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11 ぐっすり快眠

「なるほど。魔族ってそういうふうになってるんだな」


「そうです。魔族の軍隊はとてもシステマティックで合理的なのです」


 その日の夕飯。

 俺はサロメから魔族についていろいろと聞いた。


 結論から言うと、魔族といってもかなり人間に近いらしい。

 普通に街もあるし、政治組織みたいなものもちゃんとあるようだ。


 ただ、魔王が大きな力を持っており、その下にいる部下たちが人間の国家、とくにジギリス王国を攻撃しているのだ。


「その、攻撃の妨害をしたから、この寺は目の敵にされてるってわけか……」


「そういうことになりますね。本来の予定ではとっくに王都を陥落させているはずでしたから」


「仏像に守られているから大丈夫だと思うけど、あまり攻めこんできてほしくないな……」


 絶対に大丈夫だなんて保証はどこにもないのだ。


「え~と、また、誰か攻撃のために派遣される恐れは高いですね」


 そこはそんなに甘くないらしい。


「ただ、わたしが大失敗しちゃったので、魔族側もすぐには動いてこれないかと思います。この、梅干しってもの、おいしいですね」


 サロメは二個目の梅干しを口の中に入れた。


「梅干し、いけるんだ。けっこう異文化適応能力高いな……」


「軍事作戦中はいろんな土地に行くので、そこの食べ物に慣れないといけないんです。なので、かなり何でも食べてきました」


 日本食でも大丈夫なのはいろいろとありがたい。


「圭一、魔族のことについて聞くのも大事だけど、仕事の説明もしないといけないわよ」


 リューナに釘を刺された。


「そうだな。じゃあ、お悩み相談室の業務について教える」


「はい!」


 サロメは思った以上にやる気だ。

 なんかメモ帳みたいなものまで出している。素晴らしい。


「基本的には相手の悩みや心配事を聞く」


「ふむふむ、悩みを聞く……ほかには?」


「悩みを聞いたら、本尊の部屋まで案内して、そこで合掌――お祈りさせる」


「神像の前でお祈り……ほかには?」


「以上」


「えっ? それだけなんですか!?」


 シンプルすぎて驚かせてしまったらしい。


「でも、ほかにやることなんてないぞ。だって、特別な資格があるわけでもないし、専門技術もいらないし」


「何か効果的なアドバイスはしないんですか?」


「ええと、多分しないと思うんだけど…………」


「結論からいくとしないわ」


 リューナが俺に代わって答えた。


「あくまでも私たちの役目は聞くこと。世の中の悩みの大半は改善しようがないことだから。なので、じっくりと聞いてあげるの。聞くことで悩みをやわらげるの」


 おっ、神らしい意見だ。


「もちろん、私たちで改善できることなら、どうにかしてあげたほうがいいわ。でも、宗教者のやることって具体的な解決プランを提案することじゃないでしょ。心の迷いを晴らすことが私たちの役目」


 そうそう。それでいいんだ。

 俺たちの使命はひたすら「聞く」ことだ。


「でも、聞くのってなかなか大変だからね。むしろ、場合によってはついつい相手に意見しそうになったりするの。あと、それはお前の甘えだろとか思うこともあるわ」


 うん、実際ある。


「でも、反論なんて絶対にダメ。相手の言葉をありのままに受け入れてあげないとダメ」


 ずっとサロメはメモをとっている。


「なるほど、魔法も特別な力もいらないから、ちゃんと相手の身になって聞いてあげるんですね」


「魔法かぁ。そういえば、魔族のサロメさんは何か魔法とかは使えるの?」


「睡眠の魔法なら」


 ああ、やっぱり魔法は使えるんだ。


「じゃあ、試しに圭一にかけてみましょうか。もちろん、眠っちゃうだけで無害です」


「そしたら、お願いしてみようかな」


「では、行きますよ。眠りの悪霊よ、少しばかりその力を――」


 なんか急激に眠気がやってきた。


 あっ、なんかまぶたが重――――――――



「あっ、やっと目覚めたわね」

「すいません、効きすぎましたかね」


 目を開けると、サロメとリューナの顔があった。


 布団に寝かされているし、どうやら睡眠の魔法をかけられている間に運ばれたらしい。


「これ、なかなか強力ね。安眠というより爆睡って感じだったわ」


「ですね。わたしの中でも自慢の一品です。戦闘の時でも、ゆっくりと敵を安眠させてその間に倒すんです。悪夢になっちゃうと起きちゃいますからね」


 それだけ聞くとけっこう悪質だな。


「だけど、戦闘がない場合は使い道がないですが」


 その時、寝起きの頭にひらめくものがあった。


「あっ、これ、仕事で使える!」



 翌日。

 門のところに新しい看板がかかった。


<仕事で疲れてる人・寝不足の人、ぐっすり眠れます>


 これが新しいお悩み相談室のサービスだ。


 そう、悩んでいる人の中には、単純に疲れている人も多い。

 あと、悩みのせいで眠れなくなっている人もまた多い。

 そういう人に眠ってもらうのだ。


 畳敷きの広間には布団が何枚も並べられている。


 ちなみに実際の仕事はこんなふうにやっている。


「はい、それじゃ、邪神……じゃなくて神のお姿を頭に思い浮かべてくださいね~。はい、眠くな~る!」


 依頼者が布団に入ったら、神から安らぎをえているイメージでも浮かべてもらって、そこでサロメが一気に眠らせる。

 

 とくに本尊にお参りしたあとに眠ると効果覿面だ。


「夢の中に神が現れたんです!」

「文字通り、目が覚めました!」


 こういう意見がすぐに聞こえてきた。


 ものすごく嫌なことがあっても、一度寝たら気分がリセットされることってあるからな。


 もちろん、眠るだけで良くなることは少ないけど、気持ちが沈んでること自体が問題なら、眠ることで切り替えるスイッチにできる。


「圭一、ナイスアイデアよ。お客様の満足度が明らかに上昇したわ」


 リューナにも褒められた。


「いや、魔法を使ってるのはサロメだからサロメを褒めてやってくれ」


「いえ、私の戦闘用の魔法が人助けになるとは思いませんでした。圭一に感謝です」


 サロメにぎゅっと手を握られた。


「わたしは人助けの人生を新たに生きることができそうです。ありがとう、圭一!」


 にっこりと微笑むサロメ。


 俺は改めて思う。

 この笑顔、守りたい!


 こうしてお悩み相談室に不眠外来的な要素が付け加わった。


 そして、もう結婚式の日が迫っていた。

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