第四話・一度ある事は二度あるってホントだね……
うう、全然眠れなかった。
朝日が昇り、カーテンの隙間から光が差し込む。
きっと空は晴天で、雲一つない気持ちの良い天気なのだろう。
でも僕の体調はすこぶる悪い。
最悪だ。
はぁ……と、嘆息する。
落ち込んでいると、僕の横で寝ていたミーちゃんが起きて、僕のお腹に乗って顔を舐めてくる。
「はは、おはようミーちゃん」
「ミャアー」
元気出してと言うように舐めるミーちゃんの健気さに、僕は落ち込んでいた気持ちが吹き飛び、元気が出る。
ミーちゃんは僕の癒しだ。
僕は数分間ミーちゃんと戯れた後、寝巻から執事服に着替えるために、タンスの中をあさる。
慣れた手つきでタンスから執事服を手に取って着替えた。
あ、そうそう、貴族科だけしか学生服はなくて、騎士科と従者科は特に指定された服はなく、自由なんだよね。
これは貴族は貴族とわかりやすくするためなのかな。まぁ憶測だけど。
よし、着替えも授業に必要な荷物を準備できたし、食堂でも行こうかな。
「ミーちゃん、おいで」
腰を下ろして、ミーちゃんを抱き上げる。
その時、僕の鼻にモフモフの毛が当たり、鼻がムズムズしてしまう。
やば、くしゃみが出ちゃう。
あ、でも今はぼくとミーちゃんしかいないから平気か。
警戒せずに、僕は生理現象を我慢することなく、くしゃみを出す。
「はっくしょん!」「おはよーエリス! 可愛い寝顔を拝みに、きた、よ?」
僕が男になる瞬間と同時にサラがドアを開けて現れた。
か、か、完全に変身するところを見られた!?
どどどどうしよう!?
おお、落ち着け、もしかしたら僕が男になる瞬間は見てなくて、男がエリスの部屋にいるとか思っているかも知れない。
あれ、それでもアウトな気がする。
「なんで、エリスが、男から、女に」
はい全部見られてたー! はいおわったー!
サラの口からキモイとか変態とか言われるんだ。サラの口からそんな事言われたら立ち直ることなんて出来ないよ……。
もう死ぬしかなのかな……。
「エリスが美少女から美少年に……!?」
ん? なんか僕の耳がおかしくなければ、サラの声が今にも小躍りしそうなほど嬉しそうなんだけど?
「サラ?」
「うわ! 女版と比べると幾つか低い声だね!」
「気持ち悪いとか思わないの?」
「え? なんで?」
本当に気にしていないのか、キョトンとした顔でサラは言う。
僕としては女からいきなり男に変われば引くと思うんだけど、サラはそこに関して悪い感情は抱かないみたいだ。
よ、よかったぁ……。
安心したら、足腰の力が抜け、僕は倒れるように地面に座り込む。
「ま、驚く事は多かったけど、取りあえず、これは秘密にした方がいいよね?」
「出来たらそうしてくれるとありがたいよ」
「うん、じゃあ取りあえず部屋のドアを閉めてっと」
そっとドアを閉め、鍵を閉める。
あ、鍵を閉めるの忘れてた。
なにしてんの僕……。
自分の迂闊さに落ち込むと、サラが幾分か明るい声で話しかけてくる。
「それで、エリスの“本当”の性別はどっちなの?」
「男の方だよ。その、騙していてごめんなさい」
「あぁいいよ、別に。エリスの性別がどっちでも私たちの友情は揺らがないのだよ」
その言葉に、僕は救われた気がした。
僕は男の自分を偽り、女であるように見せて他の人を騙していた。お嬢様に面白いからそうしろと言われたと、お嬢様のせいにして罪悪感を消していた。
罪悪感を消して、そして考えないようにしていた。
まぁ、男に戻ってしまうこと自体忘れて、警戒を怠った結果サラに見つかってしまったんだけどね。
「いやそれにしても、エリスは男の頃だと髪が少し短いんだね。後、男の時でも私に背が負けてるんだ」
「ぐ……」
サラの言う通り、僕は男に戻ってもサラに身長が勝ててない。
彼女は170前半だと思うけど、僕は163㎝と背が低い。
男に戻って女性に背が負けていると思うと、情けない気持ちになるよ。
「あ、そういえば、エリスが男になってもミーちゃんって離れないね?」
「言われてみれば」
僕は腕に抱いているミーちゃんに顔を寄せる。
ミーちゃんは嫌がる素振りも見せず、逆に顔を押しつけてくる。
これって、僕だってことをわかっているのかな?
「匂いとかで判断しているのかも?」
「なるほど、ミーちゃんはホントに賢いね」
僕が褒めると、ミーちゃんは嬉しそうに鳴き声を上げる。
ミーちゃんの頭を優しく撫でる。
「ねぇ、さっき女から男になる時くしゃみしていたけど、もしかしてくしゃみすると性別が逆転するの?」
「うん」
「へぇ、ねね、じゃあさ、女になるところ見せて」
サラは楽しそうに言ってくる。
そんなに面白いのかな?
まぁ、僕がくしゃみをすると性別が逆転するっていうのを、サラは気持ち悪いとか変態だとか思わないし、見せてもいっか。
しかも今度はドアは鍵が締まってるし、次回は誰も入ってこないからね。
僕は念の為に入れておいた荷物の中にある胡椒を取り出す為に、抱いていたミーちゃんを床に降ろす。
荷物の中をあさり、胡椒を見つける。
お、あったった。
胡椒が入った瓶を手に、サラに体を向ける。
「じゃあ少しだけ離れていてね、胡椒臭いし、ミーちゃんもちょっと離れててね」
僕の言葉に、一人と一匹はぼくから少し離れる。
よし、それじゃあ変身しますか。
瓶の中にある胡椒を手に少量出し、鼻を近づける。
瞬間、鼻が刺激され、ムズムズとし始める。
「は、は、ハクション!」「遅いわよエリスちゃん! 心配して、きた、わよ?」
ドアを破壊して現れたのはチャッピーだった。
なんでこうなるんだよーーーー!!!!!
次回の更新は4月24日朝7:00です。