1 竜の女神様
「ええと、君は誰……?」
見た目は中学生ぐらいだろうか。
まあ、ウロコのついた尻尾生えてる中学生はいないだろうけど。
「失礼ね。ずっと、この寺に住んでるわよ。あなたよりずっと昔から」
女子中学生に言われる発言としては納得いかんな。
「住んでるって同じ寺に住んでたら絶対わかるだろ。別に開かずの間とかないし」
「私はウソつかないわよ。じゃあ、案内してあげる」
そう言うと、縁側から外に出ていく女の子。
俺もそれについていく。
「はい、ここ」
それは寺の後ろにある鎮守のお社である、竜神社。
名前の通り、この土地にもともと住んでいたと言われる水の神様、竜神様を祀っている社だ。
「あれ、その小さな角、なんとなくトカゲ系の尻尾……そうか、竜神様か!」
「そういうこと」
こくんと女の子がうなずいた。
「このお寺ができた室町時代からずっとそこで暮らしてる」
「ええと、この寺、創建されて六百年ぐらいだから、相当なロリババア……」
「レディの年齢を探ろうとしないの!」
体を回転させて、尻尾をぶつけられた。
「あれ、あまり痛くない……」
「加減してるに決まってるでしょ。あなたを倒してもしょうがないじゃない」
それもそうか。
「ところで、竜神様はどうしてここに出てきてるんですか?」
「この世界は魔法が実在する世界だから、私も自分の魔力を使って実体化できたってわけ」
わかるような、わからんような。
まあ、疑ってもしょうがないから事実と受け入れることにしよう。
「じゃあ、なんで寺だけ異世界に転生してきたんですか」
あれ、なんか竜神様、ちょっと困った顔をしだしたぞ。
「……………………それは仏様の縁よ」
「つまり、竜神様にもよくわからんってことですね」
「…………そうよ……とにかく私たちは異世界に来ちゃった。そして、異世界にある本尊の大日如来様は悪を許さない最強の力を持ってるってこと、わかるのはそれだけ」
「ほぼ、俺が知ってることしか把握できてないですね」
「…………いちいち言わなくていいのよ……」
竜神様の顔が赤くなった。
「まあ、せっかくですし、この世界がどうなってるのか調べに行ってきます」
異世界ならエルフ娘とかもいるかもしれない。
それは異世界来たら絶対見ないといけないだろう。
「待ちなさい」
手を竜神様につかまれた。
「あれ、一緒に行きます?」
「あなた、何か能力持って転生してるの?」
「いえ、多分何もないですけど」
「外に出て、また魔族みたいなのに絡まれたらすぐに死ぬわよ」
俺の顔は青くなった。
「ほんとだ……。本尊に力があるとしても、普通に考えてそんな離れたところまで消す力ないよな……」
ビーム的なものがどこまで届くかによるが、おそらく寺の敷地あたりが限界だろう。
「なので、一般人のあなたはしばらく寺の敷地から出ないほうがいいわ」
「エルフ娘と出会う夢は延期された……」
とはいえ、竜の娘が目の前にいるから別にいいか。
この子もよくよく見れば、反則級にかわいい。
「あの角と角の間の頭をゆっくり撫でてみたい」
「何を妄想垂れ流してるのよ……」
「しまった! つい、口がすべった!」
「いい? 私はこれでも神だからね。多分だけど、さっきの魔族の部隊長とやりあうぐらいの力はあるはずよ。あまり私を敵に回さないように」
「わかりました……」
たしかに立場的には圧倒的に向こうのほうが上なのだ。
うかつなことはできない。
「で、でも……」
そこで竜神様の顔がまた赤くなる。
「別に頭を撫でるぐらいなら、は、破廉恥なことでもないし……許してあげてもいいわよ……」
やさしい!
この竜神様、話せばわかる!
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
「二度も言わなくていいわよ……。さあ、撫でるなら撫でなさい……」
俺はソフトタッチで手を角と角の間に入れる。
ちょうどぎりぎりで手が入る。
むしろ手を入れさせるために生えているような角だ。
「おお、絹のようになめらか! 小動物を撫でてるような癒し効果に加えて、女の子を撫でてるという興奮がプラスされて最高にいい!」
「あまり変なこと言うと、尻尾ぶつけるわよ」
たしかに無礼なことを言うと、普通に罰が当たる。
というか、物理的に罰を当てられるまである。
しばらく撫でていると、竜神様の顔がとろんとしてきた。
「圭一、撫でるの上手なのね……」
なんで俺の名前知ってるんだって思ったけど、そりゃ、知ってるよな。
あっ、ちょっと、竜神様の顔がエロい感じだ。メスの顔っていうか。
でも、見た目が中学生ぐらいだし、神様だし、変な気を起こすとダブルでアウトなので、できるだけ厳粛な気持ちで行おう。
「ふう、堪能しました」
「あっ、もう終わりなのね……」
「あれ、もっとやったほうがよかったですか?」
「な、何でもないわ……」
もしや撫でられるの、好きなのか?
だとしたら撫でるのが好きな俺とウィン・ウィンの関係なのだが。
「さてと、状況把握も一段落したことだし、何か食べよっか」
「そうですね、おなかも減ってきました」
このお寺の中にいる分には、さっきの大日如来ビームをかんがみても、安全のはずだ。
「ちなみに、あなた、料理って作れるの?」
「自慢じゃないですけど、25年間、実家暮らしなのでごはんにマヨネーズをかけることぐらいしかできません」
「はぁ……わかったわ。私が何か作るわ……」
竜神様は本堂から建物がひっついている台所のほうのスペースに消えていった。
俺は食事用の部屋のテーブルを拭いたりして待っていた。
マヨネーズをかける仕事はさすがにないしな。
「あっ、ガスとか来てるんですか?」
「なぜか来てるわ」
そういえば、この部屋も電気ついてるな。
どうやらこの寺の敷地内に関しては元の世界とつながりがあるらしい。
――30分後。
「はい、こんなのでいいでしょ」
きれいなオムライスが出てきた。
無論、ほっかほかで湯気が立っている。
「おいしそう! もしかして、竜神様、料理得意ですか?」
「食べてみないと味は保証できないわよ……。早く食べて安心させて」
照れながら竜神様が言う。
もしかすると、寺から出られないことを除くと、美少女と同居できるという素晴らしい生活がはじまるのではなかろうか。
とはいえ、見た目が美味くて実はすごく不味いというケースもあるので油断はできない。
まず一口。
本来の味がわからなくなると困るのでケチャップは上からかけたりしない。
「あっ、普通に美味いやつだ!」
「そ、それはよかったわ……」
ほっとしたように、竜神様もオムライスを食べはじめた。
次回は本日中に更新予定です。