「料理バイキング 白鯨」中編
なんなんだ・・・ あの俺の席に座っている客いや人は・・・・・・ ウェイターもなぜ俺の席に案内したんだ・・・ いや、違ウェイターがあの席に案内したのか・・・ 考えるだけ謎は深まる。ただこのままトレーの上にバイキング料理を取って突っ立たままでいるのはつらい。狩猟から意気揚々と帰ってきたらこれだ・・・ 俺は虚をつかれた。これでは周りの数人の客からも変な人扱いされてしまう。ここは思い切って声をかけるか・・・・・・
「あのー その席・・・ 私の席なのですが・・・ 席をお間違えではないですか?・・・・・・」
トレーの上に乗せたバイキング料理をテーブルに置き聞く。ここは本来俺の席だというアピールにもなる。もし退かなければウェイターでも呼んで退かせよう。
「いえ、ウェイターにここへ案内されたので私の席で間違いないかと・・・ もしや・・・ あなたも食レポーの・・・・・・」
どうやら俺だけではなかったようだ。俺の人生、俺の世界で物語が進んでいるのに突然出てきたモブ・・・ いや脇役に主役の座をかっさらわれた感じだ。俺だけが食レポーの運営側から招待されたわけではなく他にもいたのだ・・・ 1人いるとすれば・・・ まだ増える可能性はあるな・・・・・・
「そうでしたか・・・ あなたもーでしたか・・・ では相席いいですかな・・・・・・」
元は俺の席、俺がこいつより先にここにやってきてウェイターが俺に案内してくれた席だ。なぜ俺が下手にでなければならないのか・・・・・・
「フフフ・・・ バイキング料理は初めてですか?・・・・・・ いいですねその盛り方・・・ まぁ、私はしませんがね」
ネット上の食レポーたちのレビュアーサイト「美味の漢字は美味い味と書く。」では大きく分けて2種類の人たちで形成されている。1つは美食家いや豚たちだ。金に物を言わせて人類の数パーセントしか食べることのできない食材を使った数々の料理を一口だけ食べ、後は一切その料理の皿には手を付けない。豚たち向けにレビューを書いている富豪食レポーたち。俺は豪食レポーと呼んでいる。
そして俺のような豪食レポーたちとは違い出された料理、注文した料理はすべて食べる庶民こいつらからすると貧民食レポー・・・ こいつらは俺らのことを貧食レポーだと呼んでいる料理の味もわからぬバカ舌と。この2種類の富豪か成金かよくわからない金持ち連中と庶民たちの食レポーだ。
「いえ、バイキング料理は何度か・・・ バイキングは好きなものを好きなだけ取って食べてもいいんですよ?一口しかお食べにならない・・・ お金持ちの食レポーさんは知らないかもしれませんが・・・・・・」
俺が最初に座っていた席はこの豪食レポーの奴が座っているためウェイターに椅子を持ってきてもらいその椅子に座る。やはりあれは俺だけの予約席だったのではないかと思う。1つしか椅子を用意していない予約席に案内するものだろうか・・・ 俺も彼奴も運営側が用意した乗り物でアイマスクをしてここまで連れてこられたというのであれば運営が予約席に1つしか椅子を用意していないということがあるわけがない。
「そんな量の料理をガツガツ食べては他の味も・・・ 他のバイキング料理も食べられないのでは?食レポーなのに基本的なことも知らないとは・・・・・・」
此奴とは仲良くできない。住んでいる世界が違うと言えばそれで済むのかと言うと違う気もするが・・・・・・
此奴らの食レポレビューは店のすべての料理を・・・ フルコース料理をサイド料理を頼んで食レポすると言った感じのものだ。確かに店のすべての料理を食べることでその店の真の価値・・・ いや料理の味を知ることができ食レポレビューを書くのにあたって重要なこともわかるかもしれないがこのやり方は間違っている・・・・・・ 店に入ってメニュー表を見てどの料理を食べようか・・・ 食べ合わせはどうしようか・・・ どの料理がご飯に合うのかどうか。彼奴とは友達になれない1つの理由だ。
