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青の涙  作者: 刹那氷
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第7章-伝わる悲壮-

「カージュ…私の命を…」

静かな船の中で、夢から勢いよく冷めた。

俺が昔聞いていた懐かしい声は思いだす度に切なく、恋しい気持ちになるそんな女性の声だった。

寝ていた部屋から出るとランタンから灯りが漏れているのが見えた。目が暗闇になれていないせいなのかランタンの灯りはぼやけて見えている。

「なんだ…カジュ、起きたのか」

「あぁ嫌な夢を見てな」

びっくりしたようにほっと溜息をリサがつくと俺のために飲み物を用意しに行った。

「飲むといい落ち着くよ」

温かいカップの中には牛乳が多めに入ったコーヒーが注がれていた。それを口に含むと柔らかい甘さと少しの苦さが心を落ち着かせた。

「ありがとう…リサ」

「昔の夢かい?」

「あぁ…今頃どうしているか…それより研究ははかどっているのか?」

深いため息をリサはつくとユリの眠っている部屋を見ながら口を開いた。

「さっぱりだな…それより私はユリが心配だよ」

悲しそうなその表情を見ると俺は寂しさを紛らわすかのように口を開き話し出してしまう

「俺が城に居た頃…不思議な女剣士が居たんだ」

その女剣士は茶髪の長い髪を二つに縛り、黒いコートを着て首元にある余った布で口を覆っていた。

そいつは医療においても優秀な腕を持ち、万能な女兵士だった。しかしその剣士には感情が欠けていて、人間の持っている感情のどれが欠けているのか最後まで分からなかったが

その欠けている感情のせいで他の感情が普通の人よりも起伏が激しかったのだ。

剣士と言う職業は誰かを守るために時には誰かを斬らなければならない、そんな状況が常に戦争の中では付きまとうのだ。

彼女は誰かを斬ればしばらく涙を流し、胸を押さえながらうずくまり、斬った人数が多ければ多いほどその悲しみは深くなる。

だからそんな彼女を俺はいつも心配していた。

「まぁそんな所さ」

「なんだもう終わりかい?」

笑いながら言うその顔はとても楽しそうで見ていてほっとした。

「だが、恐ろしい事なんだ、彼女に殺人をすることが楽しいと思えてしまえば殺人は彼女の中で楽しいと言う感情に入ってしまう…」

「それは恐ろしいな…」

そんな話をしているうちに船の窓からは陽の光が差し込んできていた。それをみた途端にリサの口からは大きなあくびが出た。

「少しやすんだ方がいい、船は俺が見張っているよ」

「ありがとう…あ、そうだカジュ、そこの小さいドアを叩く音が聞こえたら開けてやってくれ」

そう言うとリサは船室の横に設置された小さなドアを指差した。

「あそこから誰か来るのか?」

「子供の獣人さ、久しぶりにこの国に帰ってきたからもしかしたらユリに会いに来る子がいるかもしれない」

そう言い切るとリサはよろしくと言うかのように後姿のまま片手をあげて手を振った。

手に持っていたカップの中のコーヒーはもう空になっていて何をすることもなく、ユリの眠っている部屋に入る。

相変わらず眠っていてもユリは愛らしい表情をしていて顔を見ると何故か安心していた。

数日前の戦い、キサラギが西に旅立ってからこの船の中では静かな日が続いていた。

「う…」

「ユリ…」

「カージュ様…」

長い眠りから覚めたユリはベットから起き上がると少しふらついていた。

「おはよう」

「おはようですの」

にっこりと笑うユリはいつもの笑顔を見せ、その表情を見ていると後ろに何かの気配を感じた。

「ユリ、ちょっと待ってろ」

静かに下ろしていた腰を浮かせて立ち上がると部屋のドアをゆっくりと開けた。

「おい、人間!」

「ユリ姉に何するですのー!」

ドアを開けた瞬間、二匹の獣が俺の前に飛び掛かって来てそのまま倒れた。

「パルモ、ポルム!」

嬉しそうに声を上げるユリはベットから立ち上がり、二人に近づいて頭を撫でた。

どうやらこの二匹の小さい獣はユリを慕う双子の獣人でユリがリサと旅をする前からの付き合いらしく、ユリを姉のように慕っているのがパルモ、その兄がポルムである。

「テト様が様子をきにしてたんだよ」

「お花が取れたんだよ!お姉ちゃん!」

のしかかっていた俺から二人はどくと数日前の出来事を話し始めた。

西軍の領土支配に犯されていたパルモとポルムは黒い腐花の花粉を嗅がせられ、体に花が出る症状が進行していた。

花がまだ体に咲いていた頃は体のだるさや吐き気などの症状があったが領土を奪還して数日後目が覚めると体に咲いていた腐花は綺麗になくなっていたと二人は語った。

「いったいどういうことなんですの…」

「ポルム達にも分からないんだ気がついたら花が無くなってたんだよ」

「ユリ姉ちゃんの花は取れないの?」

心配そうに見つめるパルモをユリはそっと抱きしめた。

「ありがとう…でもきっとこのお花は悪いお花じゃないですの…だから大丈夫」

少し涙を流しながらユリはそう言うとパルモはにっこりと笑った。

こんな光景を見るのは俺が城に居た頃以来だろうあの頃はよく俺も笑っていて、その場所に居ることに生きがいを感じでいた。

懐かしい思い出を振り返っているとそれを切り裂くようにドアの外からリサの悲鳴が聞こえてきた。あわてて部屋にいた全員が外に出るとリサは落ち込みながら椅子に腰を掛けていた。

