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青の涙  作者: 刹那氷
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第8章-願いの花-

「どうした、いきなり涙なんて流して…」

扉を開けて俺を見るとキサラギは突然涙を流した。

「いや、なんでもないそれより…すまなかったカージュ」

「何か俺に謝るべき事でもあるのか?」

「俺は…お前の大切を奪った」

その言葉からキサラギは西で体験した出来事から自分が思いだした記憶の事を話始めた。俺の脳裏にはキサラギの言葉と当時の戦争で体験した記憶が甦ってくる。

「そうか…ではお前があの人を」

「そうだ、俺が憎いなら償う気持ちでなんでもするだからどうか命だけは取らないでくれ!」

キサラギの命乞いのような謝罪を聞き、俺は持っていた剣の柄を手で握り刀を抜く、その紅の刃を見るとキサラギは怯えながら俺の目を見る。

こいつがもし、あの人を死に追いあった人物なら当然怒りが込み上げてきているはずだったがその感情は俺に現れなかった。

しばらく手に持っていた剣をキサラギに向けて目を見た後それをゆっくりと鞘に収める。

「何も…しないのか?」

まだ震えているキサラギはそのまま床に腰を落す。

「お前が真相を確かめに行かなければ俺はあの人の死の原因を知ることは無かった。」

ゆっくりうなずくキサラギは俺の瞳を見つめる。

「だが、ここでお前を殺せば…俺の命は死へと近づいてしまう気がするんだ」

「どういう事だ?」

この言葉をきっかけに、俺は自分の全てを話す決意を決めたのである。

カージュが決断をしていたそんな頃リサもまたテトの放った言葉に困っていた。

「まさか…そんな事があるものなんだな」

次から次へ不思議な事が起こり、それに好奇心とやるせない気持ちを抱えたまま私の心は複雑に物事を受け止め、感じて悩む。

その中でテトに王の死後西の国の国政はどうなっているのかと尋ねれば新しき王が誕生し、かつての王を暴君と言っていた国民たちも徐々に戻って来ていようだったが何より私が一番気になっていることはパルモとポルムに咲いていた黒い花の行方だった。

「かつての西の王と黒い花には何か因果がありそうだね」

「お前もそう思うか」

テトと私の意見が合うのは珍しい事だったが、そうでなければこれまでの流れがあまりにも不自然すぎる。

「お前は亡くなった西の王についてどこまで聞いたことがある?リサ」

「名前と暴君と言う事だけだな」

「そうか…実はアーサー王と親交の深い人物が今生きていてな」

その人物にアーサーについて聞くしか今の所、黒い花についてのてがかりはつかめないと私は感じた。

「誰なんだ?そいつは」

「リュースさ」

テトがそう言った時家の扉が静かに開いてそこから重たそうな荷物を抱えたユリの顔が見えた。

「リサ様、買い物が終わりましたですの」

先に船に戻っているのかと思っていたが私は焦りの表情を隠してユリに微笑んだ。

一緒に居たパルモとポルムは自分と共に買い物と食事を済ませた後で別れ、護衛についていた兵士も里を警備していた者たちと入れ替わって船のある場所へ戻っていったらしいがそのことよりもまさかあのリュースとアーサーが争い以外で繋がりがあったと言う事に驚きを隠せなかった。

「ご苦労様、それじゃあ戻ろっか」

「ユリ…良かった目が覚めたんだな体はもう大丈夫なのか?」

「テト様、大丈夫ですの」

誰にでもこの笑顔を見せるユリは私だけではなく誰がどんな心境や状況に置かれていても笑って顔を見せて、嫌な事があれば怒り悲しむ事が素直に出来るそんな人を私は初めてみた気がする。

「話は聞いていたが里も大変でな」

「知ってるですの…亡くなった仲間もいるのですか?」

黒い花が咲いていた獣人からは数日前にその花が消えた。だが、それは対照的に黒い花が消える前からその花の症状に苦しめられていた人間が居たと言うことは死んだ者も居るユリはその悲しい現実をどこかで感じていたのだ。

