8 想定外のお悩み相談
お悩み相談室はそのあともずっと大盛況だ。
ぶっちゃけ、裁ききれないので予約制ということになっている。
王都のほうで申しこんでもらって、その申し込み内容が幸福寺に送られてくるというシステムだ。
とはいえ、本尊などにお参りするのは自由で予約などいらないので、昼間は人が境内をたくさん歩いている。
最近は仁王や毘沙門天が魔王軍を倒したという話も広まっているらしく、そちらを信仰する人も増えている。
まあ、ガーディアンが姿を現した――と認識されてるらしいが。
とくに外に出ていた毘沙門天はすぐに有志の手で雨よけの小屋が作られて、そちらに引越す形になっている。
偉大なるガーディアン、ビシャ・モンテン、というプレートまでついているほどだ。
「ああ、わかります、わかります。仕事の悩みって親に言いづらいですよね。俺もそうだったんで、よくわかります……」
リューナだけでなく、俺も相談を聞く係をやっている。
カウンセラーの資格なんて持ってないが、リューナだけではまったく対応できない数なので、しょうがない。
俺に相談してどれだけ意味があるかわからないが、
「侯爵様がわざわざ悩みを聞いてくださるだけでもありがたいです」
「こんな庶民目線の侯爵様はいらっしゃいませんでした」
などという感じで、すごく立派な人だという評価を得ているらしい。
評価されること自体は悪いことじゃないので、素直に評価してもらっている。
あと、本尊の前に行くと、尊い気持ちになれるらしく、少なくとも前向きに気分を切り替えることは可能であるらしい。
人のためになることをやっているので、こちらも悪い気分ではない。
本日、6人目の俺が担当した客が晴れやかな顔で帰っていった。
「さてと、次のお客さんはと……」
お客さんの名前リストをチェックする。
これで待合室に少し前に来てる人を呼び出すのだ。
だが、名前が匿名希望になっている。
なんだろう、本名を出すとまずい理由があるのか。
まあ、悩みを抱えてる人が来る場所だから、トラブルに巻き込まれてるとかいうこともあるんだろう。
俺は待合室に行くと、
「匿名希望さん、匿名希望さん、いらっしゃいますか?」
と声をかけた。
黒いフードをかぶっている女性がすっと立ち上がった。
赤い髪で年齢は20歳ぐらいか。
おっ、けっこう好みの人だ。
実を言うと、相談相手が若い女性のほうが相談をする時、テンション上がる。
これは男の生理的なものなので、許してほしい。
だって、オッサンのほうがテンション上がったらそれはそれで不気味だし。
「では、こちらのお部屋へ」
こくりとうなずくと、女性は小さな歩幅でついてきた。
いったい、この子にどんな悩みがあるんだろう。
できるだけ親身に聞いてやって、気持ちを盛り上げてやろう。
畳敷きの部屋のテーブルに向かい合って座る。
「それじゃ、匿名希望さんのお話を聞かせてもらってよろしいですか?」
こくりと女性はうなずいた。
「実は……わたし、命を狙われてるんです……」
重い!
想像以上に重い!
「え、それって……元恋人に襲われそうになってるとか、そういう意味ですか……?」
「いえ、わたしが大きな作戦上の失敗をしてしまって……」
女性はずっとうつむいている。
「それはひどいな。失敗したからって命まで取らなくても」
「ですよね。でも、文句言ってる間に殺されかねないので逃げてきました」
「そうですね、その発想は正しいです。まずは命を守ることが大事ですからね」
「それで……わたしはこれからどうすればよいでしょうか……?」
質問が重すぎる。
いや、それ、お悩みの相談ではあるけど、想定外だぞ。
まだ、夫の浮気癖がなおらないとか、姑と上手にやっていけないとか、みのも○たが昔、お昼に答えてたような次元のでないと対処できんぞ。
「そういうことは具体的な情報がないとアドバイスもしようがないです……」
なんとか、回答を先延ばししよう。
俺の選んだ方法で殺されでもしたら、かなり嫌だ。
「ですよね……。隠してばっかりでは意味がありませんね……」
ふうと、女性はため息をついた。
「わかりました。すべてお見せします、お話しします」
話すのはわかったが、見せるってどういうことだ?
がばっと、女性はフードを取った。
そこには羊みたいな角がついていた。
「わたし、先日、この建物を攻撃した作戦の指揮官、サロメと申します」
魔族が来ちゃった!
「それで、作戦が大失敗して、処刑されそうになっていたので、現在このあたりに潜伏しています……」
たしかに命も狙われてた!
これは非常に難しい相談になりそうだな……。
次回は深夜あたりに更新予定です!