16 奥の院完成
早朝、ぶらぶらと寺院の中を歩くことから俺の一日ははじまる。
夜更かしするようなものもないし、あまり遅くまで起きていてもすることがないというのもある。
ちなみに、サロメとリューナも一緒に横を歩いている。
リューナはすでに朝食の準備が終わったらしい。
本当に頭が下がる。
「今日もいい天気ね。この世界、空気がおいしいのがいいわ」
「たしかに車も走ってないから排気ガスもないよな」
――と、サロメが山のほうを見上げていた。
「ん、サロメ、どうかしたか?」
「あの山もこのお寺の敷地なんですよね?」
「まあ、そうだな。そういうことになるな」
俺たちの功績のおかげで寺から山の側は全部俺たちのものということになっている。
まあ、ひねくれたものの見方をすれば、お前の土地なんだからもし魔族が攻めてきたら、また止めろよという意味合いもあるのかもしれんが。
「何かに使えないんですかね、この土地?」
たしかにせっかくだし、有効活用したくはあるよな。
「そうだわ!」
と、リューナが反応した。
「いいことを思いついたわ!」
「ちなみにいいことって何だ?」
「この山を霊場にするのよ」
「霊場? いや、俺も寺の息子だから意味はわかるんだけど」
「霊場って何ですか?」
サロメが聞いてきた。
「あのな、宗派や寺院によって、もろもろケースバイケースなんだけど、山にあるお寺は、その山を歩かせて一種の修行ができるようになってたりするんだ」
前に自殺をほのめかしてた人が何度も山を往復させられたけど、まあ、ああいうものだ。
「俺たちがいた世界だと、山一つが実質、一つの神社や寺だったりってことも多くて、そうなると、山の中にいろんなお堂や修行場があったりしたんだ」
「ああ、そういうお寺ならこの国にもあると思いますよ」
まあ、ヨーロッパにも霊場はあったし、案外共通のものなのかもな。
「よ~し、燃えてきたわ! 立派な霊場を作ってやるわ!」
リューナのテンションがやたらと上がっていた。
◇
リューナはまず王国からたくさん材木を譲り受けた。
立場上、それぐらいは幼女王のハルーシャからいくらでももらえた。
材木が集まったら、今度は建物の組み立て作業に入る。
山のいろんなところに材木を運んで、そこに建てていく。
これは俺も手伝わされた。
というか、素人にそんなことさせて完成するのかと思ったが、リューナは建物の様式にも詳しくて、小さなお堂ぐらいなら結構簡単に作ることができた。
「伊達に長く生きてないわよ。空き時間に建物の組み立て方とかも見てたから」
こうして和風のお堂や神社などが次々にできていった。
山頂付近の平坦部にもお堂が一つできた。
「これを奥の院ということにするわ」
「まあ、名前はどうでもいい」
さて、これで一段落ついたかなと思ったが――
甘かった。
「それじゃ、次は霊場ににアプローチする道を作るわ」
「道!?」
「いい階段や鎖場がないと雰囲気出ないからね」
こうして、今度は奥の院までの参道を作らされることになった。
もちろん、お悩み相談室の空き時間にだ。
体力とかにチート要素はないので、なかなか疲れた。
それでも、どうにか立派な参詣道ができた時にはなかなかの達成感があった。
現在、境内には「奥の院への参詣道」と書いた看板が立っている。
奥の院までお参りすると願いがかなうといった噂などが広まり、それなりの客を集めるようになった。
途中の参道に俺たち寺の許可を得た茶店までできたほどだ。
また、奥の院まで山道を走る修行のような行為も増えているし、かなり定着してきたと言える。
ちなみにこの奥の院に何が祀られているかというと――
龍神だ。
つまり、リューナがそのまま寺の鎮守神という扱いで祀られているのだ。
「やっぱり、自分が高いところで信仰されていると気分がいいわね」
「リューナがやたらとやる気になってた理由がわかった」
まあ、寺としての体裁は以前より整っているので、よしとしようか。




