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青の涙  作者: 刹那氷
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第4章-紅の記憶-

二人で部屋を出るとリサとキサラギが船の外に通じるドアの前に立っていた。

「これから行くところは私の知り合いの家だ」

「テト様の所ですか?」

「そうだ」

そこは獣人の国で一部の地区は西の国によって占領され今では自由に行動することも難しいほど南の国の状況は悪化しているらしい、そのため一人の獣人が名乗りを上げ同じ種族で身を寄せ合う村を作った。

その獣人の名はテト・アカシアと言って頼みごとをされた人物がそのテトに当たるようだった。

そして、南の国は特に王政などの決まりがないため、テトの仲間には獣人以外にも普通の人間もいて皆が家族のように暮らしているとリサは語った。

「そんなにも西の勢力は広がっていたのか…」

「仕方無いさ、武力では圧倒的に南は不利だだから東の国の王にテトから預かった手紙をわたしに来ていたんだよ」

今まで何も分からないまま話を聞いていたが戦争のない国でも領土を西に奪われたことを知って俺はどう言葉をかけていいのか分からず黙ってしまった。

暗い通路を歩きながら話すうちに再びドアにたどり着き、そこを開けると森の中に出た。

空気が澄んでいて、周りは大きな大木に囲まれている。涼しい風が吹く中で俺は辺りに嫌な気配を感じていた。その気配はおそらく人で細い針が体を刺すようなそんな殺意を出して俺を見ているようだった。

「お待ちしておりましたリサ様」

「ただいま、レッセル」

森の奥から耳の生えた人間が現れ、お辞儀をする。

この獣人もまたテトの仲間で複数の獣人で船を警護する人々だとリサは言った。

しかし、俺の感じる気配はこれではなくその気配は時間が経つにつれて濃くなり静かに俺を見てその場にとどまっている。

「リサ…悪いが後で合流しよう」

「どうかしたのかい?カジュ」

「辺りから殺意を感じるんだ」

俺の言葉に少し怯えていたユリに気づくとリサはうなずいて言った

「そうか…じゃあキサラギ、カジュを助けてやってよ」

「分かった…」

キサラギの返事を聞くとリサは笑ってカージュの横を通りすぎて行く。

「死ぬなよ…カジュ」

リサと別れると俺とキサラギは船から離れ、リサたちとは逆の方向に歩いた。

しかし、俺を捕えている殺意はどれだけ歩いても離れることは無く、キサラギもその殺意に気づいて辺りを警戒するようになっていた。

「ちっ…切りがないなこれじゃ」

それまで走っていた足を俺とキサラギはゆっくりと止め、感じる殺意の方に目線を向けた。

「さぁもういいぞ、いい加減出てきたらどうだ?」

俺が言葉を放った瞬間殺意は針から刃物へと変わり俺に襲い掛かってきた。相手の刀はとても速く少しでも俺が剣を抜くのが遅ければ俺は死んでいた。

「よく今の一撃を防いだなカ-ジュ・ファーブニル!」

「俺の名前を知っているのか?」

男の刀を降ろす力は少しずつ強くなり立っているのがやっとだった。

だが、その時俺の背後から銃弾が通りそれは男の足に当たった。男は腰を落し悶えながらキサラギの方を見つめた。

「お前は…キサラギ…生きていたのか」

自分の名前を知る男にキサラギは驚き、震え始めると銃を地面に落してその場で頭を抱えた。

「キサラギ!」

カージュが呼んだ直後に男は最後の力を込めて刀を振るった。

「私はまだ息を絶やしていないぞカージュ!」

男の振るった刀は光のような速さでカージュの心臓を狙ったが、それをかわして自分の持っている剣で刀をはじくと地面に落ちる前にそれを取り男の心臓をカージュは串刺しにした。

その戦いは風に舞う木の葉が地に落ちるよりも早く終わり、男の敗北となった

「貴様…その剣は!」

血を吐きながら喋る男はその言葉を最後に息絶えた。

そのうち腐花が始まり血の水たまりに赤い花がたくさん咲く、何度見ても人が死んでから腐花になるまでの光景には慣れないものだと俺は思った。

「悪いな…俺はお前を知らないが戦いの中で不意を突かれたことは一度もない」

花に対して言葉を吐いたところで男の声はもうどこからも聞こえてこない、花の色からすればこの花も俺が船で見たものと同じで強い思いを秘めている物だろうと思いながら振り返るとキサラギは俺の後ろで平然としていた。

