところはどうだか分からないけど。
深~く反省しているように感じたので一つ大きく溜め息をついた後、私は彼を糾弾するのを止めた。
それから私達は日本語のままでポツリポツリと話しをしながら並んで道を進んだ。
私がこの世界に転生してきてからの一連の話しや、元の名前からもじってリリィと名乗っている事。
ゴブリナを目標にしている事、これから向かおうとしている場所の事。
彼の生前の名前が柘植将希だった事。こっちでの名前はまだ無い事。
私自身そうだったけど、たぶん魔物になってから名前という概念があまり無くなったんだろう。
彼は元大学三年生でテニスサークルに所属していた事。聞いたこともない大学だったけど…
最後に調子こいて死ぬような失敗もしたけど運動は得意だった事。まあ名前は飛猿風だもんね。
転生する時に女神の出現やアナウンスはやっぱり無かった事。
この世界にはテンプレの転生担当の女神なんてのはいないらしい。
こっちに転生してから一週間くらいで、生まれたてのスライムだった事。
自分のステータスはやっぱり見られない事。
米、ポテチ、マヨネーズについてもノリで言っただけで、実際には何を食べても味はあまり分からないそうだ。
だいたい何でも食べられる事。
ただ何か特別なご馳走があるんだって。
ゴニョゴニョと言葉を濁して教えてくれなかったけど。
「さっきの話じゃボッチだと思うし一応聞いとくけど…
テンペストドラゴンの友達とかいないよね?」
「いたらゴブリンについていこうなんて思わないよ」
そりゃそうね。
このスライムの魔王ルートは無いな、きっと。
そんな話をしているうちに前方が開けてきた。どうやら森を抜けるみたいだね。
まだまだ話したい事はいっぱいあるけど、とりあえず森を抜ける前に私にはやることがある。
なのでスライム君に
「ごめん、ここでちょっと待ってて」
と言い残して木陰に入った。
…
お花摘みですが何か?
ていうか紙が無いのは不便だよね。
仕方ないから葉っぱ揉み揉みして拭いたげどさ。
どうせゴブリンなんだから平気だろとか言わないの!
手を洗えないとか色々不満はあるけれど、とりあえず無事に花を摘み終えて小道まで戻ってきたのに、何故かスライム君が見当たらない。
どこ行ったんだろアイツ?
キョロキョロ探していると、どこからか音がする。
なんとなく水溜まりに足をとられた時のような音…
ん?
これって私がお花摘んだ方向じゃね?
恐る恐るその場所に近付き覗き込んでみると、さっき私の作った水溜まりで楽しげに水浴びするスライムの姿があった。
な、な…
何やっとんじゃ このアホーっ!!?