しいて言うなら内気です
・BL表記しておりますが、がっつりBLではございません。
・後半、小学生的な下ネタ入ります、ので苦手な方はお気をつけください。
青い空、緑深い山々、おいしい空気、そしてぷりっぷりのかわいい野菜達!
おはよう世界!今日も美しく輝いてるネ!!
みんな!今日も僕は元気です!!
こっちに住むようになってから、心の中での独り言が増えました。
だってつっこみどころ満載なんだもん☆
あ、ちなみに見渡す限りに山、山、山!のこの場所で、「なになに?田舎暮らし始めたの?」とお思いのあなた!惜しいけど違う!!
正解は「異世界暮らし始めました!!」でした☆
ほらね☆テンション高めにつっこんでいかなきゃ頭の固い成人男性のハートはブレイクしちゃうでしょ!
そんな訳で、僕の頭がおかしくなってないかの確認作業を含めて、ここまでの思い出を走馬灯のように振り返ろうと思います☆
あれは忘れもしない28歳の春。
青春の全てを勉強に費やし、その結果入社できた銀行で働いていた僕。
不況と職場のどろっどろの人間関係と、上司のパワハラに悩まされる毎日でした。
もともと引っ込み思案で気の小さかった僕は悪循環だと分かりながらも当時付き合っていた彼女の社内での二股が発覚したのをきっかけに会社を休みがちに。
そんな折に、最愛の両親が事故死。
心の弱い僕はとうとう、引きこもりになりました。
引きこもったところで特に趣味のない僕は、酒びたりの毎日で現実から目をそらして生活していた。
ある日いつもより心がふわふわしていた僕は、このままじゃいけない!と思って病院から処方されていた抗鬱剤を飲んでみたり、やっぱりだめだ!とお酒を飲んだり、恐くて眠れナイト☆と睡眠薬を飲んでみる、などというよく考るとやばいだろ、というチャンポンをしまくった結果、泡吹いて気絶。
次に気がついた時は、異世界でした。
いや~ほんとうにびっくりしたね。
人間て泡ふけるんだ、蟹みたいに。と、いうことよりも、目開けたら金髪碧眼の超美形がいることに驚きました。
あ、天使?ここ天国?て思ったけど全然現実でした。
異世界だけど。
でもまぁ、金髪美形は天使ではないにせよ、天使みたいにいいやつでした。
行き倒れていた僕を介抱してくれただけではなく、行くあてもなくこの世界の常識も全然分からなかった僕を拾っていろいろ教えこんでくれました。なんて優しい。
当初僕はとうとうアルコールが脳みそまで回ったか…と思って、現実を受け入れていなかったんだけど、薬もアルコールもなーーーーーーーーんにもないっ!ところでしばらく生活していましたら、さすがに現実見えてきました。
だって、金髪美形ったら、「今日の晩ご飯」て言ってコモドドラゴンより大きい羽根の生えた、大きい爬虫類お土産に持って帰ってくるんだよ!?夜暗くなって、ろうそくじゃ暗いな~と思ってたら「暗くてお前の顔が見えない」て言って手のひらに不思議な光を灯すんだよ!?乗り物、って言ってエイリアンみたいな甲殻類を馬代わりに使っているんだよ!?
さすがに察するわ!!!
そんな訳で、異世界暮らしなう、です。
なんだけど、実はホームシックはゼロ!
ゼ~ロ~(ニュース番組風に)。
まあ、普通だったら、泣いたりわめいたり半狂乱になるんでしょうけど、もともと僕は前の世界でも半分アレな感じになってたからネ☆現実みたくなくて、現実から目をそらしてたら異世界なんだから、自分でも現実逃避の才能あるな、と思いました。
それで酒が抜けて鬱症状もなくなり頭がすっきりする頃にはこっちの世界に馴染んでました。
というより、こっちの世界のほうが体にあってるみたい。
清浄な空気に、美味しい水。輝く緑に囲まれて、朝日と同時に目覚めて、日が暮れると眠る生活。
毎日の仕事は家事と畑仕事、そして家畜の世話。
夕方になってへろへろになりながらも晩ご飯の支度をして、気の合う同居人(金髪美形)の帰りを待ってその日あったことを楽しく報告しあいながらの晩ご飯。お腹がいっぱいになったら近くに湧いている温泉に金髪美形と一緒に入り、満点の星空を見上げる…。
ビバ!スローライフ!!田舎暮らし最高!!!