何を言っているのかよくわからない此奴の話を無視してバイキング料理を食べ始める。テーブルの上には調味料が数種類と箸やナイフ、フォースやスプーンと言った物が箱の中に入れられている。和洋折衷好きな料理を好きな道具を使って食べることができる。だが俺はこれを使わない・・・ 俺は俺箸を使う。俺は胸ポケットから俺箸を取り出す。持ち物のリュックサックは店に入った時にウェイターに預けていたため俺箸は今回は胸ポケットからだ。
「フフフ・・・ 貧食レポーの人でも自分のマイハシ持っているんですね。割り箸で食べるのかと思ってましたよ」
「いただきます」
無視をして食べ始める。今日は使い捨てカメラはなしだ。運営が用意した車に乗るときにスマフォやカメラ類はあとで返すと言って取られてしまっているためなしだ。今回の「料理バイキング 白鯨」の選ばれた食レポーだけが行える食レポレビューだというのに証拠が何もない。運営側だけが知っているほかに証拠となる物が何か欲しくなる食レポだ。
このテーブルの上に置かれているフォークでも俺箸を胸ポケットにしまうときに一緒にしまって持って帰るか・・・・・・
まずは・・・ 魚飯だ。海賊船のような見た目の店だったため魚を使った料理を食べようと取ったのだがこれは正解だった。丁寧に作られていて魚の小骨などみあたらない。もし食べ始めてこの魚飯の中に小骨が入っていて口の中でその小骨が見つかったら俺はもうこの「料理バイキング 白鯨」を信用できなくなる。だが小骨は見つからないので信用はまだ失われていない・・・・・・ 次にミートパスタを食べる。パスタは1.9mmで食べごたえがある。0.9mmなどは食べごたえがなく俺はあまり好きではない。これは好みの問題でもあるがミートパスタは1.9mmこれは譲れない。先ほどからバイキングに来たのにも関わらず料理を取りにいかないやつが同じテーブルに座っている。これだから金持ちは嫌いなのだ。バイキングなのにシェフなんかが出てきて一つ一つの料理をウェイターが運んでくれて1つ1つの料理の説明をしてくれるとでも思っているのだろう・・・ とんだ野郎だ・・・・・・ こんな奴が俺と同じ運営が選んだ食レポーとはな。
これは運営は減点だ 食レポーとしての俺の価値が下がった。 選民意識を持ってもらいたいものだ。
魚飯とミートパスタを食べ終えコーンポタージュを飲む。少し冷めてぬるくなっていたが丁度良いくらいだ。アツアツのコーンポタージュなどすぐに飲み干せるものではない。ゆっくりと食事の中で冷ましながら飲むこれがコーンポタージュだ。初めに取ってきた料理を食べ終え俺は次にどうするか何を取るか冷ましたコーンポタージュを飲みながら考える。次はデザートも取るか・・・ スシやステーキなんかもあったな。他の客を見た時に見えた丼物もあるみたいだが・・・・・・ 次に取る料理を決めトレーの上にどのような配置で乗せるか考える。
考えている途中でシェフが料理を運んでやってきた。 あれ・・・ 作りたてのシェフが食べてもらいたい料理を客の前まで持ってきて皿に盛ってくれるのか・・・・・・ そんなサービスもあるんだな。そんなことを思っているとシェフが料理を俺たちのテーブルの上に置いていく。 おいおい、そんなに置かれても食べきれないぞ・・・ これから2回目の狩猟を行おうって時に狂ってくるじゃないか段階が・・・・・・ そう思っているとシェフが料理の入った皿を10枚ほどテーブルに並べただろうか俺のスペースまで侵入してきている。並べ終わったシェフがこちらを見てきている。
「こんなに料理を持ってこられても・・・ ここから好きな料理を選べばいいんですか? これとこれを・・・・・・」
俺が料理を選んで食べようとするとシェフの顔が変わった。
