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第二話・ロリコンが現れた!?

 あれからレイナ様と一緒に入学式を終え、今は従者科のクラスの前で息を整えている。

 後ちゃっかりミーちゃんも腕の中にいるよ。

 この子大人しくてホント賢い、入学式中もしずか~にしてたからね! そんでもって偶に頭を僕の胸に押しつけてきてさ、もう可愛くて悶えないようにするのに必死で校長の話が頭に入らなかったな。

 その事を後でレイナ様に叱られたけど、きっとレイナ様もこの子を抱きながらじゃ校長の話しなんて聞いてられないって僕は思うね。


 っと、早く教室に入らないとね。

 ミーちゃんの頭を一度撫で、僕は意を決してドアを開ける。

 ガラガラと音を立てて開かれた教室内には、それなりの人が集まっていた。

 しかも皆一斉にこちらを見るもんだから、僕は顔を引き攣らせる。

 そ、そんなにガン見しないでよ。

 若干居心地が悪い思いをしていると、声が掛かる。


「あ、エリスじゃない。こっちおいで」


 喜色満面な様子で僕を呼ぶのは、花畑で会ったサラさんだった。

 え? あれ? なんでサラさんがここにいるの!?

 僕は動揺を隠せなかった。

 なんで動揺するかと聞かれれば、まずこの学園の科目について説明しなきゃだね。

 この学園では、貴族科、騎士科、従者科と大きく分けて三つになっている。

 言われるまでもないだろうけど、貴族の方は、約6割は貴族科にいく、残りの4割は騎士科に行くものがいるんだとか。

 騎士科と従者科は平民が多い。まぁ当たり前だね。貴族科にいけないんだから。

 まぁそれは置いといて、僕が驚いた理由だけど『黒薔薇の胡蝶』のストーリー上では、サラさんは騎士科に行くのが決まりなんだ。

 彼女は騎士科で攻略対象達と出会い、それぞれのルートを辿るのだ。

 彼女は女でありながら巧みな剣捌きでこの学園で名をはせる人になる。時期ザーディアン騎士団団長となる攻略対象、アルベルト・オストルと互角の戦いを繰り広げるシーンは、すっごい迫力のあるシーンだったなぁ。

 それなのに、ここは従者科のクラス、騎士科ではないんだよ。

 なんで!?


「サ、サラさんも従者科なんですね」

「そうだよ。騎士科も悪くはなかったんだけどさ、従者科の方が将来の為になるからね」


 二カッと笑う美女に、僕は思う。

 すっごい現実的だね!

 女の身で騎士になることは不可能ではないんだ。実際、女騎士は存在するし、活動しているけど、実用性は皆無、正直に言えば飾りだ。

 給料は決して悪くはないけど、女が騎士団にいられるのは20代ぐらいで、30歳になれば事務職ぐらいしかやることがない。

 そんな騎士団に彼女が入りたいはずもないのかな。

 彼女の向上心ある性格からすると、お飾りの騎士団で、彼女が満足するはずもないしね。

 乙女ゲームだったら将来を考える必要もないから現実的に考えて、それなりの貴族の従者になって信用を得たり、もしくは玉の輿狙ったりも出来るもんなぁ。

 玉の輿は、この学園で貴族の息子と良き関係を築ければの話しだけどね。

 それにしても、サラさんが従者科に来るなんて、ここは現実だからゲームの通りに行かないのかな? それとも僕というイレギュラーがいるから? ううん、考えてもわからないな。