生粋の都会っ子でもやしッ子の僕にはこんな生活無理だろ!と思ってましたけど全然あってました。
なんていうか、都会の人のペースにあってなかったんだね僕、と時々過去の自分を振り返ってしんみりしてみたりもしましたが。
そんなダメダメな僕がですが、こっちの生活が体に合い過ぎて、慢性的に肥満だったポニョ腹が腹筋が割れるまでに急成長☆ヘルシー&ミネラルたっぷりな手料理のおかげで顔のぶつぶつも治っちゃったし☆
僕☆絶好調~!
人生で初めての痩せと、ノーニキビ顔を体感して、今の自分いけてるんじゃね?と思ったんだけど、このド田舎の異世界には鏡がないのでセルフチェックできず断念。金髪美形に「僕、いけてる?」と調子のってきこうと思ったけど、奴のあまりのイケメンさに我に返りました。
いや、だってこの人王子様みたいなんだもん、見た目。
まぁ、そんな訳で僕、人生で一番輝いています。
以上、ハードな事情をリリカルに語ってみました☆
そんな波瀾万丈な僕ですが、こちらの世界で趣味もできました。
あの無趣味で社交的でもなく活発でもなく、人生なにが楽しいの?みたいな僕に趣味が!
それは料理!
え?なになに異世界関係ない?趣味というか生活の一部じゃん?だって?そんなの楽しいから気にしない☆
僕の料理は素材作りから始まる。
こう言うと通の料理人ぽくてかっこいいけど、実際は自給自足なだけ。
金髪美形は森の中にある一軒家に一人で暮らしをしていて、周りにはお店どころかお隣さんすらいない。
近くに村とか町はないの?てきいたら真顔で「すっごーーーーーーーーーーーーーく遠い」と言われてなんだかいろいろあきらめました。なので必然的に毎日の糧は自給自足です。
現在僕は、金髪美形に畑を任されている。
元々、金髪美形はきままな一人暮らしで、一人で生活する分には森で適当にその日の食材をむしりとる(ワイルド)等して暮らしていたため畑はおざなりだったのだが僕が住むようになり、人数が増えた分しっかりとした食材供給が必要ということで、本職のお仕事がある金髪美形のかわりに僕が畑を任されるようになったのだ。
畑初心者の都会派(脱落組)の僕に畑なんてできるの!?と思ったけど意外とできましたよ。
元々の土壌がいいのか、すくすくとぷりっぷりのつやっつやの野菜達が育ちましたよ。
初収穫のトマトモドキを生で丸かじりした時の感動と言ったら…!!
これが充実野菜…!否、充実野菜生活!!
以来、畑仕事が楽しくて畑拡張の日々。金髪美形にも森から珍しい植物を持って帰ってきてもらったりとけっこう熱心にやっています。
そんな僕が丹誠こめて作ってまずい訳のない野菜でのご飯作り。
最高です。
もともと前の世界では料理なんてほとんどしていなかったので、レシピなんて全然知りません。
焼く・煮る・蒸す・揚げる、くらいの単純なことにちょっとした試行錯誤を加える毎日です。
ちなみに昨日の晩ご飯は森キノコの内蔵(キノコになぜか内蔵がある。味は牡蠣みたいでウマー)を庭で穫れた野菜とニンニクモドキと一緒に花油で煮込んだモノに、金髪美形が穫ってきたコモドドラゴンモドキの香草焼、パンの実をユキちゃんのチーズ(ユキちゃんは金髪美形が飼ってる家畜の子供で、この子が乳を吸ったあと吐き出す固まりがチーズみたいになっている)と一緒に蒸したもの。そしてこれまた僕の畑で穫れたシャキシャキ玉葱モドキサラダ。
どうだ!とてもアラサー独身男性とは思えない充実な食卓だろう!
