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第01話 レインとティオ 

 この世界には“スキル”と呼ばれるものがある。それは個人に与えられた才能のようなものであるが、この世界ではスキルこそが個人の価値を決める重要なものだった。


 強いスキルを持つ者はそれだけで周りから重宝され様々な恩恵を受けることができる。それに対して、弱いスキルを持って生まれた者は役立たずと罵られ周りからは嘲笑の的にされてしまう。


 つまりスキルこそが人生を決定する大きな事項であり、スキルの内容によって自分の人生が大きく左右されてしまうのだ。


 そして俺のスキルは――


「鑑定っ!?」


 俺は自分のステータスを見て声を上げた。

 

 ここは町の教会にある“祝福の間”。自分の身体情報ステータスを自分で見れない俺達は教会にあるこの部屋で自分のステータスを確認することになっている。


 やり方は簡単で祝福の間の真ん中にある石碑に手をかざし「ステータスオープン!」と唱えれば自分のステータスが石碑に浮かび上がるというわけだ。


 スキルがステータスに現れるのは(個人差はあるが)15歳からと言われており、俺も15歳になった証に自分のステータスを確認したのだったが……。


 石碑に浮かび上がったのは『鑑定』という文字。


 その文字を俺はしばらく見つめたまま呆然としていた。しかしいくら瞬きしても目の前の事実は変わらない。その結果は俺をひどく落胆させた。


 質屋や武器屋の店員なら使えるスキルだろう。しかし俺がなりたいのはそんな普通の職業じゃない。


 俺は“勇者”になりたかった。剣を振るい盾を構えモンスターを倒し世界を救う勇者になりたかったのだ。そのためには強力なスキルが絶対に必要だった。


 だがその夢もこのスキルでは叶わない。俺は深いため息をついた。


 すると同じく隣で石碑に手をかざしていた少女が俺の顔を見て声をかけてくる。


「どうだったレイン?」


 レインとは俺の名だ。勇者を夢見る平凡な男……それが俺だ。


 彼女の名はティオ。俺と同じ孤児院で育った幼馴染みで、小さい頃からよく一緒に遊んでいた。年も近いこともあって俺達は兄妹のように育ち、今日もこうして一緒にスキルの確認をするため教会に来ていた。


 ティオは俺の顔を見て結果が残念なものに終わったことを悟ったようだった。それほど俺はひどい顔をしていただろうかと思ったが、気にせず俺は答える。


「ダメだったよ。『鑑定』なんてスキルじゃ勇者なんかになれない」


 俺は肺に溜まった空気を全て出すように深いため息をついた。

 そんな俺を見てティオは心配そうに言う。


「だ、大丈夫だよ! どんなスキルでも使い方次第でいくらでも強くなるんだから! 簡単にあきらめたらダメ!」


 ティオは俺を必死に励まそうとして声を上げた。

 俺は顔を上げてティオの方に顔を向ける。


「……ありがとうティオ」


「うん! がんばれば勇者にだってなれるよきっと!」


 ティオの言葉はいつも希望に満ちていた。

 俺は少し落ち着きを取り戻しティオに訊ねる。


「で、ティオのスキルはどうだったんだ?」


「えっと……『大精霊の加護』ていうスキルだったんだけど……よく意味が分からなくて」


「へっ!?」


 俺は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。ティオの言った『大精霊の加護』は初めて聞くスキルだっが、名前からしてただのスキルでないことは分かった。


 すると教会の司祭が俺達の元へやってくる。司祭は80歳になる老人で長い間この町の教会に勤め町人のスキルを見てきた人間だ。司祭は口元を覆う白髭をさすりながら訊ねる。


「どうじゃ二人とも。スキルは分かったか?」


「はい!」


 ティオは元気よく返事をする。

 司祭は石碑を見て呟いた。


「なになに……レインは『鑑定』か。まあ、悪くないだろう。それでティオは……な!? 『大精霊の加護』じゃと!? こいつは驚いた! ティオ、お前は大した奴じゃ!」


 そう言って司祭は笑いながらティオの頭を撫でた。

 ティオは訳も分からず驚いてキョトンとしていた。


 ティオは司祭に訊ねる。


「そんなにすごいスキルなんですか?」


「ああ! 『大精霊の加護』は全ての精霊に愛されるスキルじゃ。ワシもこのスキルを持った人間を見るのは初めてじゃ。まさかこんなすごいスキルを持った子がこの町から現れるとは……。このスキルがあれば勇者にだってなれるじゃろう!」


 司祭の言葉は俺を驚かせた。ティオ自身も驚いている様子だった。まさか自分がそんなすごい才能を持っていたとは思ってもいなかったのだろう。俺だって幼馴染みのティオがまさかそんな超レアスキルを持っていたなんて予想外だった。