「お客様っ それはこちらの・・・ 食レポーのお客様のものです」
俺も食レポーだが。 俺も食レポーの端くれなんだが。 俺も運営側から招待されてこの「料理バイキング 白鯨」に呼ばれた食レポーなんだが・・・・・・ 食レポーの星2. 3の男タカシでなかったら俺はいったい誰なんだ・・・・・・
「おいおい お行儀が悪いですよ。 これは食レポーの私この星3. 8星の女ベルのモノですよ」
「さ、さ、3. 8だと・・・ 星3. 8って言ったら上位側の人間じゃないか・・・」
「美味の漢字は美味い味と書く。」では食レポーたちが料理店のように星で評価されている。評価の基準はいかに店の食レポを正しく行われているか、舌は確かか、食レポレビューがうまいかどうか。あとは運営の中にある基準点で評価されているらしいが俺はまだ詳しくは知らない。星は1. 0~5. 0までありレビュアーには運営に評価され星が与えられている。上位の星3. 5~5. 0は一定の人数しか存在しない。俺が狙う星4. 3へ行くためには邪魔な存在だ。
つい動揺してしまう。選んだ皿を手に持ったままで手の震えが隠しきれなかった。こんなところで会うことができるとは・・・ まだまだ俺には会うことができない食レポーかと思ったが思いもよらない結果となった。白鯨を食らい尽くす前に此奴を食らい尽くす必要がありそうだ。
「ええ、星3. 8ですよ私は。星2. 3の男タカシよ・・・ あなたが私に追いつけるとでも?その皿の料理はあげますわ・・・ もうその皿に星3以上の価値はありませんもの」
俺が取った皿は必然的に星2. 3以上にはならないみたいだ・・・ 上位側でも一番下から数えた方が早い星持ちが何を言い出すかと思えば、だが俺はこんな奴以下なのが現状だ。勘違いしてもらいたくないのだが俺たちがやっている食レポーは戦って勝った方が上の星を貰うといった感じのことをやってはいない。星を上げるためには食レポレビューをしまくって運営からの評価を上げるまたは此奴ベルみたいな俺よりも運営から評価が高い奴に招待してもらう・・・ これは屈辱的であり誰も自分より星が高いレビュアーに招待してもらったということを聞いたことがない。これは食レポーが嫌う星の取り方だ。なので順当に星を取り上げていくには正しい食レポレビューをするしかないのだ。
「はは それは申し訳ないことをしてしまいましたね。ではこれは勿体ないので私が・・・・・・」
屈辱ではあるが仕方がない俺は此奴より下なのだ。グッとこらえる。手に取った皿を真っ二つに割りそうになる。シェフがこのピリピリとした感じを強張んだ顔をしていた。早く俺たちから離れたいといった感じか。無理もない俺も早く帰りたくなってきた。
シェフが運んできた料理を1つまた1つと料理の説明をしている。ベルが一口食べた後、皿をシェフに提げるように渡し運んできたものに乗せていく。勿体ない食べ方だ・・・・・・ シェフも自分が作った料理を一口ですべて分かったような気で食レポレビューされてはたまったものではないな。たくさん運ばれてきた料理を俺が1皿目を食べるより早く食べ終えベルが席を立つ。
「まぁまぁ、ですわね・・・ では私はこれで、星が移ってしまいますわ。フフフ・・・・・・」
そう言って店から出てしまった。ベルはバイキング料理にきて自分の好きな料理を食べずにシェフが選んだ料理を一口ずつだけ食べ店を出てしまった。
「彼奴・・・ 何がやりたかったんだ。バイキング料理店だろここ・・・ 自分の好きな料理を自分で取って食べないとか・・・・・」
「おっしゃる通りです。一口だけ食べ料理を突き返されるのは私も作る身としては悲しいものです」
シェフはそんなことを言ってベルが一口だけ食べ残した料理をもって帰る。背中が哀愁を漂わせている。
こんなこと許されていいのか・・・ こんなことあんまりだ・・・・・・