当然、僕はこちらの食材は扱いなれていないので、食べれるだろう食物を適当に組み合わせて適当に味付けする。
なのに、その味はどこの高級料亭!?というくらい上品で美味しい。
まぁ、最初は僕に隠れた才能が…!?と思ったけど、実際は素材の力が大きい気がする。
こちらの世界の野菜は形も悪く、小ぶりでやや貧弱なのだがその分味が濃厚で美味しい。
塩もミネラル?的なものが豊富なのか、塩を湯に入れるだけでお吸い物のような芳醇な味わいになる。う~ん化学調味料いらず。
とはいえ同居人が毎日おいしいおいしいと、クールな見た目なのに頬を赤らめて興奮しながらほめてくれるので、僕もまんざらでもなくすっかり料理が趣味となっています。
そんな訳で、スーパーチキンボーイな僕でしたが、今ではどんな生き物も料理の為なら、剥けます、むしれます、バラせます☆
さて、本日の晩ご飯は川魚とキノコの天ぷらに、山菜の酢漬け、野菜たっぷりお味噌汁、山菜の炊き込みご飯と和食テイストでございます。
この家にはけっこう醗酵系調味料(自家製らしい)がたくさんあり、あまり日本の味が恋しい!とかはなりません。米もあるしね。(ただしザクロみたいに実になっている)
金髪美形は和食の味が珍しいらしく、作るととても喜んでくれるので割とよく作ります。
ちなみに彼に食事を作ってもらったら、酸味が強い&オイルを多用する味つけでした。
美味しいんだけど、あ~外国きたなって感じのお味です。異国じゃなくて異界だけど。
さてそろそろ天ぷらでも揚げようか…と思っていたところに金髪美形が帰ってきた。
「もどったぞ。ニーム!」
ドアを開けるなり、僕に駆け寄り抱きつく金髪美形。よしよし、落ち着け。お前は欠食児童か。そんなに晩ご飯が嬉しいか。
ちなみに「ニーム」という子供用おむつにありそうなこの呼び名は僕のことらしい。
なんだか金髪美形の国では親しい人の事をさすらしい。まぁ、一つ屋根の下に住んで胃袋握っているから当然か。
「おかえり~。ちょうどいいところに帰ってきたね。今から天ぷら揚げるのからもう少しだけまっててね」
「わかったニーム。?なんだか蒸し器から良いにおいがするな…米を蒸していたのではないのか?」
「ふふふ…今日は炊き込みご飯にしてみました。僕が住んでいたところの料理でご飯と出汁と具を入れて一緒に炊くんだよ。」
米の実の場合は実を割って中身を少し取り出し、代わりに具と出汁を入れて皮ごと蒸した。僕はこういうちまちました工夫が大好きなので仕上がりがとても楽しみだ。
「炊き込みご飯か…うまそうだな…」
こらイケメン。よだれが垂れて残念な感じになってるぞ。
みっともないので、布巾でぬぐってやると、金髪美形が照れたようにニコッと笑う。
よしよし。ついでに顔も洗ってこいよ。
「今日はいつもより遅かったね。」
「帰り際にうるさいのに捕まって撒くのに時間がかかった。」
僕は金髪美形がなんの仕事をしているのか聞いた事がない。
異世界の職種なんて聞いたところでよく分からないと思うからだ。
ただ、毎日よくわからないおいしい肉や変な食材を持って帰ってきてくれるし、こんな森の中に一人で住んでいるくらいなので多分狩人かなにかなのだろうと勝手に思っている。
おそらく今日も何か森の獣にでも遭遇していたのだろう。
そんなことより天ぷらだ。天ぷらは試行錯誤の結果、油に叩き付けるように入れればかなりさっくり仕上がると判明したのだが、当然油が跳ねてくるのでちょっと恐くて腰が引けてしまう。
「なんだニーム?天ぷらが恐いのか?揚げてやろうか?」
「え?本当?助かる!ありがとう!!」
金髪美形は天ぷらを揚げるのがうまい。
以前夕食作りを手伝ってくれた時に作り方を教えたのだが川に小石でも投げるかのように激しくなげつつも、はね返る油にもビビらないので、密かに尊敬したものだ。ちなみに、その時の具材は山菜と木の実の新芽でした。木の芽は百合根みたいな味でこれも美味しかったです。
金髪美形が直立不動のまま天ぷらを油に投げつけている間に、残りのメニューも仕上げ、盛りつけてテーブルに並べていく。
そして、天ぷらも揚げ終わり、炊き込みご飯がほこほこと湯気をたて、さぁ食べようかと、というところで思わぬ来客が襲来した。
「おう!傭兵!!!とうとう2人の愛の巣見つけたぞ~!!!観念して恋人を見せろ!!」
ドアを蹴破って入ってきたのは、金髪美形よりさらに上背のあるこれまたワイルドな金髪美形だった。
「げっ陛下!しつこいですね!!まさか後をつけてたんですか?」
ここは美形の国なんだろうか?
なんかイケメンすぎて、顔の見分けがつかない…僕ってハリウッド映画みてても外人の顔の区別がつかず話がわかんなくなっちゃうんだよね~。
「ふん!そんなせこい真似するか!神官長に占ってもらったんじゃよ!」
ばーんて感じで陛下さんが手を広げた先には白いマントをきた銀髪のイケメンが。
やっぱり美形の国か!
