「ラーメン屋 独自」前編
食レポーたちの食レポレビュアーサイト「美味の漢字は美味い味と書く。」の星2. 3の男タカシはとあるラーメン屋へ訪れた。閑静な住宅街の少し離れたところに位置するあまり立地条件はよくはないお店「ラーメン屋 独自」に来ていた。この店では大豆からスープをつくり小麦粉から麺を作る。そんな感じがラーメン屋の看板からした・・・・・・
俺はフードハンター。美味い食を愛し美味い食に愛された誰もが認める食レポのタカシだ。
もちろんタカシと言うのはHNであり本名ではない。
始めにいっておこう。この話は全て嘘。まったくのでたらめでありついでに言えばフィクションだ。
でも俺が誰もが認める食レポの人。2 .3星のレビュアーだというのは事実である。
俺がうまいと書けばどんなにきったない店であったもたちまちバリアフリー化済みのお年寄りにも優しい店になるか潰れるかといったほどの実力だ。
俺は嘘はつかない。絶対だ。なぜ嘘をつかないかと言うと嘘が嫌いだからだ。
昔の話だが、俺が尊敬していた自称ネットレビュアー兼食レポ会の王と言っていた師匠が店側からお金をもらってその店の食レポをして最高評価の星3とネット上のレビュアーサイトに書いているのを知ったからだ。始めは師匠の舌がバカになって味もわからなくなってしまったのかと思ったがそうではなかった。
俺は激しく裏切られた感が許せなかった。俺が尊敬しているのになぜ俺に対して裏切るようなことをするのだろうか。
このことが原因で人間関係をひどく持つことが嫌いになっていった。決して親友や知り合いがいないわけではない。一人で暇な時間を持て余しているから実際に店に行き料理を食べ食レポをネット上でその店屋の採点行為などをやっているわけではない。
なぜ俺が毎日色々な様々な場所にある料理屋に食レポに行けるのかという疑問を持つ者もいるかもしれないが俺は金持ちではないしご隠居さんでもない。
こんな俺が毎日料理屋で飯を食べることができるのは俺の才能だ。
もちろん金は払わない。なぜなら俺はあまり金を持っていないからだ。金も持っていない人間が料理屋で飯を食べ金を払わずに出ていくことが可能だろうか?いや不可能に近い。だが俺ならそれができる。
今日もまだ入ったことのない店を見つけふらっと店に入る。店に入る前に俺の中での第一評価を付ける。
評価基準は店構えや立地、何の料理を出す店なのかわかる看板か何かを出しているかなどだ。
このふらっと立ち寄った店は
店名 「ラーメン屋 独自」
店構え ★☆☆ 店の見た目があばら家で入る前にここは料理屋かどうか一瞬戸惑ってしまったから星1だ。
立地 ☆☆☆ 場所が悪すぎる、駅から徒歩30分ほどの場所。こんな場所で人が来るのかどうか気になるくらいだ。
どんな店か ★★★ これは看板に堂々と描かれていた「ラーメン」と俺でもわかるここがラーメン屋だと。
この評価基準からこの店は星を付ける価値には値しないと俺は決めつける。俺の第一評価でこの店は最低ランクに近かった。
店に暖簾をくぐって入ると中には店員が一人、これは店の店長かいや店主かラーメン屋の名前からして暖簾分けされた店ではないのは確かだ。独自と言うほどだ自分で研究した大豆から作ったスープや小麦粉から麺でも作っているのだろう、店主の自信を感じることができる店 「ラーメン屋 独自」だ。
「へいらっしゃい 空いてる席へどうぞ」
そう言ってどこに座っても誰にも文句が言われない店内へ入る。なんせ客が俺だけだ。
カウンター席につき壁に紙で書かれたメニュー表を見る。メニュー表を見る際にここの店主の昼時と言うこともあり昼飯の食べかけが目に入った。
こいつカップラーメンを食べてやがる・・・ 自分のラーメン屋でカップラーメンだと・・・
「ラーメン屋 独自」と名前をつけたにもかかわらず自分のラーメンを食べずにカップラーメンを食べているのだ。こんな店のラーメンなど食べるに値するのか。食べる前から気になる。
だが一度入った店で俺は絶対に帰らない。何かメニューに書かれているものを食べる。これが俺の中で決められたルールだ。 メニュー表から今日の昼飯の気持ちを考える。いったい俺は今日この場所この店でどんな昼飯を食べたいか考える。 静かな時間が俺と店主との間で流れていく。店主が俺の顔と昼飯のカップラーメンを交互に見つめている。
「味噌ラーメンとチャーハン。 それと・・・・・・餃子2人前、瓶ビール」
静かな俺と店主しかいない空間で俺の声が店内に響き渡る。 カップラーメンの方を見ていた店主がふと我に返り注文を繰り返した。
「へい 味噌ラーメンとチャーハンそれに餃子2人前と瓶ビールですね。瓶ビールは先にお出ししましょうか?」
