表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/9

「喫茶店 ブレンド」後編

「ご馳走様でした」


少し大きく言って俺は手を合わす。マスターが見ていることを確認してから手を合わす。 始まる・・・俺の戦いが・・・・・・

俺はおもむろにアプリをタップする。 ここから勝負どころだ。


「すいませーーーん」 少し大きな声が店の中に響く。声のする方を店の客がちらりと確認するほどだ。


「はいはい 何かご用ですかね?」


マスターがこちらにやってきて俺に確認する。俺は御1人 Bセット ドリンク コーヒー とチェックに入った伝票をマスターに渡す。それは俺からの挑戦状だ。


「はーい お勘定ですね。おや、コーヒーをお飲みになって入ませんが・・・ よろしいですか? はい・・・ レジまでどうぞ」


こいつは・・・ 俺の手作り名刺を見ていながら・・・ 俺に対して何も言ってこないだと・・・・・・

何かの間違いかと一瞬思ったがこれは現実であった。目眩がして・・・ 立ち眩みがしてふらつく。

俺もまだまだだな・・・ 名刺を渡してもまだ気づいてもらえていない。 これは俺がまだそこまで力を持っていないと烙印を押されているようなものだ。 俺も頑張らないとな・・・ まだまだ食レポーを引退はさせてもらえそうにない・・・・・・

困ったなと言った表情を少し浮かべながら俺はレジまでオーナーの後ろをついて歩く。今日の決戦場はレジ前だ・・・・・・


「えーと Bセットが1・・・ ドリンクが・・・ コーヒー1杯と・・・ 合計でせっ・・・」 ピピッ ピピピ 軽快にレジを打つ


すかさず割り込む。危なかった・・・ 一瞬逃すところだった・・・ このタイミングを逃していれば俺はお金を支払うことになってしまっていたかもしれないと考えると気が気ではなかった。このマスターなかなかやるな・・・・・・


「えっと・・・ 私の名刺ご覧になっていただけましたか・・・・・・?」


まずは軽めにジャブを入れる。相手と自分が今どれだけ間合い・・・ いや距離があるのか確認する。この結果次第で俺は作戦を変更しなくてはならないからだ。俺はオーナーがレジを打つのを武器を使わず止めさせることに成功した。


「はい・・・ お客様からのお名刺は拝見しましたよ。えーとっ 食レポー・・・?の、えーと・・・ 星2. 3のタカシさんと言うのがお客様のお名前ですかね・・・? すいません、私は横文字とか苦手なものでして・・・ その食レポー・・・ とか言います会社?のお偉いさんでしたか・・・ その星2. 3のタカシさんと言うお客様は・・・・・・?」


しまった・・・・・・ ここまで無知なマスターだったか・・・ 改めて自分がまだ多くの料理人いや店の従業員にまた、オーナーやマスターに知られていないことを確認した。俺はネット上の食レポレビュアーサイト 「美味の漢字は美味い味と書く。」の有名食レポーだぞ・・・ 俺が評価した店は一気に無名の座から有名の座へ駆けあがっていくシンデレラストーリーの舞台になるんだぞ・・・ それを・・・ ご存じない・・・・・・・ ここのマスターはご存じない。


「いえ、大したものではないのですがね・・・ 私食レポーと言いましてね・・・ まだ知られてはいない美味しい料理をなんといいますか・・・ ご紹介とでも言いましょうか、ええ・・・ しておりましてね。つきましてはそのー・・・ このお店の私が食べたBセットのモーニングセットをですね・・・ 皆様にご紹介させてもらってもよいかとお伺いをしたいのですが・・・・・・」


まぁ、これで気が付けば俺は苦労しないさ。まずは相手との距離を詰めていかなくてはならない。相手の懐に入るのには基本は煽てて・・・ 褒め殺しだ。色々な殺し方があるが一番殺される人が喜ぶ殺し方の一つではないかと俺は思っている。現に俺も褒め殺しには弱い・・・・・・