「大丈夫か?」

「あぁすまない、あまり力にはなれなかった」

「いや、助かったさあの銃弾が当たっていなければ俺は殺されていた」

俺の言葉にキサラギは鼻で笑うと獣の姿になり、背中に乗るように合図送った。

「行くぞ、リサたちと合流しなくては」

「いや、待て」

キサラギを止めると俺は戦った男から咲いた花を一厘手に取りキサラギの背中に乗った。

「カージュ…」

「記憶がないみたいだなお前」

その言葉にキサラギは黙りながらうなずき、俺を急がせる。

「その花の想いは後で聞く、だからお前が持っていてくれ」

「分かった」

二人は森を駆け抜け、リサ達のいる場所を目指すのだった。

カージュとキサラギが戦っていた頃、リサとユリは大きな木造の家に着いていた。

「テト、居るかい?」

「おぉリサ、ユリよく帰ってきたな」

大きな声で喋るのは金髪で大きな体をした男だった。

テトはライオンになることのできる獣人で獣になっても違和感が無いように髪を染めている。

しかし、そんなことよりも私はこの男の性格が少し苦手だった。

「ただいまですの、テト様」

楽しそうに会話をするユリとテトをよそに私は家の中をキョロキョロしながら見ていた。

「それで…電話で話した子ってどこにいるの?」

「おぉこいつなんだがな」

そう言うとテトは服のポケットから写真を取り出した。

「これは…」

その写真には頭の上に黒い花の咲いた犬が写っていた。位置的にはユリと同じところに花があり、大きさはユリに咲いている花と比べても小さいように見えた

「最近里で流行っている現象だ、何か知ってるか?」

「気になるな、見てみたい」

私の言葉にテトは少し顔色を変えた。話を聞くと西の国に占領されている地区の獣人や獣たちは西の兵士に奴隷のように扱われており仕事が遅ければムチ打ちなどの暴力をふるっているらしい、酷いと思ったがその奴隷を殺す方法が少し変わっていることをテトは訴えはじめたのである。

「腐花の花粉を嗅がせるんだ」

歯を食いしばりながらテトはそう言った。

それから奴隷を牢屋に入れて食事を与える。思いや入りのある行動に見えるが、そうして何日かす

ると花が咲いて、やがてそれが体中に広がり死に至るようだった。

テトはその原因を花粉と考えていて、私もその線で間違いないと思った。

「酷い…ですの」

テトの話が全て終わるとユリは涙を流しながら泣いてそんなユリをリサは優しく抱きしめる。

「全く、ユリも大変だと言うのに最近のこの事件と来たら頭が痛いぜ」

今ならなんとなくだが、カージュの気持ちが分かった気がする。世界はこんなにも不平等で理不尽なのだ。そんな世界に生きていて一体何の意味があるのだろう私の頭の中はそんな考えでいっぱいになった。