「下世話な事になに神の力借りてるんですか。暇なんですか?それともバカなんですか?」
今、占いっていったけど、その神官長さんが両手に持ってる虫の触覚みたいな鉄の棒てダウジングの棒じゃ…?神聖な力っていうか、ミステリーハンターっぽいんですけど。ありがたみゼロですね。
「馬鹿野郎!!王様なんて仕事はな~心労の多い仕事なんだよ!忙しい合間をぬっての娯楽は権力と金に物を言わせて全力で楽しむんだよ!!!」
娯楽が部下いじりって安上がりなんだろうけど、上司からパワハラ受けてた身としては笑えないな~。
「だって今、都で話題の『最も抱かれたいイイ男』の〈傭兵王〉が契約が終わる度に女遊びにも付き合わないで真っ先にアジトに帰ったり、鉄面皮で通ってるくせにしょっちゅうニマニマしてたり、なぜか手作り弁当持ってきてるし…てなると気になるじゃん!ていうか余は気になる! 絶対女いるだろ!ていうほうにがっちり賭けたんだから、自分で確かめたいっておもうじゃん!」
なんか今、日本の赤文字雑誌に書かれていそうな頭の悪そうなキャッチコピーが聞こえた気が…。
つうか金髪美形は傭兵さんだったのね。どうりで体つきがいいわけだー。まぁ、傭兵てきいてもやっぱりファンタジーすぎて仕事内容とか全然想像つかないけど。
「それよりその後ろに隠してるのが恋人なんだろ?」
そう言って陛下さんは僕の腕を引っ張った。
陛下さん…残念ながら金髪美形に謀れてるよ。
きっと金髪美形の本物の恋人はどこか別のところにいて、僕を隠れ蓑にしているんだろう。分かります。
かわいい彼女にこんな変なおっさんを絡ませたくないもんね。拾ってくれた恩返しに全力で協力させていただきます。
「ニームに触らないでください!」
おぉ。金髪美形迫真の演技。でもそんな口答えして大丈夫なの?国で一番偉い人なんじゃないの?
「なにお前。そんな強面フェイスで最愛の人とか呼んでるの?」
ニームという呼び名を聞いて、陛下さんがウケる~という感じににやつく。後ろのクールそうな神官長さんもぶはっと笑ってる。
金髪美形め…本当はどんな意味の名前なんだ。まさか本当にオムツ由来じゃあるまいな。
「呼び方なんて俺とニームの問題でしょう?ほっといてください。」
いや、さすがに僕もオムツ由来だと黙ってないよ?
「なんだよ~らちあかねーな。神官長!押さえろ!」
はい、と神官長さんはエスパー少女のように、手をキツネの形にして金髪美形にむける。
途端に、金髪美形は金縛りにあったように動けなくなる。
ね~…なんかあの人、神のお力っていうより超能力青年ぽいんだけど…。
「そ~らお顔拝見。どれどれどんな美女…っておぉおい!!」
陛下さんが、僕の顔を見た途端ツッコミのような動作をする。
この国ってお笑い文化でもあるのかな?
「え~なになにこの子超かわぅいぃ~!!黒髪黒目ってどこの国の子~!?肌も黄色いし~!かわいいかわいい!!」
恋人が男ってことにつっこみはなかったからやっぱりお笑い文化はないようだ。
「戸惑ってる姿もかわいい!こんにちわ~どこの国からきたのかな~?」
とうとう話かけられた。こちらの世界にきて大分開き直ったとはいえ、基本的に僕には下っ端根性が根付いているため、権力がある人や強気の人には弱い。むしろ苦手なのであまりしゃべりたくはないんだけど…。そうだ。
「晩ご飯食べませんか?」
「へ?」
「ちょうど今から食事にしようと思っていたんです。多めに作っているので…まだ召し上がられていないようでしたらいかがでしょうか?」
僕の作戦。食べ物で口を塞いでしまえば、多少は静かになるだろう。
少なくとも、テーブルを挟んでしまえば、至近距離でハァハァ言われるのは防げる。
さっきからこの人距離近いんだよ。
「ニーム!こいつらに手料理を与えるなんてもったいない!放っておけばいい!!」
金髪美形口悪いな~!偉い人にそんな口きいて大丈夫なの?ストレス社会でもまれた僕としては、いい大人の彼の将来が心配になる。
「え?本当?いいの?かわいこちゃん。」
「いや~悪いですね~そんなつもりで夕飯時に押し掛けたわけじゃなかったんですけどね~…ごちそうになります。」
さっきまで黙っていた神官長が急ににこにこと割り込んでくる。
こいつ、さては隣の晩ご飯が気になる派だな。分かります。
夕方家路につくときご近所からカレーの匂いとかすると気になりますもんね!
