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青の涙  作者: 刹那氷
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第3章-心の種-

一息つく間もなく飛んでいる船の中でもただひたすらにリサの説明は続いた。

「花についてもまだまだ話足りないがこれは今後使うものだから覚えておくといい、首に下げている通信機の事だ」

そう言ってリサは俺の首に下がっている通信機を指指した。これは特殊な花を素材として作られたペンダントでキサラギを探した時、俺の言葉がリサに届かなかったのはこの通信機の親機に所有する者の証を注ぐことで、初めて使えるようになるらしい。

「少し待っていてくれ」

そう言ってリサは船室の中に入って行った。待っている間俺は見る物もなく何気なくユリを見ていた

「リサ様は通信機の親を取に行ったんですの」

「そうなのか…聞いてもいいか?」

ユリは不思議そうな顔をしていたが俺は花の事を気にする一方で獣人についても気になっていたのだそれをユリに尋ねると説明を始めた。

世界には人間以外にも様々な容姿をした人が居る。狼の姿をしたもの、犬の姿をした者もいれば龍になることのできる者もいるらしい、一般的には獣から人になれる者を獣人と呼んでいてその容姿を自在に変えられる事が出来るのは極稀に存在しユリやキサラギはそれに当てはまるようだった。

「獣人に関してはこれぐらいの説明ですの」

そうしていると船室の扉が開きリサが出てきた手に片手で持てる大きさの花瓶を持っていた。

「ここに…そうだな髪の毛でいいから入れてみてよ」

「髪の毛?」

「それが仲間の証になるですの」

通信機には仲間である認証が必要で認証したい相手の証をリサの持つ花瓶に入れる必要がありそうする事で東の国で使っていた通信機に認められるとユリは言った。

言われるがまま俺はリサの持つ花瓶に髪の毛を入れると中から少し見える青い花が光ったような気がした。

「髪の毛でいいのか?」

「髪の毛はさほど重要じゃない大事なのはそれに付いた指紋さ」

俺が自分で触った髪の毛に付いた指紋は俺にしか無い証で通信機に認証させる素材としては充分だった。

「よし、これで君は正式に花に認められたよカジュ」

リサは嬉しそうな顔をして笑うと花瓶を片付けに部屋へ戻って行った。

「カジュ様も空いた時間に部屋を見学するといいですの」

「あぁそれよりさっきから顔色が悪そうだが大丈夫か?」

リサが俺にいろいろな説明をしている時からユリはそれを隠すようにふるまっていた今のユリの顔が赤く立っているのも辛そうな表情で俺を見ていた。

「少し…休んでくるですの」

俺の隣から立ち去ろうとしたユリは熱に耐えきれなくなったのか倒れてしまった。

「ユリ!」

薄れて行くユリの意識の中でカージュはユリの名前を呼び続けたがそれに答えることなく目を閉じた。

すぐにリサを呼ぶとリサは少し焦った表情をしてぬれた手でユリの鼻を触った。

するとそれまで生えていた耳がゆっくりと隠れて顔が人間になって行く様子に俺は呆然としていた。

「カジュ、とりあえずユリを人間の状態にしてここから部屋に運ぶから君は適当な部屋で休んでいてくれ」

「だが…俺がもっと早く気づいていればこんなことには」

「君にできることはまだ何もない…ここは私に任せてよ」

耳からかすかに聞こえた二人の声が心地よく、私は意識を失っているにも関わらず何故か安心した。

こんなに安心できるようになったのはいつからだろうそう思いながらユリは完全に意識を失い夢へ吸い込まれて行った。

それは春の暖かい陽気の中、悲しく泣いていたあの日のことで船で休む時にいつもその日の出来事が私の頭に浮かんできていて、とても怖かった。

「こいつ、耳がはえてるぞ!気持ち悪い」

そう言われ続けて私はいつも誰も居ない場所で花を見ながら泣いていた。花を見ると何故か心が落ち着いて、けれど私の心の悲しみは深まって行くばかりだった。

人間をやめてしばらく狼となって群れの一因になり、家族が出来たと安心すると今度は人間になっているところを仲間に見られて襲われてしまう、"私の居場所はどこにあるんだろう"気が付けばそんな事を毎日考えていた。

