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青の涙  作者: 刹那氷
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第2章-東の王と赤い花-

 長い赤毛の髪の女は町にいた俺を見て声をかけた。

「君、私の花屋に来ないかい?」

「なんで俺が…」

あの出来事から数年の時が経っても俺はそれを忘れられずにいた。

あれからしばらくして戦況は落ち着いていたが暖かくなっても相変わらずこの国では貧困と飢え、疫病に苦しむ人たちであふれていた。

冬が終わり春になっても俺はこの場所に来てまたリンの事を思い出していた。

「君は人が花になる瞬間を見たことがあるだろ?」

目の前の女性にそれを聞かれた時俺は少し同様してしまった

「分かるのか?」

「女の勘さそれで…来るのか?」

女の言葉を聞いてから俺は少し考えた。

数年前は戦争の恐怖から逃げ生きるためなら犯罪すら犯してきたそんな人生だった。

 これからもそんな人生を送るとなるととても切なくなった。花を見て死を理解しその花を俺もまたその花を踏み、通り過ぎてしまうこともある。

そんな人生のどこに暖かさがあるのだろうかならこの女の下で働いてみるのも悪くはないとそう思った。

女の素性はまだ分からないただ正直な所俺はこんな虚しいだけの日々から逃げたかったのだ。

「俺で良ければ構わないぞ」

「聞かないのか?いろいろ」

「俺が聞かずとも話すんだろ?」

俺がそういうと彼女は嬉しそうな顔をして話始めた

「私の名前はリサと言う」

 彼女はこの国で人の死について研究をしながら未だこの国で起こっている戦争を終わらせるためひそかにこの国の王と繋がっている者らしい

俺もとりあえず名を名乗ると彼女は首を縦に振って分かったようなしぐさを見せた。

「ではこれから君をカジュと呼ぶことにする早速だけどひとつ頼まれてくれないか?」

そう言って彼女は俺に一厘の花が入った首飾りを渡してきた

「これも死体なのか?」

「いや、これは違う、ちょっとした通信機のようなものだよ」

「こんな物が?」

「まぁ時期にわかるさ詳しいことはまた後で説明する」

訳も分からず俺は彼女に言われるまま話を聞いた。

どうやらこの町から少し行った先に王都がありそこに自分の仲間がいるらしく、時間が経っても戻って来ないので様子を見に行くところだったがそこで俺を見かけたようだった。

偶然にしてはあまりにも不思議な出会いである

「それで、俺に様子を見て来いと?」

「そう言う事さまぁその花を見たら警戒して飛び掛かってくるような奴だから気をつけた方がいい」

 彼女はその言葉を残してその場を去っていった。

王都からは俺の居る町からそう遠くなかったため俺は一度あの家に戻ってリンの花を見つめた。

あの時から今までここで生活をして来たがここにはもう戻って来られないそんな気がしたのだ。

だから俺はその花を手に取り身に着けていた袋にその花を閉まった。

「ごめんな…」

誰にも聞こえない聴いてもらえない俺の声を俺は呟いた。

ここにこの花を置いていけば多分俺は今の自分を一生後悔するそんな気がした。

 家を出て少し歩くと王都に到着した辺りは城の兵士と歩いている人々の姿があった。

「ん?」

首に下げていた首飾りが青く光るとそこからリサの声が聞こえてきた

「王都に着いたかいカジュ?」

「あぁ仲間の特徴を教えてくれ」

「名前はキサラギと言うんだ」

(けもの)になっている時は灰色の毛、人間の時は黒い髪で青い目をしている

その特徴を聴いても俺は獣人(じゅうじん)と言う生物を知らなかったからすぐには理解できなかった

「分かった、どの辺りに居るか分かるか?」

「残念ながら君の声はこちらには聞こえてこないんだ」

「誰に話している…リサ」

リサの声とは別に若い男の声が聞こえてきた

「今どこにいるんだキサラギ」

しばらくリサとキサラギの会話が続いていると俺の前に人盛りが出来て

いるのが見えた近寄ってみると人と人との隙間から倒れている兵士の姿が見えた。

 血痕などは無かったが着ている鎧の隙間からは花が見えていた

「おい…こいつ」

「いや、でも」

辺りの人からは不安の声があふれていた近くにいた人に話を聞くと死んでいるのはここから見える城の王に使える有名な剣士の家臣だったらしいしかしその死に方には不自然な点がいくつかあった。

