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青の涙  作者: 刹那氷
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第5章-旅立つ思い-

キサラギの放った一言に俺とリサは背筋が凍りついた。

「お前の記憶に関係しているなら私が止めてもきかないだろ?」

「あぁ」

キサラギの返事に顔をにやつかせながらリサは笑ってすぐに真剣な眼差しでキサラギを見つめる。

「西に行ってもいいがいくつか条件がある」

するとリサはまず、ユリを指さした。自分の力だけではユリを立ち直らせることはできない、だからせめてユリが目覚めてから西に行くことそして俺が拾った花の想いを聞くことその二つの条件をリサは提示した。

「そうだな…ラジェル達に話してから船に戻る、先に行ってくれ」

キサラギの表情に納得するとリサはうなずき俺と共に洞窟の出口へと歩き出した。

「良かったのか?」

「危険なのは彼も承知しているはずだ」

「となると、やはりあいつは…」

不安そうな顔を浮かべるリサを俺は時々気にしながら歩いた。

恐らくキサラギは西の国に関わりのある獣人なのだろうリサからしてみればその事実を受け止めるにはあまりにも大きい事だ。

俺にできることは何かないだろうかと考えながら歩いていると船のある場所に戻って来ていた。

テトの暮らしていた家の方向からは何も聞こえなかったが今は戻りたくないと、リサはその足を船に向けた。

船室の中に入るとぐったりとした表情でリサは椅子に座り顔を伏せる。

「大丈夫か…?」

「君はいつも冷静だねカジュ」

「そんなことは無いさ」

俺はまだリサたちと出会って数日ほどしか旅に参加していなかったが何故かキサラギが行ってしまうのは不安だった。

「お前の不安も分かる」

リサは深くため息をつくとこちらを向き、口を開いた。

「ユリは…瀕死のキサラギを助けたんだ」

戦火から逃げながら花を集めていたユリは道の橋で頭から血を流して倒れるキサラギを見つけた。

そんなキサラギを必死に引きずりここまで引きずって連れてきた。腐花も始まっていたが流れる血を包帯で抑え船にある薬で死ぬことを止めてやっと息を吹き返した

そんなキサラギが殺されたかもしれない状況と知ればユリの心は不安でいっぱいになる。合わせて血の匂いが充満する場所に来たのだ、理性を失うのも分かる。

「悪かったな…殺すなどと言って」

「仕方ないさ、私も油断していた」

重たい空気を感じる中で船のドアが開き、キサラギがユリを肩に背負いながら帰ってきた。

「心配ない気絶しているだけだ」

船室のベットにユリを寝かせるとキサラギはその顔を見つめていた。

「ユリ…」

そう言うとキサラギはユリに背を向けて船室を後にしようとした。

「カージュ…頼む」

リサの方を俺は少し見ると合図するように首を縦に振った。

部屋を出るとキサラギはいつものように植木鉢と青い液体を準備し、俺は花を手に取りキサラギの方を見た。

「やっぱり…行くのか?」

「あぁ…知らなければならないと思っていた事だ」

刀を持っていた男から咲いた花をキサラギに渡すとそれを鉢に差し、ゆっくりと液体を垂らした。

目を閉じると静けさと怪しそうな声が聞こえてきた。

「いい物を拾ったなサーヴァ、まさか獣人とは」

「はい」

「こいつはいい戦力になる」

静かな男の笑い声が聞こえた後、場面が変わったように少し静かになりまた声が聞こえてきた。

「キサラギ、ずいぶんと強くなったな」

「お前の刀の速さに比べればまだまだ俺は遅いさ、サーヴァ」

「次の戦争…我々は勝たなければならない」

サーヴァと言う男の声がそう言うとまた花はしずかになり新たな声が聞こえる。

「キサラギ、これを飲め」

何かを飲む音がしてその後で誰かの苦しみ叫ぶ声が聞こえた。

「成功したか…サーヴァ」

「仰せの通りにキサラギに薬を飲ませました」

「紅蓮の剣は相当な傷を負っている」

「ですが…キサラギが」

「奴は駒だ瀕死の状態とも聞いている」

そこで花の声は聞こえなくなった。目を開けると花は白くなって砕け散っていた。

横を向くとキサラギはうつむきながら立ちつくし呆然としている。

「カージュ…ありがとう」

その言葉からキサラギはまた口を開いた。

俺が森で戦った相手はサーヴァ・イニスと言う西軍の実力ある剣士で王に忠実に使える者だった。

サーヴァは俺たちが探索しに行った村の西軍を指揮している人物だったらしい、俺はその男を斬った。

だから領土の制圧も簡単に達成することができたとキサラギは語る。

「だが…正直信じられないことばかりだ…利用されていたなんて」

これでキサラギがリサと交わした約束が一つ果たされたしかし、花の思いを聞きさらにキサラギの動揺は増していった。

それを見る俺はまた言葉をかけることもできずただ無言のまま彼を見ることしかできなかった。

「やはり…止めても無駄なんだろ?」

「あぁ」

キサラギは鉢や液体の入った試験管をかた付にその場を離れた。

本当にこれでいいのだろうか俺が口を出せる立場ではないしキサラギ自身のことなのだから関係を持てるはずがないが心に切なさが満ちて行く。

「ユリには黙って行こうと思う」

「それは駄目だ」

キサラギが俺にそう言った時、扉が開いてリサがキサラギを止めた。

無言になりうつむくキサラギは足を止め、少し間を置いてからリサの方を見つめた。

「ユリが目覚めたら…これをわたしてくれ」

ポケットから取り出された紙をリサにわたすとそれをりさはゆっくりと受け取った。

「これは…?」

「ユリへの思いだ」

リサはくすくすと笑うとキサラギの方を真剣な目で見つめて口を開く。

「止めても無駄だということは分かってたが…無事に帰って来るんだぞ」

俺を見つめるキサラギとカージュは何故か安心できた。

「行ってくる」

ゆっくりと歩いていくキサラギの背中はとても重く、堂々としていた。

彼はどんな過去を失い取り戻していくのだろうか扉はゆっくりと閉まり、俺とリサは複雑な思いを抱えながらその場に立っていた。



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