「おやおや、そうでしたか。そのー・・・ 食レポーという集まりでご紹介していただけるのでしたら大変うれしいです。その客様の会社か何かの人たちとまたモーニングセットを食べに来てください。ランチもやってますのでぜひに」


ダメかー・・・ うーんちょっとずつと言うか本当にちょっとずつだな・・・ こんな感じで相手との距離を縮めていく作業は根気がいるが・・・ やりがいがある このコーヒー豆挽きマスターとの戦いは続く


「ええ・・・ そうさせてもらいます。ご紹介の許可を下さりありがとうございます。そのー・・・ この店の名前の由来って何なんですか・・・?」


相手の弱点を見つけないといけない。俺は少し焦ってもいた。ここであまり長引かせてしまってはだめだ。短くゆっくりと褒め殺す。じわじわとでは遅い・・・ それだと相手に気付かれてしまう・・・ うすら寒い上辺ごとばかり並べていると・・・・・・


「この店の名前の由来ねぇ・・・ お恥ずかしい話なんですがね、私コーヒーがその大好きでしてね。多くのお客様に私が直にコーヒー豆を見て・・・ 厳選して買い付けて私が最適なコーヒー豆の挽き方で引いた豆をですね、サイフォン式で入れてお客様に飲んでもらってそのー・・・ 美味しいと言ってもらいたくてね。それで店の名前もコーヒーにちなんで「ブレンド」なんですよねぇー」


そうだったのかー・・・ しまった・・・ 俺はそのお客様に美味しいと言ってもらいたいと思って厳選してマスター直々に挽いて入れたコーヒーを飲んでいない・・・・・・ 一滴も飲んでいない・・・・・・ これは俺の最大のミスだったか・・・ よく考えればわかるもんだろ、店の名前が「ブレンド」だぞ「ブレンド」それにわざわざあんな客に見えるところでマスターが直接自分でコーヒー豆を挽いているんだ。あんなにもヒントがたくさん転がっていただろう・・・ 何をやってるんだ俺は・・・・・・ こんなんで俺は星2. 3の男タカシなどと名乗っていたのか。何がシンデレラストーリーの舞台にさせることができるだ・・・・・・ とんだ恥さらしだ。 今日はコーヒー豆挽マスターの勝ちかな・・・・・・



いや・・・ 俺は恥さらしではない。 俺はまだ恥をさらしてはいない・・・・・・ この一滴も飲んでいないコーヒーがいきる。俺に・・・ 暗くなった周りに光を・・・ 真っ黒な液体のコーヒーが俺に差し伸べる。 真っ黒なコーヒーに真っ白なミルクを入れたように光が射す。 豆挽がなんぼのもんじゃい・・・こちとらこれに命はってるんだ


「それなんですがね・・・ そのー・・・ マスターもコーヒーがお好きみたいなのでね言わなかったのですが・・・ 同じコーヒー好きとして心を鬼にして言わせてもらいますと・・・ 私に出してもらったコーヒーは死んでいるんですよね・・・ 例えば焙煎であったとしても時間が経てば内部から腐食していくんですね豆ってね知っていると思いますがね・・・ それでそのー・・・ マスターが豆を粉にしてお湯を入れているときにですね・・・ 膨らんでなかったんですよねこの豆・・・・・・」



レビュアーサイトにレビューを書くにあたって必要なことは誰が見ても小学生が見ても大人が見ても老人が見てもわかりやす事が重要だ。ただ誰にでもわかりやすく書くと小学生の作文のような文章になってしまう。これでは間抜けな感じがする。なので少し・・・ 文章に少し豆知識的なことや専門知識を入れておくことによって幼稚な文章もまともな通な文章になる。だがこれは入れすぎてもダメだ。入れすぎるとただの知識をひけらかしたいだけの幼稚なやつになってしまう。あくまで必要最低限の知識を入れて読み手にその知識を与える。これが重要だ。


「私が入れたコーヒーの豆が腐っている・・・・・・ そんな馬鹿な・・・ お客様それはないですよ・・・それはない。私がどれだけコーヒーを愛しているか・・・ 私は少なくとも私の店に通ってくれるお客様よりは愛しているからだ。その私が入れたコーヒーが腐っているというのですかお客様は・・・・・・」