「ああ 頼む。それと、チャーハンと餃子は俺がラーメンを食べ終わってから出してくれ」
そう頼むと不思議そうな顔をしていた店主が「へい わかりました」と言って俺の味噌ラーメンを作り出す。
「すいません。うちは瓶ビールセルフとなってますので・・・・・・ 自分であのセルフの水を飲むコップの置いている下のところから出して取ってください」
申し訳なさそうに店主が俺にいってきた。そうかここはセルフか・・・・・・ まぁ俺と店主しかいないんだ。わざわざ瓶ビールを取りに行ってもらっていると俺の味噌ラーメンが出てくるのが遅くなってしまう。構わんよ。いいさセルフサービスで。
店主の話を聞いて俺は自分で瓶ビールを取りに行く、なぜならセルフだからだ。それがこの店でのルール。
瓶ビールを取るついでに水もコップにセルフで入れる。ビールを飲むのに水も飲む必要があるのかと思われがちだが俺はラーメンや料理を食べる前には必ず水を一杯飲む。
水を一杯飲むことによって口の中がリセットされてこれから食べる料理の味に集中できるからだ。もちろんリセットと言うかそんな効果は水にはあまりない。気持ちの持ちようだ。俺はポジティブ思考の人間だ。
俺は水のなみなみと入ったコップと一緒に空のコップを持ってきて席に戻る。持ってきたからのコップへ冷たく冷えた瓶ビールを注ぐ。この店主瓶ビールは冷えているのにビール用のコップを用意していない。減点だ。
冷たいビールをコップに注ぎ一口飲む。乾ききっていた喉を潤していく。
「くはっああああ・・・・・・」
つい声が出てしまった。仕方がない俺はこういう声は抑えられない。それに俺と店主だけの空間だ。店主も俺のラーメンを作るのに集中していて幸い気づいていない。 ビールを一杯飲み終わるころには俺の味噌ラーメンができてカウンターの俺の前に置かれた。
「へい 味噌ラーメンです。食べ終わりそうになったら言ってください。チャーハンと餃子2人前作りますので」
そう言って店主は自分の昼飯に戻る。目の前に出された味噌ラーメンを手元に持ってくる。目ためは普通の味噌ラーメンと言った感じか。悪くはない。この普通を大豆からスープを小麦粉から麺を作ったのだ、この店主はすごいのかもしれない。看板に偽りなしだな。
水を一杯飲み干し俺はレンゲではなくラーメン鉢をもってスープを飲む。味がほのかに香る。焦がし味噌の匂いがした。
うーん・・・・・・ 美味い・・・・・・ が・・・何かが物足りない。なんだ、何が物足りないんだ。100点満点で言うなら40点と言ったところか。俺の食レポに多くの人が期待している。そう思うと胸がきつくします。
ネットのレビュアーサイトに書き込むために写真を撮る。スマフォでバカの一つ覚えのように覚えた指先タップで写真を俺は取らない。写真を撮るのに俺が使うのは、お土産屋さんなどのレジ前で売ってる使い捨てカメラだ。写真を撮る前に俺がどういった人物か徹夜で前に作った名刺を昼飯のカップラーメンを食べている最中の店主に渡し、許可を得る。
快く許可を出してくれた店主には感謝の念をしるし、ぶれないように週刊漫画で高さを調整して取る。
「はい!笑ってーー」 カシャ ジー パシャ ジー カシャ ジー
俺は3枚味噌ラーメンの写真を撮る。ぶれないように取るには少しコツがいる。この使い捨てカメラであればデジタル改ざんはできない。それと俺はフラッシュはたかない。光で飛ばされたスープ本来の色や人間の肌の色と同じように映った麺やレンゲなど食レポレビューで俺は見たくはないからだ。ありのままの店とその店の料理を俺は撮りたい。
俺の味噌ラーメンを取る姿に店主は少し驚いていたように見えるが気にせず昼飯のカップラーメンを食べながら俺の渡した名刺を見ていた。
写真を撮り終え、週刊漫画を元の本棚に戻す。この動作はなるべく早くやる。早くしないと料理が冷めてしまうからだ。
冷めてしまえばどんな料理だって味がかわる。本来の味ではない味をレビューしても意味がない。俺のレビューを今か今かと期待している者たちにも悪い。これでは俺の期待を裏切った師匠と同じになってします。
さっと席に戻り味噌ラーメンを食べる動作に戻る。店においてある箸や割り箸は使わない。俺箸、つまりマイハシだ。
店に置いてある店で洗っている箸では新品でない限り箸が手にまた味に馴染んできているが俺が一番馴染んでいるのはこの箸だ。この箸を店の他の箸なんかよりも俺は信頼している。エコがどうとかなど俺にはどうでもいい。割り箸なんてのは言語道断だ。ラーメンなどの汁系の食べ物ではその汁を俺よりも先に吸っている。俺はそれがどうしても許せない。