「エリス、どしたの? ぼ~として」

「ん~ん、なんでもないです。隣の席、失礼しますね」

「ほいほい、あ、ミーちゃんだっけ? まだ抱いてたんだね」

「はい。この子大人しくて可愛いんですよ」

「う~ん、私的には、貴女の方が可愛いな」


 何を言っているんだろうサラさんは? 僕なんかよりミーちゃんの方が可愛いに決まっているのに。

 それに、可愛いと言われても僕的には複雑な気持ちにしかならないからね。

 一応男だかね、僕。今は女の身ですが。


「まぁそれはそうと、先生遅いですね」

「あ、軽くスルーなのね。まいっか。そう言えばそうだね。生徒はもう全員集まっていると思うけど」

「すいません。遅くなりました」


 噂をすればなんとやら、先生らしき人がドアを開けて教室に入ってきた。

 うわ、あの人よく見たら超イケメンだ。

 銀髪の髪はサラサラしてて、瞳は紅いけど垂れ目で優しそうな顔だ。

 正に優男といった容貌だ。高身長なのがまた憎らしい。

 僕も垂れ目で優しそうとか言われるけど、背は163㎝で、この世界の男の平均身長175㎝と比べるとチビなんだよ。

 女の時の僕なんて、140後半ぐらいの背しかないからね! ドチビだよ。

 はぁ……と、僕が落ち込んでいると、話が進んでいた。


「私の名前はアロン・セスタリー。これから一年このクラスの担当になるよ。よろしくね」


 ニコニコと人の良さそうな笑みで話す彼に、教室内の女子達が黄色い声を上げる。

 うん、まぁ、カッコいいもんね。仕方ないね。

 ……別に羨ましいとか思ってないし。


「はいはい静かに、それじゃあ簡単な自己紹介をしてもらおうかな。廊下側の人からよろしくね」


 先生の言葉に、廊下側の人は頷き、立ち上がって自己紹介を始めて行く。

 僕はその間、ミーちゃんと戯れている。

 どうせ自己紹介で聞いてても覚えきれないし、後で名前聞けばいいやーと僕は思う。


「エリス、次は貴女の番だよ」

「あ、ホントだ。ありがとうございます」


 僕の前の席の人が挨拶しているのを教えてくれたサラさんに、僕は礼を言うと、サラさんは微笑みを浮かべる。

 う~ん、やっぱりサラさんは優しくて良い人だな。なんでレイナ様は変だとか気をつけろとか言ってたんだろ?

 おっと、次は僕の番だった。


「エリス・バーストです。そしてこの子はミーちゃんです。今後ともよろしくお願いします」


 お辞儀し、僕は何事もなく席に座る。

 自然といけたね、ついでにミーちゃんの紹介も出来た。

 猫を学園に持ち込むなとか言われたらどうしようかと思ったけど、何も言われないという事は平気なのかも。ミーちゃんはもう僕の家族だからね。どうせなら一緒にいたいからよかったよ。

 むふーと鼻で息を吐いていると、何か視線を感じる。

 そろりと周りに視線を向けると、なんだが生暖かい視線で僕の方を向いているように思える。

 なんで?


「それじゃ、自己紹介を終えたところで解散だね。明日から本格的に授業を始めるから、そのつもりで」


 アロン先生はそれだけ言うと、教室から出て行く。

 まぁ初日だし、こんなもんか。

 僕は腕に抱いているミーちゃんを撫でながら、軽い荷物を手に立ち上がる。


「エリス、レイナ様の所に行くの?」

「そうですよ」

「なら私もついて行っていい?」

「はぁ、構いませんけど」


 別に平気、だよね?

 でも、ヒロインと悪役令嬢を会わせちゃったら駄目なように思えるし、でもでも二人が仲良くなってくれたら嬉しいしな。

 せっかくヒロインのサラさんと仲良くなれたし、出来たらレイナ様も仲良くしてくれたら嬉しいよ。やっぱり。

 よし、僕が二人の仲を取り持つんだ。この二人が仲良くすれば、これからのストーリーもだいぶ良くなるはず! おぉ! これはナイスアイディアというやつですな。


「何してるのエリス? 早くこないと先に行っちゃうよ」

「あ、ちょっと待ってくださいよ」


 ぐふふふと怪しく笑っていたら、サラさんが廊下で呆れた顔をしていた。

 僕は慌てて先を歩くサラさんを追いかけた。




 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




 予め決めていた待ち合わせ場所で、レイナ様と合流したんだけど、今、ものすごーく気まずいです。

 最初は笑顔で僕を出迎えてくれたレイナ様が、サラさんの顔を見ると、わかりやすく顔を引き攣らせていた。

 なんで貴女が、そう顔が物語っていたよ。

 幸いなのは、サラさんが気にした様子を見せないところかな。

 はぁ、仲を取り持つ為に気合入れたけど、なんか駄目な気がしてならない。

 いや、諦めるな僕! 諦めたらそこで試合終了だって、某バスケの先生も言っていたじゃないか!


「あ、あの!」

「なにかしら?」

「どうしたの?」


 二人同時に僕の方に振り向き、僕は若干腰が引く。


「いえ、なんでもないです」


 僕の馬鹿! アホ! 意気地なし!

 でも怖くて無理だよ! いったいどうすれば……。


「きゃあ! アルベルト様よ!」

「え!? どこにいますの!?」


 僕が憂鬱な気分になっていると、周りが騒がしくなる。

 ちょいまち、アルベルト様って、まさか。

 顔を上げると、そこには青い髪の美青年が柔らかい笑みを絶やさずにいた。

 全体的に細い身体だけど、実際は筋肉を凝縮された身体で、非力なんてことはない。

 普段は服などで身体が隠れるから、アルベルト様を非力と思う人もいるが、それはとんだ間違いだ。

 彼ほど怪力な人はいないのだから。


「やぁレイナ嬢」

「これはアルベルト様、御機嫌よう」


 アルベルト様の優し気な挨拶に、レイナ様が挨拶を返す。

 僕はレイナ様の背中越しで固まっている。いや、こんな所でこんな大物が出てくるとは思わなかった。

 攻略対象であるアルベルト・オストルとは、公爵家というお家柄で、強い権力を持っている。下手な事は出来ない。

 ゴクリッと、僕は唾を飲み込む。

 緊張する僕は、サラさんもきっと僕と同じになっているんだと思って、見ると、彼女はさして緊張していなかった。それどころかじっくりと顔を観察している。

 こういうの、肝が据わってるっていうのかな?


