9 家族が増えた
日間13位ありがとうございます!
これからも頑張ります!
どうしよう。
魔族が相談に来るとは考えてなかった。
「もう少し詳しく述べますと、わたしは第25部隊長のサロメです。第6部隊長のエルザークが謎の施設を攻撃中に死亡したということで、その施設を破壊するために派遣されました」
そうか、俺たちの存在、魔族にとっても目の上のたんこぶなんだな。
「ですが、500の兵士を動員したにもかかわらず、正体不明のガーディアンによって多くの兵が死亡……」
うん、毘沙門天と仁王だな……。
「挙句、ドラゴンまで撃破され、敷地内に入りこむことすらできない有様……。作戦の責任を取らされそうなんです……」
「それは大変ですね……」
「そんな他人事みたいに言わないでくださいよ!」
テーブルに前のめりになる依頼者。
「わたし、これからどうすればいいんですか? どうしたら殺されずに幸せに生きていけるんですか?」
「じゃあ、ジギリス王国に亡命しちゃえば」
「魔族の部隊長ですよ!? それこそ処刑される恐れが高いですよ!」
人間の世界にも居場所ないのか!
これは困ったぞ。解決策がなかなか見えてこない。
「あぁ……こんなのってないですよ……。別にわたしのミスじゃないじゃないですか……。謎の施設は謎だから情報だってないし、しょうがないですよ……」
サロメは頭を抱えている。
たしかに指揮官のミスは関係ないと言えばない。
どうしたものかな。
学校の問題集ではないので答えがはっきりと存在しているたぐいのものじゃない。
「サロメさん、これはどうしようもないです」
「あぁ、やっぱり……」
「ただ、この寺院の本尊にお祈りしたら――」
「お祈りしたら助かるんですか!?」
また前のめり。
「いえ、心が晴れます」
「心の問題じゃないんですって! 命がかかってるんですって!」
もう、サロメは半泣きだ。
「わかってます! それはわかってます! でも、心がリラックスしたら、何か名案が浮かぶようなことだってなきにしもあらずじゃないですか!」
「わ、わかりました……。なら、祈るだけ祈ってみましょう……」
一応、お悩み相談の定石の流れには持っていけた。
「本尊はこっちです」
俺はサロメさんを渡り廊下の先へ案内する。
とっとと奥へ行くサロメ。
その時、ふいに思い出した。
前回、本尊の前に来た魔族が消滅したような……。
「あっ、サロメさん、ちょっと待って! やっぱりそこ危な――」
本堂でサロメさんは静かに祈りを捧げていた。
ああ、悪意のない者に対しては本尊は攻撃を仕掛けることもないんだ。
魔族だからすぐに排除というような偏狭な論理では動かないらしい。
そのサロメの姿は実に敬虔な信者にしか見えなかった。
そして、なにより――
ものすごくかわいかった。
こんな時にしょうこりもなく、胸がときめいてしまった。
決めた。
俺はこの人を守る。
魔族だろうと、そんなこと関係ない。
困っている人間をとにかく助けるのが仏の教えじゃないのか。
でも、どうする?
このお寺に匿うか?
悪くはないが、不完全だ。
魔族の追っ手からは逃げられるが、王国の人間が入ってくるから、そのうちばれるだろう。
数日逃げればいいというルールならそれでもどうにかなるが、半永久に隠れることなんてできない。
ならば、いっそ堂々と宣言して許されるぐらいのものであったほうがいい。
案が一つ浮かんだ。
けっこう無茶苦茶な方法だが、意外とアリかもな。
拒否されるかもしれないが、その時はその時だ。
祈りを終えたサロメは、ほかの相談者同様に、迷いが吹っ切れたような顔をしていた。
「なんでか、心の平安を感じます。ここに来てよかったです」
「そっか、それはよかった。で、解決策は見つかったの?」
「見つからないので、魔族に投降して、刑に服します」
「いや、それはダメだろ! 死ぬって!」
いい笑顔で言う発言じゃない!
「やれるだけのことはやりましたので、悔いはないです。部隊長まで昇進したわけですし、悪い人生じゃなかったです」
いや、処刑されるの、絶対悪い人生だって。
「では、さようなら。ご相談に乗ってくれてありがとうございました」
帰っていこうとするサロメ。
その手を思わずつかんだ。
「あの、サロメさん、一つその命を救う方法を思いついたんだけど」
「えっ?」
「サロメさん、このお悩み相談室のスタッフになってくれ!」
俺は大きな声で叫んだ。
「人の悩みを聞く人は、多くの苦しみを経験した人であるほうがいいんだ。その点、サロメさんは最適だと思うんだ! このお寺で住み込みで働けばいい!」
それなら外に出ることもないから、命を狙われる心配もない。
「でも、そしたらあなたも王国から目をつけられますよ! スタッフってぐらいじゃ引渡しを要求されますって!」
「……やっぱり、ダメかな」
「スタッフって扱いにしてるだけだろって思われそうです」
そうか、まだ軽いのか。
「その気持ちだけでうれしいです。では、わたしはこれで」
俺の手を離して、去っていこうとするサロメ。
ダメだ。もっと全力で引き止めないと。
「じゃあ、スタッフより深い関係ならいいですね」
もう一度、サロメの手をつかんだ。
ほとんど勢いでその先を言った。
「だったら、俺の嫁になれ!」
「は、はぁっ!?」
きょとんとしているサロメ。それも当然か。
「俺の嫁になれば、王国にも恩を売ってる侯爵の妻だ! 王国もそうそうひどい扱いはできない!」