7 ガーディアン無双
毘沙門天像の目が青く光っていた。
そして、毘沙門天は持っていた矛でゴブリンを一刀両断。
まず一人倒したと思ったら、もう次と次の敵を仕留めていた。
まだまだ止まらず、撃破、撃破、撃破。
倒された敵は漏れなくシュウウウと薄い光を放って消えていった。
門の内側に入ってこれる魔族は皆無だ。
これ、本当になんとかなりそうだな。
「くそっ! まったく突破できん!」
「火矢を放て! この砦を焼け!」
ヤバい! 飛び道具は卑怯!
だが、卑怯だからこそやるわけで、敵はどんどん火のついた矢を射てくる。
その瞬間、毘沙門天像の体が青く発光した。
すると、青い壁のようなものが寺のまわりを覆った。
そこにぶつかった火矢は消えて、その場に落ちる。
「ああ、完璧に防いでくれるんだ……」
「もう、こちらは問題なさそうね」
リューナは冷静に戦況を観察していた。
魔族軍は突破できる糸口も見えないまま、被害ばかりが増えるので、もう逃げ腰だ。
今度は表側のほうから声が聞こえてきた。
「おおお! すごい! なんという破壊力!」
あっ、ライカの声だ。
テンション高い声だし、大丈夫そうだな。
リューナとともに表側に行ってみると、仁王像2体が動き出して、攻めてくる敵を見事にシャットダウンしていた。
仁王は素手で戦っているが――
パンチやキックの威力が強すぎるのか、打撃を受けた敵は光を出して消滅していった。
物理で殴るだけでもけっこう効果的なんだな。
「おお! 圭一殿! まったく素晴らしい魔法だ!」
魔法? ああ、俺、魔法使いって設定だったな。
「もはや絶体絶命、自分で腹をかっさばいて死ぬかと思った途端、この2体の像が動き出して、次々に敵を屠っていったのだ」
「おい、その説明だと戦いすらせずに死のうとしたな……」
やっぱり近衛兵としてダメだろ。
「そのあとは私は何もしていない。手を出すまでもなく、筋骨隆々の像がすべてを片付けてしまうからな」
「ああ、うん、そういう魔法なんだ……」
魔族軍はこちらの数が少ないということで、けっこう粘っていたが――
その分、いたずらに被害が増えることになった。
結局、半数ほどがやられたところで、攻略は不可能と思ったらしく、撤退していった。
あとには本来と微妙にポーズの違う像が残されているだけだった。
とくに仁王像の片方なんて、昇○拳みたいな格好してるぞ。
もう片方も下段強キックみたいな動きしてるし。
裏門の毘沙門天像も石化コラみたいに変なポーズで固まっていたので、今後の防衛も兼ねてそのまま裏門の前に安置することにした。
「よかった、本当によかった……」
しみじみとライカはつぶやいていた。
「私が自決する前に像が動き出してくれて、本当によかった……」
「おい、せめて戦う意志を見せろよ……」
「幸福寺は鉄壁の守りで固められてる、よくわかったわね」
ずっと、落ち着いていたリューナが結論を言った。
「もう、空以外のどんなところから敵が攻めてきても叩きつぶせるわね」
「ちょっと! 今の発言、明らかにフラグ!」
もう、絶対飛行部隊とか来るじゃん!
ドラゴンのたぐいに襲われるじゃん!
そして、こういうフラグは確実に当たるのだ。
バサバサ、バサバサ。バサバサッ。
明らかに不穏で巨大な音が空から響いてくる。
大きな翼の獣みたいなものが寺の上を飛行している。
「うわあああっ! あれは1体で歩兵1000人に匹敵すると言われるドラゴン! それが3体! もう、王国もこの寺院も終わりだ!」
「おい、ライカ! 不吉なことを言うな!」
「あらら、大変なことになったわね」
張本人のリューナはけろっとしている。
いや、別にフラグ立てただけでドラゴンを呼び出したわけじゃないけど。
「ふっ、我が近衛騎士人生に一片の悔いなし!」
「いや、あるだろ! お前、何も活躍できてないし!」
せめて、一矢報いてやろうとかしてほしい。
――と、何かが空に向かって飛んでいく。
「あれは、2体の仁王像!」
2体は平然と空中にて静止した。
「仏は絶対的な存在よ。舞空術が使えないなんて、いつ言ったの?」
また、リューナがドヤ顔をしている。
別にリューナの手柄でもない気がするんだが、まあいい。
しかもどちらの仁王も周囲にオーラのようなものが漂っているのが見える。
シュウウウウ……シュウウウウウ…………。
この効果音は――昔、ドラゴ○ボールで見たやつ!
そのまま、仁王はドラゴンと空中で殴り合いをはじめた。
ドガッ! バギッ! グオッ!
まず、ドラゴン一匹目が戦闘に敗れたのか、寺の敷地に落下してきた。
そして、また発光して消滅。
また次の一匹も落下してきて消滅。
最後の一匹は仁王がエネルギー弾のようなものを撃って――
ズガァァァァン!
空中で爆発していなくなった。
任務を果たしたとばかり、仁王は気を弱めて、仁王門のほうに降りていった。
「ふっ、制空権も私たちは確保しているようね」
「だから、なんでリューナは自分の手柄って顔してるんだ?」
◇
翌日。
またライカが感謝状を持ってやってきた。
「お二人には王国を守ったことに対して勲一等と新恩の領地を追加する! これからも王国のために戦っていただきたい!」
なんか、お寺から出ない間にどんどん偉くなっていくな……。
「そうだ、それと伯爵から侯爵に昇進ということになった。これで諸侯に列する」
本当に偉くなってくな……。