「あの場所にはあまり行きたくないな」

自分の故郷ではあったが西の兵士たちに占領されている土地で元々住んでいる住人に酷い仕打ちをしている場所だ、そんな場所に行っても悲しくなるだけである。

私たちが頭を悩ませている中、ゆっくりと部屋のドアが開いてカージュの姿が見えた。

「無事だったか、カージュ」

「あぁだが、キサラギが…」

カージュがうつむいて話すとユリが声を上げた。

「殺されたんですの!?」

「違う…キサラギは…」

そう言うとカージュは合理流する前の話を始めた。

森をキサラギと走っている途中、カージュ達は西の兵士たちに囲まれ、絶体絶命の状況だった。

「ち、囲まれたか」

「貴様、キサラギだな」

疑うことなくキサラギの方を見る男は周りの兵士に剣を降ろすように命た。

「そうだ…」

キサラギの言葉を聞くと、男はうなずき話を始めた。

「私はラジェル・バラットと言う…私を見ても何も言わないと言うことはお前は何も覚えていないのだな」

悲しそうな顔をしながらラジェルは語り続けた。

西の国では暴君のごとく兵と民に言葉を吐く王が政権を握っていて、王の言動に不信を抱く者が多く、城の中でひそかに反逆派を結成するようになった

そのリーダーがラジェルであり占領されている領土に派遣されていたらしい。

「ここで会ったのも何かの縁だ、お前に来てほしい」

ラジェルの言葉に同様するキサラギはその場に立っていた。

「どうするんだ?」

「行こうと思う」

キサラギの返事にラジェルは笑うと他の兵を下がらせついてくるように合図を送った。

「カージュすまないな」

俺のなを呼んだキサラギにラジェルは足を止めた。

「カージュ…だと?!」

この男も俺を知っているのかとため息が出たが城に使えていた頃はどれだけの人を斬ってきたか分からない、おそらくこの男も戦場の中で俺を見たことがある人物なのだと悟った。

「ならいい…キサラギ、身に危険を感じたらすぐに俺を殺せ、それとカージュ、キサラギを悪いようにはしない、約束だ」

そう言ってラジェル達はキサラギを連れて去って行ったのだった。

「と言うわけだ」

カージュの事情に納得するとリサは黒い花の話をした。情報が交わって答えは一つになり、カージュ達は占領された領土に向かうことになった。

「テト様!」

勢いよく空いたドアの向こうから船を守っていたレッセルが入ってきた。

「どうした、何かあったのか?」

「西に占領されていた土地の住人が解放されこちらに戻ってきています!」

テトはその言葉に驚き、住人から話を聞くため、ここに残ることとなった。

「キサラギが心配だ、行こう」

カージュとリサはユリの背中に乗って領地への道を走る。

「嫌な予感がするな…」

リサは小さな声で呟き、前を見ているとあっと言う間に領地へ到着した。領地には争いがあったのか何人か人が倒れていて、腐花になっている。

「ここも酷いな…囚われていた人たちは無事のようだが…」

「まずい…カジュ、早くユリから降りて!」

突然のリサの言葉に驚き俺はユリの背中から飛び降りるとそれまで穏やかだったあのユリとは別人と思わせるほどに理性を失ったユリの姿があった。

「リサ!…これは一体」

「ユリは血に敏感なんだ…これほど濃い血の臭いがすると獣は野生に帰ってしまう」

「でもどうする…殺すのか!」

二人は獣となったユリをどうすることもできず、ただユリの攻撃から身を守っていた。

「ユリ…」

リサがどうすることもできない中言葉を呟きカージュの後ろで立っているとユリの体を押し倒し、それを抑える獣が現れ、ボールのような形をした物を顔にめがけ投げた。

二匹の獣は互いの顔がくっつくほど近くにあり、一匹の獣が投げたボールはユリの顔に当たった。

投げられたものは顔に当たった瞬間に破裂し、あたりに花びらが落ちながら甘い香りを漂わせた。

「やめろ、ユリ!」

聞き覚えのある声にリサはほっとしてため息をつくとその場に座り込んだ。

それからしばらくするとユリは徐々に人間の姿に戻りその場に倒れて、それを確認すると戦っていた獣もその姿を人間へと変えた。

「何とかなったか…」

「キサラギ…大丈夫だったか?」

「あぁ…少し思い出したんだ…自分の事を」

そう言うとキサラギは気絶したユリを背中に背負いながらついてくるようにと俺たちを呼ぶと洞窟に案内された。

俺たちがここに来るまでにキサラギはラジェル達と共に戦いながら囚われた奴隷を解放して、リサを呼びに行くところだったと言う。洞窟の中にも戦いで敗れた者の血とその腐花が散らばっていて、気味が悪かった。

そこに咲いている花はどれも色が黒く、その花からは白い花粉が出ている。

「その花が奴隷にされた者に咲いた花だ」

悲しそうに話すキサラギの目からは少し涙が零れていた。

「この花は…調べる必要があるな」

キサラギと同様に悲しそうにうつむくと花を一厘手に取った。

「気味の悪い花だな」

「この花も思いを聞いてみれば分かるさ、行こうカジュ」

何も言わす俺はリサと共に洞窟を出ようとした時、キサラギはその足を止め口を開いた

リサ…ユリを頼む、俺はこのまま西に行こうと思うんだ」












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