「今日も綺麗だね」

「お褒め頂き、恐縮ですわ」

「ふふ、君に今日会えてよかったよ。でも、なんで君は後ろの子を隠そうとするのかな?」


 アルベルト様が言うように、何故かレイナ様は僕を背中に隠している。

 確かに、僕は少し、そう、少しだけ頼りないとは思うけど、これでもバースト家という子爵の位を持つ貴族、礼儀はちゃんとしていますとも!


「いえ、この子は殿方が苦手で、こうでもしないと怖がってしまうのです」


 え? 僕は別に男の人は苦手じゃないよ? なんでそんな嘘を吐くんだろ、レイナ様。


「そうなのか、残念だ。先ほど黒い髪を風に揺らし、小動物のような愛らしさのある小柄で小顔な少女が見えたのだが……」

「気のせいですわ。ねぇ、サラさん」

「そうですね。そんな子はいませんでした」


 即答、しかも何故か息が合ってる。

 突然どうしたというのか、僕は驚きでいっぱいだよ。


「ううん、確かにいたのだが。む、それならこれを渡す機会がなくなってしまうな」


 そう言ってアルベルト様が懐から出したのは、色取り取りの飴玉だった。

 ほ、欲しい。


「あ、こらエリス」

「あちゃあ」


 は!? 僕とした事が、甘いお菓子に誘われて飛び出しちゃったよ。

 レイナ様が咎めるような言葉を、サラさんは諦めたような声を出していた。

 あ、後でレイナ様に怒られる……。


「き、君は?」


 アルベルト様が震えた声で僕に話しかけてくる。

 や、ヤバい、ここで挨拶をミスったら大変な事に……き、気を確かに持つんだ僕、家で練習した通りやれば問題ない!


「ぼ、ぼきゅの名前はえりしゅ・ばーすとです」


 噛み噛みだ! やっちゃったよ僕!


「エリス、エリス・バーストだね? 私はアルベルト・オストルだ。その、よかったらこれを食べないかい?」

「い、いいのですか?」


 赤や黄色や青と様々な飴玉を僕に見せて言うアルベルト様に、僕は涎を隠すことが出来ない。

 全部食べたい。でもそんな意地汚いこと言えないし、言う勇気もない。

 けど、一つだけでもいいから舐めたい。


「構わないよ。これは君達で分けていいよ」


 アルベルト様はそう言うと、僕に飴玉を差し出す。

 僕はミーちゃんを抱き直し、片方の手で受け取る。

 な、なんて優しい人なんだ。

 僕みたいな貴族の末端にこのようなプレゼントを。

 やっぱりイケメンは中身もイケメンなんだね。


「それで、その、よかったらでいいのだが、頭を撫でさせてくれないか?」

「へ? この猫のことですか?」


 僕はミーちゃんを抱き直し、アルベルト様に見せるようにする。


「いや、いや違うんだ。君を撫でさせてほしいんだ」

「僕、ですか?」


 まさかの言葉に、僕は固まる。

 いくら綺麗な人でも、男に頭を撫でられて良い思いはしない。

 でもなぁ、お菓子をくれるし、何より立場の上の人の頼みを断る事も出来ない。

 むぅぅ、仕方ない。ちょっと我慢すればいっか。


「わ、わかりました。どうぞ」


 僕が頭を差し出すようにすると、唾を身の込む音がする。


「で、では……」


 鼻息荒く、アルベルト様がゆっくりと手を僕の頭に触れようとした時、突然石の様にアルベルト様が固まる。

 あれ? どうしたんだろ?

 アルベルト様が僕の後ろの方を見て硬直しているのはわかるが、いったい何を見て固まっているかがわからない。

 しばらくすると、アルベルト様は咳払いする。


「こほんっ、あー……少し急用を思い出した。エリス嬢、また次の機会の時に頼ませてもらう。それでは」


 スタタタと颯爽と去るエルベルト様を、僕は呆然と見ていることしか出来ない。

 どうしたんだろう。

 首を傾げていると、


「エ・リ・ス?」


 と、恐ろしい声が聞こえてた。

 レイナ様のお怒りだ……。


「全く、今回は何事もなかったから良かったけれど、次はあの男に無暗に近づいては駄目よ?」

「そうだよ? あのむっつりロリコン野郎は警戒しないと」


 むっつりロリコン野郎って、それは流石に可哀そうだよサラさん……。

 というかこの世界にロリコンという言葉があったっけ?


「いいから、次からは気をつけなさい。いいわね」

「はい。気をつけます」


 しゅん、と項垂れる僕に、レイナ様は溜息を吐きつつ、僕の頭を撫でる。


「貴女は私の大事な執事よ。そして、私の誇りよ。しっかりしなさい」


 その言葉に、僕は涙ぐみ、けど泣かないようにして小さく頷く。


「美少女主従、たまんないわね。じゅるり」


 せっかくいい感じだったのに、サラさんの言葉で色々と冷めちゃったよ!!

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