俺が事情を聴いている男は今までずっとその場にいたが剣士の男は突然倒れてその後、白い花が咲いた後で赤く光花が赤く染まったと男は語った。

「そうか…ありがとう」

俺が男に礼を言うと男はその場を震えながら去って行った。

何故この男は突然死んだのだろう

花になって行く死体を見ながら俺は少し考えた他人の死に興味を持ったところで意味もないし、気持ちが悪くなるだけなのに

ただその死体に咲く花はとても綺麗でそれを見るたび俺はあの時の不思議な感覚に襲われていた。

「動くな…」

少し視線をそらすと俺の頭には冷たい銃口が向けられていた

俺が動けばこいつは何のためらいもなく撃ってくるそんな気がした

「それはリサの通信機だ…さっき話していたのは」

「と言うことはお前がキサラギか…俺はあいつに雇われたただの傭兵さ」

 俺の言葉を信じたのかゆっくりと俺の頭から銃口が離れて行った。

そして俺が振り返るとそこには俺と同じ首飾りをした男が立っていてその俺を見る瞳は青く冷たいような気がした。

「死の臭いがしたんだだからここに来た」

「人が死んだことが分かるのか?」

「あぁこの鼻はそういうためにある」

暗い表情をしながらキサラギは死体に咲いている花を見るとそこに近寄り花を少しとった。

「兵士が来ないうちにここから離れよう」

キサラギはその場を去ろうとしたがカージュの足はそこで止まった

「おい、何してる!」

城の兵士が遺体を発見してこちらに近づいてくるのが見えたキサラギは少し焦っている様子だったがカージュは冷静を保ったままその場から動かなかった。

「キサラギ…後で合流する場所を教えてくれ」

「だがこのままではお前は何をされるか分からないぞ?」

「構わない」

 俺がそういうとキサラギはリサの居る場所を俺に伝えて花をくわえてその場を獣の姿になって去って行った。

その姿はまるで風のようでしかしどこかに寂しさを感じさせていた。

キサラギと別れてから俺は兵士に拘束され城に入ってからすぐさま牢屋に入れられた。

「これで…良かったんだ」

暗い牢獄の中でカージュは呟いた音もないその牢獄は何もなかった彼にぴったりの場所だと彼は悟っていた。

しかし、彼が牢の中でうずくまっているとその扉が開き兵士がやってきた。

「王様がお呼びだ…来い」

手を縛られたまま俺は兵士に引っ張られて王座の間へと連れて行かれた

そこには青い目をした黒髪の若い王の姿があった。

「王様、つれて参りました!」

「ご苦労、さがって良いぞ」

王の前に立ったが俺はその顔を見ること無くそのまま下を向いていた。

「顔をあげる気はないか…」

王の言葉に俺をここまで連れてきた兵士は俺の近くによって顔をあげようとしたがその手を王は止めた。

「まぁいいお前はリサの知り合いのようだな」

そう言うと王は城下で死んだ家臣の話を始めた。男は病死による突然死との報告をリサから受けていると言うと王は男の持っていた剣を取り出したその剣は紅に輝き宝剣の風格を出していた。