「うわ~なにこれおいしいそう!」
「初めて見る食べ物ばかりですね~」
家主を差し置いてさっさと椅子に座る客人達。近くにいたら根掘り葉掘り話かけられそうなので、炊事場に予備の料理を取りにいくため逃げ込む。
料理は明日のお弁当にしたり、天丼にしようとしていたので、けっこう多めにあるが、大の男が2人も増えたので、作り置きの食材を追加する。
自家製ソーセージに、酢漬け、魚のオイル漬けなどなど…。
居間に戻ると、3人は我慢できなかったらしく既に食事を始めていた。
が、なぜか恐いくらい皆無言でもくもくと食べている。
まさかまずかったのか!?と思ったけど結構な勢いで食べているのでそういう訳ではないようだ。
金髪美形は元々無口で、食事時はいつもこんな感じだったが…。まさかあのうるさそうなあの2人までこうとは…。
はっ!そうかわかった!この国では無言で食べるのがマナーなのか!!う~ん。思わぬところでジェネレーションギャップ☆
僕も食事しながらの会話は苦手なほうなのでありがたい。
追加の食事を置きながら、そう納得してぼくもようやくの夕食にありついたのだった。
結果を言うと、僕なめてました。成人外人男性3人の食欲を!
だって金髪美形まで「こいつらより多く食ってやる!」と言わんばかりにすごい食べるんだよ!?
あんまりにもすごい勢いで食べるから、なんだか育ち盛りの子供をもつ母親の心境になって組み合わせとか、栄養価とか考えずにいろいろ追加でだしちゃったよ。
鶏の唐揚げ1羽分にフライドポテト山盛りと野菜炒め大盛りと、最後のほうめんどくさくなって本日の穫れたて野菜と果物を素のまま山盛りでだしたよ!
ちょっとは遠慮しろ!お前ら!!!
「余は満足じゃ…」
満足じゃなくて満腹だろ。お腹がスヌーピーみたいにポッコリでてるけど、イケメンとしてそれいいの?大丈夫?男前として世間体悪いよ?
「陛下…」
「あぁ…神官長…」
陛下さんと神官長さんがうなずきあう。なんだなんだ。深刻な気配だな。
陛下が意を決したようにおもむろに口を開く。
「嫁にきてくれ…!!!」
「違うだろ!!!」
勢いよく抱きついた陛下さんを神官長さんがおもいっきりはたく。
おい、金髪美形。後ろで剣抜くのやめろ。ここが目上の人に無礼なお国柄というのはよく分かったが、さすがにそれはまずいだろ。
「まったく…馬鹿はほっといて…。どうやらあなたは《豊穣の神子》のようですね。」
ほうじょうのみこ。なんですか、それ。
思ったことが顔に出てたのだろう。神官長さんが説明してくれた。
「《豊穣の神子》とはその存在だけで、田畑を豊かに実らせ、生き物を肥えさせてくれるありがたい食の神の御遣いのことです」
「そんな食いしん坊万歳な神様がいるんですか。
これでもダイエットに成功して太ってるつもりはなかったんですけど。」
それともこの国のBMI判定は日本より厳しいのか?
「食神の神子だからって別に太ってる訳ではないですよ…。あなたのことを神子だと申し上げるのは、この家の庭と先ほどの晩ご飯が理由です。
このあたりは土が赤土でそれほど実りがよくない上に、今は乾期で非常に作物が実りにくいのです。なのにここの庭はまるで栄養豊富な熱帯雨林のように生き生きと育っています。おまけに南方でしか育たないティシャの実や、人工栽培は難しいとされているテグの木などこの土地で栽培するには不可能な作物が先ほど庭を一瞬拝見させていただいただけでも数種類ありました。」
なんと。いや、自分でも肥料もやってないのにやたら育つなとは思っていましたよ?
でも愛情こめて育てると大きくなるって聞いた事があるからそれだと思ってました。
「夕食にしてもそうです。この魚は川で穫ったとききましたが、本来ならこいつは海の魚で繁殖時期でない今は川にいる筈のない魚です。この山菜も今の時期は穫れない筈です。そして極めつけはこれです。」
神官長はずい、と3色の果物を僕に差し出す。
これは、最後の方調理するのもめんどくさくて丸のままだしたデザートだ。
赤いのは生姜のような辛みがあるがすっきりとした甘みで、緑はアボガドのような濃厚さでクリームのように甘い。紫のはグミのような弾力でライチのような味がする。全て生でも美味しい果物だ。
「これは豊穣の神の神殿の庭にしか生えない木の実です。赤は体力回復、緑は精神力回復、紫は滋養強壮です。自然界の掟に沿わないその祝福された効果かから『神の実』と呼ばれています。」
へ~便利な実ですね。
ゲームでいうところのHPやMPを回復してくれる便利なアイテムだね!