 俺は恐る恐る司祭に訊ねる。


「じゃあ……俺の『鑑定』スキルは……」


「……まあ、普通じゃな」


 司祭の言葉に俺は膝から崩れ落ちた。





◇◇◇◇





 勇者が魔王を倒し平和になった世界。


 かつて世界を恐怖に陥れた魔王は一人の冒険者によって倒され後に彼は“勇者”と呼ばれ王国を救った英雄として人々から尊敬された。王国では勇者といえば彼ただ一人の事を指しそれは名前と同じ意味を持っていた。


 勇者の冒険は本になって出版され、王国中で瞬く間に売り切れた。俺も本の発売日には徹夜して行列に並びなんとか初版本を手に入れることができた。


 本は『勇者の冒険』シリーズとして何巻も発売され、勇者が魔王を倒すまでの道のりが勇者の生い立ちから勇者自身の手によって詳細に描かれ、俺は新刊が出る度に夢中になって読んだ。


 本の中には勇者の波乱万丈な人生が赤裸々に綴られており、恋愛や友情といった胸を熱くするドラマや強敵との戦闘など手に汗握るアクションが盛りだくさんで、俺は本を読むたびにまるで自分が勇者になったかのように興奮していた。


 そんな幼少期を過ごした俺にとって、自分の夢が勇者になることになるのは当然の結果だった。周りからは馬鹿にされたが、幼馴染みのティオだけは俺の夢を応援してくれた。


 いつか俺も冒険者になって、この町を出て広い世界を旅するんだ。そして色んな仲間と出会いや別れを繰り返し、強敵と戦い世界を救う存在になっていくんだと漠然と考えていた。


 だから俺にとって今日は何よりも重要な日だった。それなのに、結果は俺の心を打ち砕いた。落ち込むなと言う方が無理だった。神にお前に勇者は無理だと言われたようなものだ。


 教会を出ると空はすっかり夕暮れに染まっていた。明日が年に一度の“勇者祭”とあって町は準備で大忙しだった。


 “勇者祭”とは勇者が魔王を倒した記念日を祝う年に一度のお祭りである。勇者祭は王国の一大イベントで各地で様々な催し物や屋台が出され盛大に行われていた。そんな日の前日とあって町は準備で賑やかになっていた。


 だが、今の俺には勇者祭を楽しむ気にはなれなかった。


「いよいよ明日だね」


 隣でティオが嬉しそうに呟く。

 俺はまだ項垂れたまま溜息を吐いていた。


「もう、いつまでそうやってるの! 明日は勇者祭なんだよ!」


 ティオはそう言って俺の頭にチョップを入れる。


「いたッ!」


「スキルで全部決まるわけじゃないでしょ!」


「ふん……。お前はいいよな。すごいスキル持ってて」


「レインのスキルだってすごいじゃん! 『鑑定』って見たものの詳細が分かるんでしょ?じゃあちょっと私のこと鑑定してみて」


「はあ?」


「いいから早く!」


「わ、分かったよ」


 俺は仕方なくティオの方を向き目を凝らす。そして心の中で「鑑定」と唱えた。


 すると俺の視界が一瞬光ったかとかと思うとその光は波紋のように広がりティオの身体を認識した。そしてティオの周りに文字が浮かび上がる。


■■■■


ティオ・ローズ


スキル:大精霊の加護


状態:良好


■■■■


「うおっ。なんか出てきた」


「なんて書いてある?」


「名前とスキルと状態……」


「それよ! 相手のスキルが事前に分かればどう戦えばいいかも分かるじゃない!」


「まあ……そうだな」


「まだ勇者を諦めるのは早いよレイン!」


 ティオに励まされ、俺にも元気が出てきた。そうだ、勇者になるのにスキルなんか関係ない。どんなスキルだろうと使いこなせばいいんだ。


「ありがとうティオ」


「その意気よ! あ! ホラ、あれ見て!」


 ティオは俺の腕を引っ張って町の掲示板を指差した。掲示板には新聞のニュースやギルドの募集や広告など様々なものが掲示されている。


『王国で流行中の風邪。新型のウイルスか!?』

『武器屋アルバイト募集 時給800G』

『頻発する墓荒らし。消えた遺体と謎の犯人の正体は!?』

『勇者祭開催!!』

『酒場 飲み放題三時間4000G』

『冒険者ギルド 入会説明会』


 ティオはその中の一つを指差した。勇者祭を宣伝する広告が大きく真ん中に張られている。鮮やかな絵の下に出店する屋台や催し物などが書かれてある。今年も盛大なお祭りになりそうだ。


「約束、忘れてないよね?」


「一緒に勇者祭に行こうって話だろ」


「じゃあ明日は朝一に噴水広場に集合ね!」


「おう、分かった」


 俺達はそう言って分かれた。明日の勇者祭に胸を躍らせながら俺はティオを見送った。

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