「この剣をお前に授ける受け取るがいい」

「リュース様!こんな無礼者にその剣を授けるのですか!」

「いいのだフェズ早くその者に授けよ」

フェズと言う男は嫌な顔をしながらも剣を俺に差し出しそれを受け取ると王の顔が不意に見えた。その王の顔は何か納得したかのようにうっすら笑っていた。

「ありがとう…ございます」

「次は前を向いて話したいものだな」

 王がそういうとゆっくりと王座の間の扉が開いた。扉の前に立つ茶色い毛をした狼はカージュの方を見てキョロキョロしている。

「心配ない、その者はリサの使いだ」

「迎えに来ましたカージュ様、リサ様が怒っていましたよ?」

この笑いながら俺に話す狼もやはり獣人なのだろうそれを理解すると俺は狼の頭を優しく撫でた。

「悪かったな…」

「私に乗ってください行きましょう」

うなずき大座の間から出ると俺は後ろで王がまた笑っているのを感じた

その表情はとても嬉しそうだったが何かを企むようなきみの悪い笑顔が扉の閉まる瞬間に見えた。

それから少し歩いて城を出てから俺は獣の背中に乗ると狼はゆっくりと走り始めた。

「私はユリ・ツペールと言いますユリと呼んでくださいな」

かわいらしいその声は何故か俺を安心させた。

時々ユリは走る速度を上げて次第に王都も見えなくなり船に似たような形の建物が見えた。

「あそこが私たちの拠点です」

建物の前に着くとユリはその足を止めて俺を降ろした。

建物を見るとドアの周りには花がつけられているその花はリンの残した花によく似ていた。

「なぁユリ…もしかしてこれは」

「はい、そうですこのドアや建物の周りにつけられている花は全て遺体から取った花なのですよ」

 ユリはうつむきながらカージュの思った言葉を口にした。

そのままユリが扉を開けると中には少し長く暗い通路が続いていた。

時々その通路の奥から冷たい風が吹き抜けてくるこの先にはどんなことが待っているのだろう俺は少し恐怖を感じていた。

通路の奥に明るい光が灯っているドアがありそのドアをまたユリは開けた。

「リサ様、連れてきましたよ」

さっきまでのユリの声とは違い城でカージュを迎えに来た時と同じように明るくなっていた。

「ありがとうユリ…さて」

俺を見るリサの表情は笑顔だったがその裏に俺は少しの殺意を感じていた。

俺は謝り少し部屋の中を見渡すと鉢に入れられた花束がいくつもあった

その花はどれも白くけれど形が違う花が陳列されていて横には机と大量の本と奥に三つの部屋があった。

「いろいろあったそうだな王から話は聞いているよまずは君にいろいろ説明しなくてはならないね」

そう言うとリサは俺に説明を始めた。

まずはこの部屋にある花についてだったがここにある花は全て死んだ人間の物らしく人が死んで花になることをリサは腐花(ふか) と呼んでいるらしい

腐花は人間だけに起こり、その色は主に白く花束となって終わる。

腐花を止めるのにはその命をつなぐしかないが止められるまでの期限は最高でも一時間が限界らしい。

「だがこのような花もある」

そう言ってリサは赤い花を取り出したそれはあの城で見た兵士に咲いていた花だった。

白以外の色をした花には死んでもなおその人に残る思いがあるとリサは真剣な顔で語った。

「人は花になっても生きていると言うのか?」

「そうだ、信じられないがもしれないがねこの花には特別に強い思いがある」

するとリサは部屋の奥にあった扉を見つめていた扉はすぐに開きそこからキサラギが出てきた。キサラギは青い液体の入った試験管と土の入った小さな鉢植えを持っていて何も言わぬままそれをリサにわたした。

「丁度いい、これからその思いを引き出して花を白くする」

「そんな事をしていいのか?」

「花にもいろんな色があるがあまりよくない色だからな誰もそれを聞かないなら私が代わりにそれを聞くと言うだけの事さ」

その花の思いを自分が聞いても花にとってはただ無理矢理に思いを聞かれたとしか感じないし、かと言って花の言葉は自分に全く関係のないことがほとんどだが私が花から学ぶことは多いよとリサは寂しそうに語った。

「聞かせてくれ…俺にも」

「どうした?初めは嫌そうにしていたのに」

「俺はこの花の咲いた兵士を知っている…だからだ」

「そうだったのか…」

カージュの言葉にキサラギと同様ユリも驚きを隠せなかったようだがリサはその場にいた全員の顔を見た後で机に積み重なる本をどかして鉢に赤い花を植えた。

「では聞こうか、この花の思いを」

 するとリサは青い液体を花に注いだ。それはまるで青い涙を花が流しているように見えた。

俺は目を閉じ、花から聞こえて来る声に耳を傾ける。

「この男を城から追放する」

「何故ですか王様!何故私ではなくカージュを」

聞こえてきたのは城であった王とその家臣たちのざわつく声と怒声を上げた声おそらくこれがあの兵士の声である。

「今はこうすることでしか自分を正当化できぬのだ許してくれ」

「なら作戦の提案をした私も同罪です牢にでも入れてください」

「よかろう…許せよ」

扉が開き他の兵士に連れられて行かれる様子が頭に浮かんだ。

「カージュ…」

その切ない声を最後に花から聞こえていた声は聞こえ無くなり目を開けると赤い花はゆっくりと白く変色して砕けた。

「砕けた?!」

「その花は君に思いを伝えたかったのさ」

 そう呟いてからリサはまた語り始めた。花はその思いを伝えると砕けるがそれは本当に思いが伝えたい者に伝わった時だけで他の花は時間が経てば消えて行くだが、その花が消える時間は自分にも分からない。

人が考える悩みもこの花たちと同じなのかもしれないとカージュは思った。

「城に居た時のことはまだ聞かない方がいいのだろ?」

「あぁ…傭兵をやる前はあの王に使えていた、今はそれだけしか話せない」

「そうか…まぁいいさどうだそれでもまだ君はここに居るかい?」

「居させてくれ…自分のために」

俺の言葉を聞くとみんなは笑った。

「そうか、よろしくねカジュ」

「よろしくなのですカージュ様」

キサラギは何も言わぬままうっすらと笑っていた。

一つの事が終わり、安心したのもつかの間で部屋に置いてあった黒い電話がうるさくなるとリサはそれを取った。

「もしもし?」

電話を取ってすぐリサは大きなため息をついた。

「私は医者じゃないんだけどな…分かったよ」

そう言ってゆっくりと電話を置いた。

「みんな、南の国に行くよお願いユリ」

ユリはうなずき壁際にあるスイッチを押した瞬間地面が揺れだし足が宙に浮く感覚がした辺りを見るとキサラギの姿はなくまた部屋に入ったようだ。

「キサラギはこの船の操縦をしているよ」

「これから向かう国はどんな所なんだ?」

「獣人の国さ」

俺たちを乗せた船は南に進路を向け飛び立ったのだった。








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