「まったく傭兵王…。あなたこんないい食材を毎日食べてなんとも思わなかったんですか?」
「いや…ニームのご飯は食べたあとやたら元気になってムラムラするなぁ~とは思ってたんだが、それはニームがかわいいからかと…。まさか精力…ゴフッ!!」
神官長がすかさず金髪美形のみぞおちに拳を叩き込む。
「滋養強壮です。滋養強壮。ありがたい実なんですから下品な表現しないでください。」
「神官長こわい。」
陛下さんがガタブルしている。
傭兵王てあだ名ついてるくらいだから金髪美形、強い人だよね?何で床に沈めてるの。たしかにこわいわ!
「という訳であなたは神子さまです。
神殿はいつの時代も神子を保護し、そのお力を存分に発揮いっただけるよう後見人としての役目を担っております。こんな変態の巣を捨てて私と一緒に王都の神殿でくらしましょう。そして、そのお力でこの国に豊かな食生活をもたらしてください…!!!」
あ、恐い人に手を握られた。やだこわい。
「う~ん…神子とかゆうのかどうかは分からないですが、僕けっこうここの暮らし気に入っているんですよね…。」
なんだか恐い人に攫われそうなので必死でお断りの文章を考える。
「えーっと…庭もいろいろ手を加えて愛着ありますし、料理もし放題ですし…なにより彼との2人だけっていう環境が気に入っているんですよ。」
人間関係で人生ドロップアウトしていた者としては、そんないかにも人の輪の中心になりそうな仕事はやはり躊躇する。
よくわかんないけど、神子って教会の神父さんみたいな迷える子羊の悩みとか聞いたりするようないい人そうな仕事でしょ?
むしろ僕のほうが心の交通整理お願いしたいくらいなんですが。
そして、金髪美形なぜうれしそうな顔をする。人の引きこもり大好き宣言をあざ笑っているのか?
「神子、そなたの言い分ももっともだし、余もできればそなたという個人の生活を崩したくはないのだが、そうは言っておられん事情があってな。」
おぉ。陛下がまじめ。ちゃんとした大人の発言だ。
「事情…ですか?」
「うむ。じつは今年はまれに見る日照りでな。作物の収穫量が激減しておるんだ。それに加えて、家畜に疫病が広まり食肉のほとんどがだめになってしまっているのだ。備蓄があるとは言え、我が国の冬は厳しい。おそらく体力のない子供・老人は冬を乗り切れないだろうしすでに。貧しい村では餓死者や身売りが多発している。」
なにその重い話!!
そ、そっか~…。天候不良→不作→生命の危機、て直結するのね、この世界は。先進国感覚の現代人だから食料たりなきゃ輸入すりゃいいじゃん、て思ってたけどそうはいかないのね。う~ん…冬を乗り切れないて、そんな感覚なかったわ~…。
さすがに、僕個人の我を通す感じじゃないね…これ。僕だって、人嫌いだけど恵まれない子どもとかの募金や献血をする程度には人の命に対して無関心ではないよ。
「うぅ…。で、でも本当に僕が神子なんですか?はっきり言っておっしゃてることはたまたま僕の畑の実りがよかっただけに思えるのですが…」
僕としては自身に滾る力も、沸き上がる未知の知識とかいった神秘的ものは一切感じられない。
しいていうなら規則正しい生活で体が軽い、くらいな感じくらいである。
そんな本人すらなにも感じていないのにいざ、「神子様です!」て超祭りあげられて、実際はなんの奇跡も起こらなかったら、多分国民全員から魔女狩りのように袋だたきにあう。恐すぎる。
そんな僕の不安を取り払うように神官長さんが声をはりあげた。
「もちろんです。先ほど申し上げたことはもちろんのことですが、ここまでにくる道すがら森の様子を見てきましたが日照りなぞ無関係のように豊かに生き生きとしておりました。なにより、私の感があなたは神子さまだと言っております!」
えぇ⁉最終的な説得理由が感って…ぜんぜん安心できないんですけど…。それとも、この世界では神官の感ていうのはNHKのニュースより信頼性が高いのか?