少し怒ってしまったようだった。まぁ無理もない。自分が一番人には負けたくないといったことでバカにされたのだ。これはいくら温厚な人でもたちまち怒ってしまうだろう。もし俺も、俺が書く食レポのレビューを何も知らない素人に馬鹿にされたら怒りかねない。自分かあたかもその店に行って料理を食べ、書いた食レポの感想として無断転載されてもだ。 少し怒ったようではあったがさすがはマスターだ。自分が間違っているのかすぐに確認する。俺が一滴も飲まなかったコーヒーを口に運び飲む。飲んだ後少ししてから表情が変わった・・・・・・


「おい、咲子 お前・・・ 俺が豆が痛まないように冷暗所に入れておけって言った豆あれ入れておいてくれたよな・・・・・・」


咲子・・・ 妻か夫婦でやっている喫茶店だったか。咲子が俺のこの世に産み落としてしまった暗黒物質を見て必死に笑いを堪えてたのか。許せんな咲子め・・・・・・ 咲子減点だ

調理場から出てきた咲子がマスターへ話し始める。咲子は言いずらそうに会話を始めた。


「入れましたよ私は。裏に置いてあった豆でしょそれ。冷暗所と言いますか冷蔵庫の野菜室に入れましたよ私は・・・」


そう言って調理場の方へ戻っていく。だがマスターは会話をそれで終わらせようとはしてはいなかった。


「咲子お前それは廃棄用のコーヒー豆だ! あれほど言っただろ・・・ 調理場裏に置いてあるやつは品の悪いやつだから客には出せないやつだと・・・ 処分する豆だと・・・・・・」


「そうでしたっけ・・・ 私珈琲豆に詳しくないからね・・・・・・ そんなに言うなら自分で入れればよかったのに・・・野菜室にでも冷暗所にでも」


咲子は悪びれる様子もなく調理場へ戻っていってしまった。今度はマスターの顔色が表情と一緒に変わっていく。 


「タカシさん・・・ 私はとんでもないことを・・・・・・ 私と同じコーヒー好きの・・・ お客様のことを・・・・・・ 腐ったコーヒーをお出ししていたとは・・・ どうか許してください・・・・・・ お代は結構ですので・・・ どうか・・・・・・」



おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!! なんという結末か・・・ 神は俺の味方だったか・・・ コーヒー豆挽マスターではなくこの俺の・・・ この世に神がいるとするならばだが。暗黒物質まで産み落としてしまった私をもお救いになられたあなたこそが本当の神だ。



「顔を・・・ あげてください。 同じ珈琲好きとして私は嬉しい・・・・・・ そこまであなたが・・・ 珈琲を愛しそれをお客様に・・・ 私にお出ししてくれていたとは・・・ 同じ珈琲好きとして私はなんと嬉しいことか・・・ 珈琲豆は傷みやすい・・・ ましてや外側じゃなく内部が腐っているのは気づきずらい、無理もありません。今後は気を付けてくださいね・・・・・・」


勝ってしまった・・・ 俺はまたしても勝ったのだ。頭を上げたマスターが咲子を睨んでいるようだ・・・ 今日は嵐か


「本当に・・・ 申し訳ありませんでした。 ぜひまたお越しください。そのときは・・・ 最高のコーヒーをご馳走します。お代は結構ですので・・・ ぜひお仲間様も連れてお越しください」


そう言ってまた深々と頭を下げる。 気持ちがいい。俺は何も悪くないのにこうやって頭を下げてくれる・・・ むしろ感謝してくれる。 感謝されるのはまぁ当然かもしれないな。俺がこの食レポーの星2. 3の男タカシだからな。安心しろ俺はお前のこの店「喫茶店 ブレンド」レビュアーサイトに投稿してやる。シンデレラストーリーの舞台になれるのを今か今かと待っていればいい・・・・・・


「それは・・・ 嬉しいですね。ぜひ今度食レポーの皆様を連れて「ブレンド」に来ますね。その時は・・・ 美味しい珈琲お願いしますね・・・ 今日の一言、取捨選択いい言葉ですね・・・ 他ではなく私を選んだということですからね」


