「人生、諦めが肝心だよ」と語りかけてくる霞月先輩の優しい眼差しが痛いです。
「ナンバー、プレート……」
「ふふふ、感激のあまりまともな感想が出てこないか。ただ、私もまだまだ集めきれていない。このロジックを組みきれていないのだ。だからこそむず痒い。故に同志よ、私の力となってはくれまいか?」
なんってこった。
これなら、あのポニテ先輩に従っておけばよかった。ここは僕が求めていた部活じゃない──
僕の演説で何かスイッチが入ってしまったらしい音無先輩には大人しさなど微塵も感じられない。いや、上手いこと言ったとか言わなくていいから!!
他の先輩──性別相違二人組はというと。
「あんなナンプレオタクの鑑のような理論を展開するのは部長だけだと思ってました」
「桜坂センパイ、ボク、一生ついて行きます!!」
畏敬の念たっぷりに頭を垂れる篠原先輩。二宮先輩にいたっては、僕の両手を握りしめ、「アニキッ!!」なんて叫び出している始末。
いやいや先輩? 容姿がショータくんでも年齢的には貴方の方が先輩でしょうが!
しかも美少女姿でアニキとかやめてください似合わないです。ヤンキーづいてます。それならセンパイの方がまだましです。
「じゃあ、桜坂センパーイ」
呼び直せという意味じゃないっ!!
「で、では、僭越ながらあっしがアニキと」
篠原先輩!? キャラが、キャラが変わってますよ? 貴女、一人称"あたし"でしたよね?なんで"あっし"に? 半ばヤンキー風に? いや、ヤンキーになればアニキと呼んでいいなんて僕は一言も!!
「わかりあした、アニキ。コーヒー買ってきやす」
言ってないから!! ってか、先輩パシらす後輩がどこにいるんですか!?
本気で財布を手に自販機に行こうとする篠原先輩を止めようと前に出る。
「アニキ? 何を止めるんです?」
「アニキじゃありません。僕が行きますから、先輩は待っ」
「わかりあした。俺の屍を越えてゆけ、と。アニキはそう仰るんですね! アニキがあっしを鍛えるために与えてくれた試練なんですね! なら」
「ちーが」
すどん。
ものすごい勢いで鳩尾に拳が入ってきた。
「ぐふっ。せんぱ……ひど」
「くぅっ、アニキッ……あんたの犠牲は無駄にしない。あっしはこの苦難を乗り越えてあんたが教えてくれた"駐車場の奇跡"を撮りに行く!」
コーヒーどこ行った!?
もろ鳩尾だったので、声も出ない。誰か代わりに当初の目的を!
ぐるり目を回し、辺りを見ると、おっ、二宮先輩が何か言おうとしている。
「和子先輩、"駐車場の奇跡"って、ボクが教えたやつですよ!」
そこじゃねえぇぇぇっ!!
そこじゃありませんよ、お嬢さん、あ、いや、お坊ちゃん。
「あ、そういえばそうだった」
篠原先輩、納得しないで! もう一度よく、よく考えてみてください! 自分で言い出したことでしょうに!!
っていうか、
「誰かツッコめえぇぇぇっ!?」
僕が叫び助けを求め、まともそうな霞月先輩を見る。
すると霞月先輩はそのさらさらヘアを横に振り、憐憫の眼差し。
「潔く諦めた方がいいよ」
その目は語っていた。
「霞月先輩~、憐れそうに眺めてないで、ツッコミ手伝ってくださいよ!」
「……人生、諦めが肝心だよ、桜坂くん」
経験者は語るのだった。
ナンバープレートの素晴らしさを語る会
まず、ナンバープレートというのは皆さんご存知、車やバイクを始めとする自動車各種に取り付けられているその車固有の番号を示すプレートです。
ナンバープレートは私たちの下の名前の役割を持っています。
例えば田中 太郎という人物と田中 次郎という人物がいたとしましょう。どちらも「田中くん」です。だから、同じ場所に同じタイミングでいるときは「太郎くん」「次郎くん」と呼び分けるでしょう。それと同じなんです。
例えば、休日の大型スーパーマーケットあるあるで、同じ車種が近くにずらり止めてあって、どれが自分のだっけ? となることがあるでしょう? その際の見分け方として使えるのがナンバープレートなのです。
内装で見分けられるでしょ? って? あなた、どうするんですか。もしあなたと同じ車種の車の運転席に同じピンクのくまさんが置かれていたら。バックミラーから吊り下げているもみじが同じ色だったら。
今時は自動で鍵が開け閉めできるからそれで、なんて今度は言うでしょうけれどね、その鍵のセンサーだって有効範囲は結構狭いんです。
それにスーパーあるあるその二で「お車の移動を…」がありますが、それだって車のナンバーが読み上げられるでしょう? それは迷子になったのが"田中 太郎くん"だとわかるようにフルネームで呼ぶのと一緒です。
つまり、車のナンバーは重要なんですよ。
スーパーで「シルバーのヴォクシーでいらした方」とだけ言われたら、ぞろぞろと手を上げますからね? その中から次郎さんを避けて、太郎さんを導くのがナンバープレートの尊き役割なのです。
ナンバープレートがいかに重要か、わかっていただけましたか?
というわけで改めて。
これは、そんなナンバープレートに魅入られた者たちの物語である。




