6 裏門にガーディアン
書けちゃったのでちょっと早いですが更新します!
お悩み相談室を開いて、一週間。
王国からなんかお褒めの言葉をいただいた。
やってきたのは例のネコ耳女騎士のライカさんだ。
「幸福寺伯お二人の慈善事業はまさに神のお心にかなうもの! 多くの民が幸せになっています! これからもどうかよろしくお願いいたしたいです!」
「これぐらい、人として当然よ」
信仰され慣れているリューナは、なかなか堂々としている。
「これは国王陛下からの感謝状であるので、受け取っていただきたいのですが」
「ああ、うん、ありがとうございます……」
俺はリューナと比べると褒められ慣れてないので、おどおどしながらその感謝状を受け取った。
なんだかよくわからないうちに俺とリューナの株がどんどん上がっていた。
「幸福寺伯にはこれからもジギリス王国のために力を尽くしていただくこと期待いたします!」
「あの、さっきから、その『幸福寺伯』って何なんですか?」
「伯爵号だが?」
そうか、俺、これでも伯爵なんだよな……。
「落ち着かないんで、圭一って呼んでいただけませんか?」
「伯爵の実名を呼べと言われても……」
「いや、ほんとに気にしないでいいから!」
「そうよ、仏教者たる者、おごってはいけないの。偉いと思った瞬間、悟りから最も遠ざかるのよ」
そう言ってるリューナは多分自分を偉いと思ってるだろうけど、そこはご愛嬌だ。
「わかりました……では、圭一殿とお呼びいたします……」
「ああ、会った時のしゃべり方でいいですけど。最初、ですます調じゃなかったでしょ」
「それもわかった……。ただ、それなら、そちらも丁寧語をやめてくれないと不公平だ……」
「それもそっか。じゃあ、こっちもラフにするよ、ライカ」
「うむ、それならよい」
これでライカとの距離がちょっと縮まったかな。
――と、そこに王国のものらしき早馬がやってきた。
男の兵士が一人乗っている。
「むっ、なんだろう。今日は私しか寺院には来ないはずなのだが」
ライカも何かわかってないらしい。
じゃあ、何なんだろう。
「申し上げます! 魔族軍500人がこの幸福寺を落とすため、進撃してまいります! 斥候がその動きを察知いたしました!」
「ええええっ! 500人!? こっち、俺とリューナしかいないぞ!」
オーバーキルにもほどがあるだろ!
俺は青ざめた。
むしろ、ライカも兵士も青ざめていたので、リューナだけが平気な顔をしていた。
「どうってことはないわ。大日如来様を信じましょう」
「仮に大日如来様が勝ったとしても、本尊はずっと本堂にいるわけだから、お寺が焼き払われたりするだろ!」
生まれ育ったこのお寺を失うのは勘弁だ。
と、ライカがぽんぽんと俺の肩を叩いた。
「だ、だだ、だだだだだだ、だだだだだいじょうぶだ……」
「絶対大丈夫じゃないだろ!」
無茶苦茶、目が泳いでるよ!
「この私が加勢すれば百人力だ……。三人ほどを道連れにしてやろう……」
「道連れにしたらダメだろ!」
それ、三人殺したあたりで力尽きて死ぬってことじゃないか。
残り497人もいるから、何の解決にもなってない。
しかも百人力じゃなくて三人力だ。
「そうね、お寺自体を守るという使命を果たさないといけないわね」
「そうそう! リューナ、何かいい手はないか?」
「あるわ」
そう言うと、リューナは北門に近い毘沙門堂に入った。
中には二メートル近い毘沙門天像が祀られている。
「毘沙門天は武人でなおかつ、東西南北のどこの守護神だった?」
「北だ」
「そうね、だから、毘沙門天様を北門に運ぶの。このお寺の仏像はおそらくどれも特別な力を持ってるはず」
「本当に上手くいくのかな……」
「行かなかったら寺が焼かれるだけよ」
そして、俺とリューナは毘沙門天像を北門の前に置いた。
「それで表側はどうするんだ……?」
500人なんかで攻めてくるとしたら、二面攻撃を同時に仕掛けてくる可能性のほうが高い。
「仁王像を外に出しましょうか」
仁王像は2メートル50センチぐらいあって、とても運べないのでずるずる縄で引きずって、門の前をふさぐように2体並べた。
「これでよし!」
「本当にいいのかな……」
「仏教の力を信じましょう」
なお、結果的に逃げ遅れてしまったライカはかなり絶望していた。
「私が戦えば、5人ぐらいの敵を……あわよくば6人目、7人目を倒すことも可能……。そうすれば、敵が怯えて逃げ出して、助かるということもないとは言えない……」
この人、とことんビビってるよ!
絶対、近衛兵に向いてない! 転職したほうがいい!
「さ、さあ……来るがいい……。私は表門を守ろう……」
もう、素直に本尊のところに隠れててもらいたいけど、剣士のプライドもあるかもしれないし、いるだけいてもらおう。
「こちらには偉大なる魔法使いの圭一殿と魔法剣士のリューナ殿がいらっしゃるのだ……。負けることなど、万に9357ぐらいしかない……」
ほとんど負けてるじゃん!
俺とリューナは北門のほうで様子を見守ることにした。
そして、魔族軍とおぼしき連中が押し寄せてきた。
オークやオーガ、それにマタンゴやオッドアイみたいなのもいる。
陸上部隊で制圧するつもりか。
「あの寺を焼き落とせ!」
「中にいる連中を皆殺しにしろ!」
やっぱり、王国攻略の最大の障害みたいな扱いを受けている。
平和的解決は絶対に無理だな……。
「ああ! 早く毘沙門天様、お助けください! 寺がやられますっ!」
俺は毘沙門天像に抱きつきながら祈った。
あれ、なんか妙にあったかいぞ、この像。
次の瞬間、まるで生きているように毘沙門天像が動いた。
そのせいで俺は後ろに弾き飛ばされる。
その毘沙門天の背中は「危ないから下がっていろ」と言っているように見えた。
「ねっ? ちゃんとどうにかなりそうでしょ?」
リューナがドヤ顔をしていた。
「どの仏像にも魔力みたいなのが宿ってるの感じたもの」
まあ、神がそう言ってるのだから信用するか。
ブクマ・ご感想いただけるとうれしいです! 今日中にできそうだったらもう一度更新します!