「そうだ、お前にこんな話はしたくないんだけどな」

「もう…ユリは子供じゃないですの…戻りましょうリサ様」

そっけない表情を見せるユリはそのまま後ろを向き部屋のドアを開けた。

「見張りをつけようか?」

「いや、女どうしの話し合いがあるからね男は邪魔なんだよ」

私もテトを避けるようにユリと共に部屋を出ようとするとその足を止めるように言葉を発した。

「そうだ、お前の仲間にカージュと言う名の男は居るか?」

その名前を聞いて私は進めていた足を止めた。

「あぁ」

そう言うとテトは少し真面目な表情をして言った。

「リュースからの伝言でな、何やら焦っていたが…ここに来るように伝えてくれ」

テトからの伝言を承諾すると私とユリはあいさつをして家を後にした。

心地よい風が吹く帰路の道は草木が揺れ、私とユリの揃った足音が重たい荷物の音にかき消されてそれでも一歩ずつ前へ進んでいた。

「キサラギの事が心配なのか?」

「はいですの…」

ユリがテトにとった態度は明らかにいつものとは違っていて、目覚めた時には一度もキサラギの事を口にしなかった。

臭いにも敏感だったユリはキサラギの臭いがしなかったために、今までその不安を漏らすのをこらえていたらしいが張っていた糸が切れるようにユリの表情は暗くなった。

「心配ないさ、あいつは強いから」

そう言ってみたものの、西の国に行くと言うことは戦場へ飛び込んで行くようなものだ。王が居なくなった今では尚更どうなっているか分からない。

歩いている道の木々の葉が静かに揺れて居る中静けさを切り裂くように私の通信機が光りだした。

「リサ、今どこに居る?」

「カジュかもう着くところだけど何かあったのかい?」

「話があるんだ…大切な事だからみんな揃ってからがいいと思ってな」

カージュの言ったみんなと言う言葉に私はふと予感した。

「そこにキサラギも居るのか?」

「あぁ」

私とカージュのやり取りを横で聞いていたユリの目からは涙があふれていた。

「あぁ分かったよもうすぐ着く、切るね」

通信機を切った後もユリの表情は変わらず、何も言わずに歩いてると船のある場所に着いた。重たいドアを開け、長い通路を進んでまたドアを開ける。

「ただいま、カージュ、キサラギ」

温かい灯りと二人が私の目に入ると安心した。

「ユリ…ただいま」

キサラギがそう言うとユリは静かにキサラギの方に近づき、そのまま涙で濡れている顔を大きな胸に埋めた。

「黙って行って…どれだけ心配したと思ってるの!?ほんと最低ですの!」

何度もキサラギを泣きながらユリは叩いた。

「リサに伝えて行ったんだけどな」

「それも聞いてないですの…」

そのユリの言葉にキサラギは驚きリサの方を見た。するとリサは顔をニヤつかせながら笑みを浮かべる。

「あんなものは捨てたさ自分で伝えるといい」

酷い奴だと思ったがリサの言っていることも間違ってはいないと思った。伝えたい大切な思いはあんな紙切れでははっきりとは伝わらないと俺も感じていたからだ。

「カージュ、せっかくだ二人にさせてあげよう」

リサに強引に別の部屋に連れて行かれ俺はそのままリサと二人きりになった。

「…私に何か言いたいことがあるですの?」

ユリはおさまらない涙を浮かべながらキサラギを見つめる。そしてそのユリを見るキサラギの顔は赤面していた。

「ありがとう…お前に助けられなければ俺は何も知らないままだった。」

そう言ってキサラギはユリを抱き寄せ頭を撫でた。するとユリの頭に咲いていた花が床にゆっくりと落ちていったのである。



「無事に伝えられたようだな」

ドア越しに二人のやり取りを聞いていたリサはまた微笑みを浮かべた。

「なぁリサ…お前にしか聞けない事がある」

「なんだい?」

不思議そうに聞くリサに俺は恐る恐るその言葉を口にした。

「種無きシードレスと言う言葉を知っているか?」

その言葉を聞いたリサは俺を壁に追いやるように迫り、壁に手を付いた。

「どこでその言葉を聞いた?」

その時、部屋のドアが勢いよく開いた。

「リサ様!花が取れたですの!」

壁に付いた手をどけるとリサはユリに笑顔を見せた。

「そうか…大切にするといいよその花は願花がんかだったようだ」

そう言ってリサはユリに咲いていた花の説明を始めた。

願花は何か大切な思いを抱えた人に咲く花とされその思いがよほど強い物でなければ人に咲かず、花が咲いている者の願いが叶うと花はその者から離れその後もその思いが強ければ消えずに残る。

ユリに咲いていた願花の大きさが変化していたのはユリの中に宿っていた思いの強さが変化を繰り返していたからとリサは語った。

「しかし、一体どんな思いがきっかけで咲いたんだろうね」

ユリはふとそれを考えるとひらめいたような顔をして、口を開いた。

「昔から私は避けられてきたですの…それであの時、誰かを始めて助けたいと思って…」

恐らくユリの願いは誰かに必要とされることだった。まずはリサに必要とされ、キサラギの命を救った。結果としてそれは誰かのためになることをしたことになり、命を救ったキサラギから感謝の気持ちを受け取

り、ユリの願いは成就したのだろうとユリは語った。

「本当に…今はそれが嬉しいですの」

ユリの目からはまた少しだけ涙が流れだしていた。

「本当に悪い花でなくてよかったよちょうどいい大きさだから後で押し花にでもしてペンダントにしよう」

「はいですの!」

こうやってまた一つ分からなかったことが解決していく、その過程がこんな温かい形で完結して行く様子を見ると俺の心にも少しの余裕と安心が生まれた。

「さて、カジュ次は君の話を聞く番だ、話してくれるかい?」

「分かった」

そして、俺と仲間たちはまた新たな難問へと目を向けようとしていた。


これより先語られる物語と難題は全ての謎に迫り、冷たい過去と大きな悲劇に立ち向かう物語である。








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