「よう、ユリ今日も笑顔が可愛いなぁお前は」

懐かしい私を呼んでいる男の人の声が何度も聞こえた。

「ん…」

意識を取り戻して目を開けると船室のベットの上にユリは横になっていた。

「気が付いた?ユリ」

私の顔を見るリサ様はいつも笑顔で心配そうに私に接してくれていた。この人と出会ったのは私が狼と人間の両方の姿を受け入れ初めてすぐの事だった。

「リサ様…私は」

「気絶してたのよカジュが知らせてくれなきゃもっと大事になってたかも知れなかった」

そう言ってリサはホッっとため息をつくとユリに少し暖かいお茶を渡した。そのお茶を勢いよく飲むとユリは不安そうな表情をしながらリサに聞いた。

「それでこれの様子は…」

「あぁそれか変わりはないわ熱が影響したんじゃないかと思っていたけれど単なる風邪ね」

「そうですか…」

二人で話をしていると部屋のドアを叩く音が聞こえた。

「リサ…ユリの様子はどうだ?」

「あぁ入って良いぞカジュ」

その言葉を聞くとユリは急いで獣の姿に戻ろうとするがそれをリサが止めた。抵抗するユリにリサは優しく問いかける。

「大丈夫よ彼ならあなたを見ても嫌いにはならないわ」

ユリは不安そうな顔をしながら獣の姿になるのをやめた。自分の姿を受け入れている覚悟をユリはその言葉で決めたのである。

扉はゆっくりと開きそこにあるものがカージュの視界に飛び込んできた。薄いオレンジ色の神をした女性その頭の右側頭部には少し大きな白い花が生えていたのである。

「まさか…ユリなのか?」

「はいですの…カージュ様」

ユリの人間の姿に思わず驚いてしまったが、それをよそにリサは口を開いた。

「予想通り驚いたな」

そう言うとリサは獣人についての説明を始める。獣人は元々人間で己の身を守るために獣になる事を覚えた種族でその仕組みやどう誕生したのかは自分の専門分野ではないらしいが世の中には獣人を研究する学者も少なくはないとリサは語った。リサがユリと出会った時には、ユリの頭にある花は右目を少し隠す程度まで成長していたようだが、その花の大きさもだんだん小さくなってきていて今ではコサージュのようにも見える。

「リサ…まさかこのユリの花は」

嫌な予感がした、この花もリサの研究している腐花(ふか)ならいったいなぜその花がユリに咲いているのかとても気になった。

「そうこの花は腐花(ふか)の一種さ」

その花がいつからユリにあるのかも分からずなぜできたのかも分からない、けれどやはり人が抱える悩みと同じで大きくもなれば小さくもなる花もそれに比例しているのさとリサは言った。

俺は再びユリの顔を見ると、こちらを向きながら時々うつむいていた。

「怖くないですか?私」

「そんなことは無いさむしろキサラギの方が怖かったかもな」

ユリはくすくすと笑いながらかわいらしい笑顔を見せてその笑顔を見るとリサも安心したのか同じように笑っていた。

「それじゃぁ私はキサラギの様子を見て来るよ」

リサが部屋を出て行くと俺とユリはその場に取り残されていて、ユリの本当の姿を知ってから俺はなんと言葉をかけていいのか分からずまだ驚いたままだった。

「船が向かっている場所は私とリサ様の故郷なのですの」

「そうか南の国には行ったことが無いから楽しみだよ」

ユリはまた俺に笑顔を見せた。このかわいらしい笑顔を見ているとそれまでしていた心配もなくなった。しかし、このユリの頭に咲いている花はいったい何が原因で咲いたのだろうと俺はまた考えていた。

「ユリ、その花は気にならないのか?」

「気にならないと言えば嘘になりますがもしこの花が落ちても消したくはないですの」

「それはなぜだい?」

「この花には私の分からない大切なものが宿っている気がするから取れてもずっと大切にして行きたいですの」

そう言ってまたユリは笑った。俺もいつかこんな風に笑える日が来るだろうかそんな事を思いながらユリを見ていると船は地上に到着し、首にしている通信機からリサの声が聞こえた。

「着いたぞ二人とも」

南の国は獣人の国と聞いていたが俺にとってそこは初めて訪れる地で土地勘も無ければ気候も分からないだからこそこの旅にも少しずつ慣れてきたと俺は感じていた。

「次はどんな花が待っているんだろうな」

「カージュ様はここに来てよかったと思っていますか?」

そう聞かれた時、俺は言葉を詰まらせたが気づけばいつも考えているのはあの少女の事でここに来た時に聞いたあの男の花の事を振り返りながらユリに俺は言った。

「お前のその花の思いもいつか自分で聞けるようになるといいな」

「はいですの!」

こっちを見てまた微笑むユリを俺は見て共に部屋を出たのだった。


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