「そ、そうなんですか…?わ、わかりました。ちなみに神子ていうのは具体的にはどんなことをすればいいんですか?」
転職前の仕事内容と雇用条件の確認は大事ですからね。うっかり安請け合いしたらブラック企業でサバト的な怪しげなことをさせられたりしたら困る。
こっちにきて生き物をバラすのは余裕でできるようになったが、さすがに生贄とかあるようなとこで働く自信はない。
「そうですね…基本的には首都の神殿に滞在の際は、毎朝の礼拝へのご参加をお願いします。
あとは、国中への巡礼をお願いすることになります。」
「じゅんれい?」
僕の疑問に陛下さんが答える。
「あぁ。環境や周囲に影響を与える神子は歴代数々いたが、その祝福の効果範囲は神子本人の周囲と限られている。そのため、その恩恵を国中に巡らせるため神子は国中の巡礼が義務付けられているのだ。」
仕事内容としては、毎朝の定例会議と地方への営業、て感じかな?
それにしても陛下さん、急に真面目な上司風に…。仕事はきちんとされる方なんですね。
「移動はすべてノルクで、神子の世話係と護衛に騎士もつけさせてもらう。各地の領主や豪族に接待されるだろうが強制ではない。各地の神殿にさえ巡拝してくれれば十分だ。1年の半分以上は巡礼してもらうが、残りは首都で好きに生活してもらって構わん。」
僕の心が揺れているのに気づいたのか陛下さんがたたみかけるように好条件を示してくる。
ようするに、1年の半分以上を上げ膳据え膳でぶらり旅しながら地方の美味しい物を食べ、残りはニート生活してOKていうことですね。
資格もスキルもこの世界の一般常識もないアラサー男子の仕事としてはありがたすぎる仕事内容だ。
あ、スキルは『神子さま』ていう特殊スキルがあるのか。芸は身を助けるって本当だね〜。
「わかりました。それでは神子としてのお仕事、引き受けさせていただきます。その代わり条件があります。」
「ニーム!」「神子!!」
金髪美形が悲痛な顔をし神官長さんは歓喜の声をあげる。一方の陛下さんは交渉がうまくいったので満足そうににやにやしている。
「うむうむ。なんじゃ。言ってみろ。」
「まず、衣食住の保証をお願いします。
ただ、食については、材料の保証だけでけっこうです。むしろ料理は趣味なのでさせていただけますか?巡礼の際も炊事に関しては僕にさせていただきたいです。もちろん同行していただける方の分も一緒に作らせていただきます。
また、僕が好きにできる庭もいただけますか?代わりと言ってはなんですが、その貴重とおっしゃっていた神の実の栽培もさせていただきます。」
「なんだ?そのようなことでよいのか?世はてっきりそなたの為の神殿を立てろ、とか月ごとに金銀財宝を貢げ、とか言われるかと思ったのだが。」
なにそのセレブ発言。
いや、たしかに月ごとに多少の収入はあったほうがいいかな〜とは思ったけど、変に金銭要求してもめたら嫌だな、と思って辞めました。衣食住と畑の保証さえしてもらえれば無趣味な僕は他にお金を使うようなあてはないしね。じゅうぶんじゅうぶん。
「さすがニーム…なんという欲がなく清らかなんだ…!」
「そうですよ神子さま。衣食住と趣味の保証なんて当然のことなんですから、銅像立てて〜とか塔建てて〜とかお願いすればいいんですよ。」
いや、だからそのセレブ発言なに。だいた塔建ててもらったところでどうするんですか?マンションみたいに不動産で稼げてことですか?
「よし、ニームわかった。」
「へ?」
金髪美形が僕の肩を掴み、正面から見据える。
本当思わず笑っちゃうくらい綺麗な顔してるなこいつ。
「お前がそんな健気な覚悟をしているのなら俺も傭兵業は辞めてお前だけの騎士になろう。」
えーとつまり、騎士ってことは僕の職場に合わせ、転職してくれるってこと?
たしかに巡礼の時に気心の知れたこいつが一緒なら僕もうれしい、がさすがに申し訳ない。
「嬉しいけど悪いよ…。今まで散々面倒みてもらったうえに転職だなんて…。だっておまえ結構今の仕事では有名なんだろ?」
「そんなことはどうでもいい。
それにずっと一緒にいると言った。忘れたのか?」
そんなこと言ったけ?
あ、あれか?「俺のために毎日味噌汁を作ってくれ!」と言われて「いいよ〜」って言った件か!?
