12 王様が威厳のある存在だと思った?
その日、寺の入口である仁王門の前に、
<本日のお悩み相談室はお休みです>
の札がかかった。
俺とサロメの結婚式を王都で開いてもらうのだ。
俺たちを乗せる馬車がやってきた。案内役は――
「このライカがおもてなしいたす」
ということで、いつも通りネコ耳女騎士のライカがやってくれる。
サロメは出発前、かなり緊張していた。
「魔族が王都に入ったら石を投げられたりしないでしょうか……」
その不安はもっともだと思った。
やけに羊みたいな角を手で触っているのは落ち着かないからだろう。
それにその角が魔族ってことを人に意識させるからな。
「サロメ、俺がついてるから大丈夫だ」
俺はサロメの手をそっと握る。
「妻を守るのは夫の役目だからな」
「ありがとう、圭一」
俺に笑みを向けてくれるサロメ。
「ほんと、焼けちゃうぐらいいいカップルね」
さばさばした口調でリューナが言った。
「仲むつまじいのはいいな。私も恋人を作って、次の戦争が終わったら結婚しようなどと約束をしたいものだ」
それ、わかりやすすぎる死亡フラグ!
ライカは隙あらば死のうとしてくるな……。
そして、俺とサロメは同じ馬車に乗って、出発した。
リューナとライカは別の馬車に乗って移動する。
「まさか、こんな電撃的に結婚することになるとは思ってなくて、びっくりしてる……」
二人きりの馬車なので、なかなか気恥ずかしい。
「それはわたしもですよ……。わたし、死ぬつもりだったのに、なんか結婚することになちゃって……一寸先は闇とはこのことですね」
そういうことわざ、この世界でもあるんだな。
「し、しかも、わたしたち、キスだってまだしたことないのに……」
どきりとした。
本当だ。
そういうこと、すべてすっとばしてたもんな。
「キ、キスするか……?」
幸いというか、馬車の中は二人だけの密室で、邪魔をする者は何もない。
サロメの手の上に手を重ねた。
「せ、せっかくですし、結婚式をしたあとにしませんか……? 記念になりますし……」
「そうかもな、はは……」
俺たちはすごくどきどきしていた。気分はカップルで乗る観覧車だ。
王都に着くと、俺たちはまず高級な衣服を扱う店に連れていかれた。
ライカいわく、
「これから王に謁見するので、それにふさわしい恰好をまずはしてもらう」
ということらしい。
まあ、妥当なところだ。
「結婚式の時にはまたそれ用の服を用意するからな」
「ありがとう。なんか至れり尽くせりだな」
「救国の英雄だから、当然だ」
いよいよ、王に会うのか。
それはそれで緊張するな。
「国王陛下は圭一殿にぜひともお会いしたいとおっしゃっている。気楽にしていろ」
「そうは言われてもな、そんな偉い人に会ったことないからな」
就活の面接官に会うのにさえ緊張したのに、王様なんかと会ったらショック死するんじゃないか。
「あぁ……滅ぼす予定だった国のトップに会うとか、怖いです……。嫌味とか言われそうです……。結婚式っていうのはウソで処刑されたりしないでしょうか……」
俺よりサロメのほうが深刻だった。
「だ、大丈夫だ……。処刑されたりしないように俺と結婚させて、侯爵夫人にしたんだから……」
俺の妻を殺すだなんて悪手はやらないはずだ。
「そ、そうだといいんですが……」
しかし、王様ってどんな奴なんだろう。
白くてふわふわのヒゲが生えて、王冠かぶってるイメージがあるけど、やっぱりああいう奴なんだろうか。
それともせいぜい30歳ぐらいで、いかにも冷徹な政治家といった感じの食えないタイプなんだろうか。
とにかく、穏便にすめばいいな……。
そんなことを考えているうちに、いかにも貴族ですといった服に着替えさせられた。
サロメも貴族といった雰囲気のドレス姿になっていた。
「か、かわいい……」
ヤバい。惚れ直した。
魔族とかそんなの関係なくて、これじゃ、美少女の羊っ娘ではないか。
「圭一もかっこいいですよ」
照れながらも、サロメは笑みを浮かべる。
早くキスさせてくれ!
そして、いよいよ王城に入城する。
「いよいよか……」
謁見の間に入る。
何段か高いところに王座があるので、あそこに王が座るのだろう。
その横に扉みたいなのもあるし、あそこから出てくるんだな。
さあ、どんな王が来るのかな……?
「王様のおなーりー!」
近衛兵のライカが声をあげた。いよいよ、王様の登場だ。
なんか、子供が出てきた。
8歳ぐらいの幼女だ。
髪の毛はドリルみたいにくるくる巻いている。
なんだ? 王の娘か?
「くるしゅうないぞ、くるしゅうない」
そして、階段を下りて、こっちにやってくる。
――どてっ。
途中で自分のドレスを踏んづけて転んだ。
「痛い! 痛い! この階段、死刑! 絶対死刑じゃ~!」
そのまま泣き出した!
何、何なの? これ?
「王! 階段は生き物じゃないので死刑にはできません!」
「わかった……。我慢する……」
ライカが駆け寄って、なだめた。
いや、そんなことより、さらっと重要なワードが出たぞ。
「この幼女が王様!?」
「なんじゃ、わらわが王では悪いのか」
幼女が顔をふくらませた。
「わらわがジギリス王国の代23代国王、ハルーシャである!」