俺箸を座っている椅子の左側の地面に置かれたリュックから取り出す。俺の俺箸はリュックによくついているペン差しに入れている。このリュックのペン差しにちょうど俺の俺箸1膳が収まる仕組みになって入る。リュックから取り出し水に入ったコップに俺箸を浸けて少しかき回す。味リセットだ
ようやく俺は味噌ラーメンに箸を浸ける。麺を軽くすくって伸ばし少し空気に触れさせ一気に啜る。 フー フー ズズ ズズズゥゥゥル
麺はストレートの細麺だ。味噌ラーメンと言うこともありスープとあまり絡みすぎない細麺を採用していた。一口食べた食感はツルツルと言った感じか。嫌いではない。この焦がし味噌のスープとツルツルとした触感の卵麺とマッチしている。
麺、スープ、メンマ、麺、スープ焼き海苔。この順番で食べていく。これは今日の気分でこうした。食べる順番を決めて食べている食レポー達もいるようだがそれだともし自分が決めた順番で食べる食材がいや具材が入ってなかったらどうするんだ、食べないつもりかと思ってしまう。 その料理を食べるために決めた自分のルールに締め付けられ本来の食レポに専念できないといったことになりかねない。
味噌ラーメンを半分ほど食べ終え店主を呼ぶ。
「すいません。そろそろチャーハンと餃子2人前お願いします」
その一言を待ってましたと言わんばかりに店主が吸っていたタバコを食べ終えたスープがまだ残っているカップラーメンの中に入れ調理にかかる。店主はもう昼飯のカップラーメンを食べ終えていた。
店主が黙々とチャーハンと餃子2人前へ移行作業で作っている。俺も負けじと味噌ラーメンを口の中へとかきこむいや、ながしこむ。
味噌ラーメンを食べ終え瓶ビールの中に残っている最後の一杯分をコップに注ぐ。注いだビールを一気に飲み干す。
「フッー ・・・・・・ ハァー ・・・」
俺がビールを飲み干すと否や店主がチャーハンと餃子2人前を俺の前に置いた。
「へい お待ち チャーハンと餃子2人前です。以上でよろしかったですかね?」
そう言いながら座っていた席に戻りタバコに火を付けまた吸い始める。この店は喫煙可か珍しいな。だが俺はタバコは吸わない。減点だ。
チャーハンと餃子2人前を食べる前に使い捨てカメラで写真を撮る。この餃子は笑っているように見えた。
「ハイ ミンナーーコッチミテー」 パシャ ジー カシャ ジー パシャ ジー
チャーハンと餃子2人前を手元に持ってきて俺箸で食べる。食べ始める前に水をコップにセルフで注ぎクルクルとコップの中で俺箸を回す。味リセットだ
チャーハンは味噌ラーメンを食べていたレンゲで食べる。これは味リセットしない。この焦がし味噌の匂いと味がついたこのレンゲじゃないと起こせない奇跡を起こせるからだ。チャーハンをレンゲで手前にかき集めて口元に運ぶ。口元に運ぶ際ポロポロとこぼれ机にチャーハンの元が落ちるが気にはしない。俺はワイルドにいく。今日はそう決めている。
「うーん うまいなこれ レンゲの中で奇跡が起こった。平和条約締結だ」 ハフ ハフ カチャ カチャ ハフ
一気にチャーハンを口の中にかきこむ。むせるほどかきこむ。これは貧乏性ゆえの食べ方だ。
チャーハンを食べた後味リセットした俺箸で餃子2人前を食べる。1人前餃子4個か・・・羽根つきだな。羽根つき餃子だとなぜか得をした感じがする。たい焼きを食べた時に尻尾のあたりに型の隙間に入って出来上がったあのパリパリの部分がついてきた感じだ。だがたい焼きのあれは失敗作だ。出来損ないをそれがついているから幸運だとか幸せになれるとかふざけた話だ。
羽根つきの餃子を俺箸でつまむと肉汁が今にもあふれ出そうな勢いだった。こいつは生きている・・・・・・ 俺の箸の中で生きている・・・・・・ そう確認することができた。
羽根つき餃子の生存確認ができたところで俺は無慈悲にも一口で口の中に入れる。
肉汁があふれ出てきて最後の抵抗を始める。だがその抵抗もゆっくりと収まり声もしなくなりやがて息もしなくなった。
「死亡確認・・・・・・」ゴクッ
行儀の悪い遊びはあるが俺はこれが子供の頃からやめられない。行儀よく食べろと親に何度注意されてもこれだけは直さなかった。
俺の中での料理に対しての最大限の協力だ。料理は食べる側と食べられる側の協力の上で成り立っている競技だ。
俺の中での最後のルールでもある。
全て食べ終わり俺は最後にもう一杯だけ水を飲む。すべての味リセット
それは元の口の中に戻る時間を告げていた。悲しいがこれは人間生きていれば誰にでも訪れる時間だ。
全て食べ終わりここからが俺の才能を見せつける時間だ。ここにすべてがかかっている。ここぜ失敗しては何もかもが無になる。意味をなくす。フッーと息を吐き座ったまま背伸びをして準備に取り掛かる。