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5 お悩み相談室を開く

 伯爵になったけど、俺たちの生活にとくに違いはない。


 違いはないというか、依然としてうかつに外に出るのがちょっと怖いというのもあって、寺の中にいる。


 といっても、敷地は普通の家とは比べ物にならないほど広いので、別に運動不足といったことはない。


 寺の境内をぐるぐる回るだけでも、かなりの運動になるしな。


 とはいえ、それだけだと飽きるのも事実なので、

「王都と、そこまでの道が安全かどうか見てくるわ」

 

 と、リューナが何度か王都のほうに出かけていった。


 身分的に馬車を使っても何の問題もないのだが、徒歩で移動している。

 まあ、俺も貴族ですよって態度で暮らしたくない。落ち着かんし。


 なんていうか、自分がチート級に強かったら、もうちょっと偉そうな格好もするんだけど、俺自体は一般人だからな。


 これで威張ると、俺の家は金持ちだぜ、俺は何もしてねえけどな!


 ――って言ってるのと同じことになる。


 それは、はっきり言って恥ずかしい。


 あと、俺は寺にいるが、別に暇というわけではない。


 王都からけっこう人がやってくるようになったのだ。


「あの、神像を見学させてください」

「神像を拝みに参りました」

「ぜひ、その異国の神像を……」


 なんと、大日如来像が大人気になっているのだ。


 SNSの発信など絶対にないので、100パーセント女騎士ライカさんの口コミのせいというか、おかげである。


 まあ、寺としては参拝客が増えることは喜ぶべきことなので、問題はない。


 そして、礼拝方法などこの世界の人が知ってるわけないので、俺が指導している。


 これでも住職の息子だからな。

 最低限のことはわかる。


「はい、それを木の棒で軽く叩いて鳴らします。手を合わせて、少し前かがみになって、じっと祈りましょう」


 みんな、かなり真剣な表情で大日如来にお祈りをしていく。


 やっぱり、異世界のほうが文明が進んでない分、信仰心が強く残ってるのかな。


 そういえば、心なしか、本尊も日本にいた時より、神々しく見える。


 そして、祈り終わった人の表情も――

 とても晴れやかなものになっているのだ。


「ずっと迷っていたことに答えが出ました」

「苦しいことがあったんですが、おかげさまで再出発できそうです」

「女房から酒をやめろとずっと言われてましたが、今度こそ断酒します!」


 そんな言葉をいくつも受けた。


「――というわけなんだけど、これは何なんだろうな?」


 王都から戻ってきたリューナに尋ねた。


「それはアレね。アレよ」

「それでは何一つわからん」


「この世界だと大日如来様のお力が魔法のように働くことは説明したわよね」

「うん、魔族がやられたよな」


「おそらくだけど、救いを求める人々の心にもプラスになるような作用を実際にもたらしてるんじゃないかしら。いわば、人を幸せにする魔法よ」


「人を幸せにする魔法!」


 どこかうさんくさい響きもあるが、その分、実現したらとてつもなく強力な気がする!


「そうだ」


 ぽんとリューナは手を叩いた。


 何か思いついたらしい。


「この世界で行うべき正しいお仕事を思いついたわ」


「お仕事?」


「これは私と圭一にしかできない仕事よ。最初は大変かもしれないけれど、必ず軌道に乗るわ!」


「あの、とりあえず内容から聞かせてもらえないだろうか……」


 つまり、何をやるつもりなんだ?



 三日後。


 リューナはお寺の事務室のほうで、来た人と話をしている。

 来客は王国の兵士らしい。


「それで、俺はどうしても同僚の出世を心から祝福できなかったんです……。それどころか、戦場でケガしたって聞いた時、これで俺もあいつに追いつけるなとかそんなひどいことを考えてしまって……」


「わかるわ。わかる、わかる。わかるわ」


 すごくリューナはわかると言っていた。


 なんで、そんなことを俺が知ってるかといえば、お茶を持っていった時にそういう話をしていたからだ。


 どうやら仲間に先に出世されて嫉妬してしまった自分が恥ずかしいという懺悔らしい。


「罪を認めたのはとても偉いことだし、あなたは強い人よ。さあ、大日如来様に向かってお祈りしましょう」


 そして、兵士は本尊の前に行って、丁寧にお祈りした。


 祈った後は、やはりいい笑顔になっていた。


「心が晴れました」

「それは本当によかったわ」

「これは少ないですが、お布施です」


 兵士は銀貨2枚を置いて帰っていった。


「けっこう、相談者来るな」

「それだけみんな心の闇を抱えてるのよ」


 今、俺たちの寺の前にはこんな看板が立っている。


<幸福寺 お悩み相談室>


 そう、俺たちは人の悩みを聞くというカウンセリング的な仕事をするようになったのだ。


 たしかに、本尊に祈ることで宗教的にも心が穏やかになるし、悪いことではないかもしれない。


 そして、お布施をいただいて、生活をする。


 まさに仏教徒として正しい生き方な気がする。


 はじめたばかりだが、相談室はかなりにぎわっている。


 理由はお悩み相談室なんて職業が異世界にはなかったためだ。


 つまり商売敵が存在しない。


 そして、どんな世界にだって悩みを抱えた人も、相談したい人もいる。


 もしかすると、ものすごいニーズがあるのかな、これ。

次回は夜11時ぐらいに更新できればと思っております!

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