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第一話・ヒロインとの出会い

 遂に、来てほしくなかった日がやってきた。

 王都ザーディアンに存在する学園、聖堂学園に通う日だ。

 もう朝からテンションだだ下がりだよ。

 何故かって? そんなの乙女ゲ―のイベントがこれから嫌でも起きるからだよ。

 最初のイベントは確か、捨て猫を拾ったヒロインのサラさんが、レイナ様の取り巻きに罵倒とか暴言とか言われるところだったっけ?

 みすぼらしい平民がみすぼらしい猫を拾ってるわよ、おほほほとか言ってたような気がする。

 まぁその時点では、レイナ様自身はなにもしてないんだけどね。


「エリス、ぼ~としてないで馬車に乗りなさい」

「あ、はい」


 学生服に身を包むレイナさまに言われ、僕は慌てて馬車に乗り込む。

 あぁ~あ、学園生活、どうなるのかな……。

 不安と緊張を胸に、僕は馬車に揺られたのだった。




 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




「やぁ~ん可愛い~~」

「ぬぁ、ちょ、やめ」


 僕はヒロインであるサラさんに抱き着かれ、頬をすりすりと頬擦りされていた。

 何故こうなったかと言われれば、よくわからないとしか言えない。

 こうなった訳は、話を遡る事数分前のことだ。

 僕がトイレに行くと嘘を吐いてレイナ様と別れて、最初のイベントが始まる花畑に向かったのだ。

 なんで来たかと言われれば、ヒロインがイジメられるイベントを防ぐためだ。

 これは何もヒロインだけを助けるだけではない。

 僕は勿論、レイナ様の為でもある。

 ここでヒロインと悪役令嬢であるレイナ様が対立しないためにも、僕がここで猫を見つけて保護すれば、イベントは回避されるはず、そう思って、あっちこっち探していたら、猫を見つけたのだ。

 真っ白の毛の可愛い猫だ。

 それに、人に慣れているのか、僕が近づいても逃げないし、抱っこしても抵抗されなかった。

 だから思わず、猫を撫でたりして和んでいたら、いつの間にかヒロインが目の前に現れて、抱き着かれた。

 はい、今ここ。


「そ、その、離れてもらって、も、いいでしょ、うか」

「あ、ごめんごめん。ついつい貴女が可愛くて抱き着いちゃった」


 快活な雰囲気の少女、『黒薔薇の胡蝶』の主人公、サラは黒髪ロングで、背中まで伸びた黒髪は綺麗である。目は少しつり目だけど、顔の造形は整っていて、美女だ。

 大人しくしていたら、大和撫子みたいに思えるが、彼女の元気な性格からすると、それは当てはまらないだろうね。


「ついで抱き着いたんですか……」

「可愛い動物とか生き物見ると、体が反射的に動いちゃうのよね」

「百歩譲って、僕だけに抱き着くのはいいですけど、猫を抱いてるときは自重してください」


 ミャァーと僕の腕の中で鳴く猫が、そうだそうだと言っているように見える。

 

「そうだね。これから気をつけるから、許してくれる?」

「ミーちゃんは許す?」

「ミャァ~」

「そっかそっか。許さないか」

「え!? 許してもらえなかったの!?」


 適当に嘘を吐いたけどサラさんは信じちゃってるみたいだ。

 驚きに固まるサラさんに、僕は笑う。


「ぷぷっ! 嘘ですよ嘘」

「なんだ、嘘か。もうびっくりさせないでよ」

「ごめんなさい。反応が面白くて、つい」

「ついでそんな嘘つかないでよ」


 情けない声で言うサラさんに、僕は苦笑する。


「これでお相子です」

「まぁこれで許してくれるならいっか。私はサラって言うんだ」

「僕はエリス・バーストです」

「エリスね。覚えた。ねぇエリス、貴女も新一年生?」

「そうですよ。サラさんもですか?」


 僕は知っているけど、惚けた顔で聞く。


「えぇそうよ。これからよろしくね」

「こちらこそ」


 握手する僕たちに、声が掛かる。


「エリス、こんな所にいたのね」

「あ、レイナ様」


 や、ヤバい。

 トイレに行くって言ってから大分時間が経ってるよ。

 しかも間の悪いことに、ヒロインのサラさんと悪役令嬢のレイナ様が出くわしてしまった!

 ど、どうしよう。

 あわあわとする僕を他所に、二人は会話する。


「ごめんなさい。エリスが迷惑を掛けなったかしら?」

「いえ、エリスさんはとてもかわい、じゃなくて、とても良い子ですよ。少しここでお話しさせてもらっていたんですよ」

「そうなの。よかったわ。エリスが粗相をしているのではと思って心配だったの」


 おほほほと二人して笑う姿が見えるんだけど、なんだがおかしいなぁ、目がどっちも笑ってないよ。

 や、やっぱり悪役令嬢とヒロインは水と油なのか!? そうなのか!?


「では、私たちはこれで、エリス、行くわよ」

「は、はい。サラさん、また学園で」

「うん、またね、エリス」


 笑顔で手を振るサラさんから離れると、エレナ様が口を開ける。


「エリス、あの娘には気を付けなさい」

「へ? サラさんですか?」

「そうよ。あの女はなんかというか、変なのよ」


 微妙な表情でそう言うレイナ様に、僕は首を傾げる。

 変と言うレイナ様の、その口調は困惑しているような感じで、嫌悪感はなさそうだ。

 だから僕は余計に戸惑う。

 いやさ、普通ここは嫌悪感を露わにして、ヒロインの悪口とか言うシーンじゃん? けど、レイナ様の表情は少なくても嫌悪感からくるものじゃない。

 というか、このシーンで直接ヒロインのサラさんと悪役令嬢のレイナ様が話すシーンはない。

 あくまで取り巻きの暴走のはずなんだけど、その取り巻きがいないことから、イベントがちゃんと動いていない事がわかる。

 こ、これは、僕が独断で動いたことでイベントが変わったのかな?

 でも、やっぱりヒロインと悪役である彼女等が仲良くなることはなさそう。

 あの会話を見ればそれはわかるよ。

 うう、思い出したら背筋が寒くなる。


 でも、敵対関係にはなってないから、これはこれで、イベント回避できたかな?

 よ、よし、このまま都合の悪いイベントは全部防ぐぞ。

 頑張れ僕、頑張ればお家取り潰しも国外退去もなくなる!


「ミャァ~」

「うん、ミーちゃん、僕、頑張るよ」


 腕の中で鳴く白猫改めて、ミーちゃんを抱き、僕は決意した。

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