表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編小説

ベリーズ

作者: 有寄之蟻
掲載日:2014/07/04

煌々と輝く満月。


夜の匂いを含んだ風が、街を通り抜けていく。


白い光に照らされる空は闇色。


灯りの消えた街は、すでに眠りについている。


ーーーそこに、月光を避けるようにして、陰を駆ける者がいた。


小柄な影と、大柄な影。


双方共に黒いマントをはおり、深くフードをかぶっている。


ちらりと覗くのは、口元と、顔の上半分を覆う白い仮面。


その容貌は窺えない。


音もなく家々の陰から陰を渡り、重さを感じさせない動きで、ふと跳びあがった。


ある屋敷の屋根に降り立つと、二つの影は何事かを話し合い、一つ頷く。


そして、大柄な影が一瞬の間に姿を消した。


小柄な影は、それを認めると、(おのれ)のいる屋敷を見おろす。


いくつかあるベランダを眺め、その一つに狙いを定めると、また重力を無視した軽さでそこに跳びおりた。


ガラス扉に近づくと、そっと鍵穴に手を触れる。


すると、カチャリ。とかすかな音が鳴った。


影は静かに扉を開き、内側に引かれた厚手のカーテンをくぐり抜け、闇に満ちた室内へと侵入した。


一度中を見渡すと、扉のすぐそばにあった寝台へと近づく。


柔らかな寝具に包まれ、そこには一人の青年がぐっすりと眠っていた。


影は青年の枕元に膝をつくと、そっと掛け布をめくり、青年の片腕を露わにする。


寝間着の袖のボタンを外し、少し上へまくれば、男にしてはほっそりした手首が晒された。


青白い肌に触れ、透けて見える血管を指でなぞる。


青年は目を覚ます気配もなく、静かに息を吐いている。


その顔を数瞬見つめて、影は青年の腕を持ちあげた。


手首に顔を寄せ、口を開く。


見えたのは、鋭い切先の、長い、白い、一対の牙。


影はーーー躊躇なく青年の手首に(・・・・・・)噛みついた(・・・・・)


牙がするりと肌に沈む。


それを少し抜くと、途端に鉄の味を伴った血潮が滲んだ。


こぼさぬように唇を寄せて、ゆっくりと血を飲み始める。


一度肩をぴくりと浮かせ、しばらく影は動かなかった。


・・・・・・やがて、満足した影は、牙を完全に抜き、流れ出る血を飲みながら、その切れ目を舐める。


何度か続けると、切れ目は初めからなかったように消えた。


影はマントの内を探ると、ハンカチを取り出して、青年の手首を丁寧に拭った。


袖を直し、優しく腕をおろす。


それから、掛け布を戻して青年の顔を覗き込んだ。


「ーーーー」


小さく何事かを囁くと、さっと身を翻し、影は部屋を出た。


鍵穴に触れ、小さな音を耳で拾う。


そして、ベランダの手すりに無造作に足をかけ、落下するように地面におりた。


すると、大柄な影が背後から現れ、声をかける。


小柄な影は肩をすくめる仕草をして、ついさっきおりたベランダを指さした。


大柄な影は、そこに一瞬顔を向けた後、小柄な影の頭を二度撫でて、すっとその身を陰に溶かした。


すぐに小柄な影もそれに続き、闇だけがその場に残される。


































ーーー二つの影が去った屋敷で。


吸血された青年がゆっくりと目を開いた。





『あなた、人間にしては美味しかったわ』






その瞳を、困惑と甘美な感情で揺らしながら。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