「どうしたんだ…リサ」

「私の研究していた花が…無くなっていたんだ」

その花はやはりパルモ達に咲いていた物と同じで今朝になってその花が消えていたことに気づいたようだった。

「寝ていて気づかなかったが…残念だよ」

「でもあの花は見た時から嫌な感じがしたですの」

頭を悩ませるリサは下を向いたまま少し考えるとふと顔をあげた。

「まぁ良いさ、それよりおはようユリ、来てくれたのに気づかず悪かったねパルモ、ポルム」

「俺たちはリサ様を呼びに来たんだよ」

ポルムがそう言うとリサは深いため息をついたおそらくはテトが腐花のことを聞きたいのだろうと俺も感じていた。

「そんなにあいつは嫌なのか?」

「いや…嫌いじゃない苦手なんだ」

リサはそういうと嫌いと苦手は似て非なる避け方だと語った。

テトは村のみんなを守ろうとしている。だがその度にいろいろな事に情熱を注ぐくせがあるらしい、詳しく話したことは無かったがあの姿は獅子そのもので頼もしいようにも見えた。

「悪いやつには見えないが…」

「熱いやつなんだよ…外の見張りとこの子たちを連れて行ってくる。留守番を頼むねカジュ」

そう言ってリサたちは船から出て行った。静かな部屋にただひとり残された俺はまた何をするか分からず立ち尽くしていると目の前にあった黒い電話がなる。

「はい…」

「その声は…カージュか?」

聞き覚えのある声は俺の耳にはっきりと入ってきて、あの時の笑みを思いださせる俺が使えていた東の王リュースの声だった。

「リュース様…」

王は電話越しに笑うと声を小さくしてまた語りだした。

「私の護衛を引き受ける気はないか?」

詳しい話を聞くと、近いうちに北の国で各大陸の王が集まり、会談が行われるらしい。

その会談の警備に東の国からは俺を選んだ。そしてその会談にはリサも呼びたいとリュースは提案してきた。

「何故、北で会談を?」

「西の王が数日前、自ら命を絶ったらしい」

リュースの言葉に驚き、俺は咳払いをしてしまった。戦争を仕掛け、幾人もの命を花としてきた西の王が自殺した。

花となった者の中には俺の家族や友人もいて、それを花とした許すことのできない敵の存在が居なくなったのだ。

「そんな…この悲しみを…悔しさを憎しみを俺はどこにぶつければいいのですか!」

「私にぶつけろ…お前に会って話しておきたいこともある。それに、探してもらいたい人物もいるしな」

この王は一体何を企んでいるのだろうと思いながら俺はまた嫌な予感を感じていた。

「お前のよく知る人物だ。ではな、リサにも伝えておいてくれ」

電話はその言葉を最後に切れ、そっと受話器を置くと深いため息が出た。

本当に突然の出来事が俺の心を悩ませる。このまま依頼を引き受ければ次の目的地は北になるが、なぜ四大陸の王達で会談を開催することになったのだろう…西の王が崩御した。

ことだけでそれが開催されるとは考えにくいが頭を悩ませれば悩ませるほど混乱してしまうだけだった

そうしていると何やらそとが騒がしくなり、しばらくすると出口へつながる通路に人影が写った。

「カージュ…」

「キサラギ…おかえり」

カージュとキサラギが顔を合わしていた頃、リサたちは里へ足を進めていた。

「リサ様、お腹が空いたですの」

「三日間何も食べずに眠っていたのならお腹も空くよね、テトの所で何か食べさせてもらおう、食料品の調達もあるしな」

話しているうちに里に到着すると以前とは別世界のように明るく、賑やかな様子だった。

「カージュ様にもこの景色を見せてあげたいですの」

「そうだな…ユリ、パルモとポルムを連れてここに書いてある物を買ってきてくれ」

私はユリにその場で書いたメモを渡した。そこには少し多めに物を書いて自分の持っているお金の中から少し多く、お札と小銭を渡した。

恐らく、テトの話は腐花に関することだろうと思ったそんな話を聞くのは私だけでじゅうぶんだ。

心配するユリの目に私は微笑みを見せた。

「ごめんな、面倒な用事は先に片付けておきたいんだ」

笑う三人を見ると私の心は落ち着き、前に進める勇気をもらえた。本当にテトの所に行くのには気が進まなかったからだ。

三人と別れ、女性の力で開けるのには少し重いドアを開けた。

「おう…リサ来てくれたか」

「何かあったのか?」

「いや…少し驚いていてな…西の王が亡くなった」

それを聞いた時、言葉にならない虚しさが体を貫いたのだった。

カージュと同じく、リサが西の王の死を聞いていた頃、船の中では沈黙した空気が漂っていた。

「無事で何よりだ…今、西の王の死の知らせでどこも騒いでいて大変だよ」

「そうみたいだな…それよりユリとリサはどこへ行ったんだ?」

「テトに呼ばれたみたいでな、買い物をしに行くと言って出て行ったよ」

「そうか…やっとユリは目覚めたんだな」

ユリが目覚めた喜びと、今目の前に居るカージュを見ていられないキサラギの目からはそんな気持ちがあふれていたのだった。














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