そう言って店を出ようとするとマスターが俺を呼び止める。 なんだ・・・ まだ何かあるのか、もしかして・・・・・・ まずいことが・・・ あれがばれたか・・・・・・ そんな心配をしていたがそんなことはなかった。


「あのよろしければ・・・ これをどうぞ。そのー・・・ コーヒー豆のいろはもわからなかった私があなたにお渡しするほどの物ではないかもしれませんが・・・ 私と同じコーヒー好きと言うことですのでこの喫茶店入れているコーヒーの豆です。自宅で挽いて飲んでください。この豆は今朝届いたばかりのものですので・・・ 腐ってはいませんので」


そう言ってマスターは俺の腕にコーヒー豆を入れた袋を持たせてくれた。俺は珈琲豆の入った袋をもって店を出る。


ガチャ カランカラン カランコロンカン 


俺が店を出るまでマスターと咲子が俺を見届け頭を下げていた。

店の看板の前で俺は全力ガッツポーズをする。人が見ているかどうかなど知ったこっちゃない。これが俺のルールだ。


俺はバターのぬられたトースト3枚入りの商品を珈琲豆の入った袋に入れ、珈琲豆をアパートのであった下の階の知らない子供に渡し自宅に戻った。


ーーー「喫茶店 ブレンド」----この話はここで終わり。


俺はアパートの自宅に戻って忘れないうちに行った店の食レポを書くことにした。


店名 「喫茶店 ブレンド」 

<星2. 3の男タカシ>評価数174  20○○年3月22日3時15分 初めての来店

料理の味★★☆ サービス★☆☆  店の清潔感★★☆  また食べに行きたいか★★☆ 酒・タバコ:酒なし喫煙孵化 写真なし 枚数0枚

皆さん今日も今日とて皆様にまだ知られていない味をお教えしようと、味を求めて探求してまいりました。

・初めて来店した店でしたが店の外見はごく普通の喫茶店でした。店先ではカフェボードが出されておりモーニング時間やランチタイムの開始から終了時間と言ったことを書かかれておりとても分かりやすかったです。マスターの一言も書かれており面白かったです。


・店構えは駅から少し歩くことになってしまう点が少し残念です。ですが10分ほどですので女性の方でも気軽に来やすい立地となっているのではないでしょうか・・・


・お店の料理の味は美味しかったですね。普通に・・・ 私はモーニングセットのBを頼んで食べたのですが、ちなみにAセットがおにぎり(おかか/梅)でBセットがトーストでした。トーストはサンドイッチに変更も可でした。これは少しありがたいですね。気分によって変えることができる気の利いたお店だと思いました。トーストには始めからバターがぬられており焼き加減も丁度良くとても美味しかったです。付いてきたミニサラダセットには自家製のドレッシングをかけて食べましたがこの自家製ドレッシングがまた美味しかったです。


ここのマスターは大変のりがよくコーヒーを誰よりも愛しており、自分で豆選びから買い付けまでしているマスターでコーヒー豆を挽いてサイフォン式で入れてくれるなかなか本格派の喫茶店は皆様のお近くにはないのではないでしょうか。マスターの挽いて入れた美味しいコーヒーを飲みたい人はぜひこの「喫茶店 ブレンド」へ行くことをお勧めします。 



※水はセルフではありましたが席に備え付けられているので簡単に席を立たずに入れることができました。調味料もたくさん用意されており自分の好きなものをかけてミニサラダセットなどを食べることができます。


ーーー食レポーによる「美味の漢字は美味い味と書く。」のレビュアー終了ーーーー


後日この店では俺が紹介した後、マスターと同じような珈琲好きが訪れるようになったみたいだ。

モーニングを紹介したため今ではランチタイムと同じ数をモーニングでも出すようになり客足も伸びているようだった。

モーニングセットは俺が食べたBセットよりAセットの方が人気のようだ。やっぱり朝はコメが食いたいのが心情と言うものか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