そんなに和食が気に入ったのか〜と思ってたが、まさか転職をしてまで和食にに固執するとは…。
イケメンのクセになんて食い意地がはっているんだ…と思ってついつい凝視したら、金髪美形も無言で見つめ返してきた。
「え!てことは傭兵王、うちの国の所属になるってか。うわ〜!どんなに金積んでも専属にはなってくれなかったのに…。神子は発見されるわ、傭兵王は手元に転がり込むわって、なんだこの幸運。」
「神の御心です。お布施払ってください。」
生臭すぎる2人の会話を聞きながらも、なかなか金髪美形が視線を外してくれままその日の夜は更けていった。
結局、僕が首都に向かったのはあの日から3日後のことだった。
首都は森からノルンで4時間ほどの距離のところにあり、聞けば金髪美形は毎日この距離を通勤していたらしい。お前は東京の働くお父さんんか。
ちなみにノルンとは金髪美形の例のエイリアンのような見た目の家畜で実はこいつら空を飛ぶらしい。う〜んファンタジー…ていうより見た目がエイリアンだからSFみたい。1人では乗れない(いろんな意味で恐い)のでもちろん金髪美形に相乗りさせていただきました。
心配していた僕の神子の能力も、首都に移動するまでに間にさっそく発揮されました。
空を飛んで移動中、振り返れば僕らが通った後に雨雲が集まり、日照り続きだった大地に恵みの雨を降らせていました。これで袋叩きの可能性がなくなったので心底ほっとしたね!
首都についたら、お披露目パレードみたいなことをエイリアンに乗ったままさせられ、目立つのが嫌いな僕は超ガタブル。
今後、こんな派手なことがあまりありませんように…とそっとまだ見ぬ食いしん坊バンザイな神に祈りました。
その日の夜は、「内輪だけ」と称されて今後僕がお世話になる人達だけを集めた小規模なパーティーが催された。不作で食糧不足の中、大規模な催事は敬遠されたというのもあるのだが、派手なことが苦手でコミュニケーションも苦手な僕のために、気負わない小さなものにしたというのが大半の理由らしい。
なんていうか、いい人だちだなぁ…。
そこで紹介されたのは、色とりどりの個性派イケメン達でした。
アッシュグリーンの髪にオスフェロモン垂れ流しの青年とブルネットに東欧的な濃い顔立ちの青年、燃えるような赤髪を持つやんちゃそうな青年は金髪美形と同様、僕の護衛騎士。
黒に近い濃い紫の髪を細かい三つ編みにして、一つに束ねている長身の青年は秘書、銀髪を短く刈り込み眼帯をしている青年は執事で、薄ピンクの髪を持つウィーン少年合唱団バリの美少年は僕の小間使いらしい。
ワインレッドの巻き毛に女性かと思うような美貌の青年は僕の家庭教師で、長い灰色の前髪の青年は神殿から派遣された神官で、神子としての教育係。この人は顔を隠しているものの整った口元と鼻、長身に引き締まったナイスバディの為、一目でイケメンと分かる。
一番年上のワイルドで危険な香りがするオレンジの髪の男は、なんと僕専属の医者らしい。
以上計9名のイケメンを紹介されました。
…なにこれ。なんの嫌がらせ?なにが楽しくてこんな美形に囲まれて四六時中暮らさなきゃいけないの?ここはイケメンしかいない国?と思ってたけど道中、僕と同じような親しみ易い顔の方々もたくさん見たからそうじゃないってことくらいもう知ってるよ!?
わざとのチョイスだろ!これ!!
男としての劣等感が刺激されすぎて、凹むわ!!
もの言いたげな僕の視線に気がついのだろう。陛下さんが口を開いた。
「どうだ。みな年は若いがそれぞれの分野で1、2を争う優秀で食いしん坊万歳な者達だ。」
いや、いい顔で言い切りましたけど最後変な単語つきましたよ?
絶対それ褒め方の形容詞じゃないよね?
…あれか?豊穣の神の神子に仕えるには食いしん坊万歳なことが条件なのか?
確かに、僕についていれば食いっぱぐれるどころか美味、珍味食べ放題だもんな。それで向こうも食べ物至上主義なら食のカリスマである僕をそうそうパワハラしたりしないだろう…。
そうか〜イケメンていうのは食いしん坊万歳だったらなるのか〜。
食育?食育ってやつ?いい物食べてたら綺麗に育つのね。高級牛にビール酵母とか無農薬野菜あげるとおいしくなるっていうのと同じ原理かな!
う〜んイケメンライフが嫌すぎて現実逃避してしまった。
脳みそを現実逃に戻そう。
今日のパーティーはそのイケメン達
との交流会も含めているため、立食形式のパーティーだ。
色とりどりの美味しそうなひとくち料理が並んでおり、是非とも味の研究の為にも食べておきたいのだだが、入れ替わり立ち代わりイケメン達が挨拶にくるため、なかなか食事にありつけない。
食事は諦めるにしても緊張しすぎて喉が乾いてきた。
「ニーム、何か飲め。」
その時ナイスタイミングで金髪美形が飲み物の入ったグラスを持ってきてくれた。さすが心友☆
グラスに入った無色透明なそれをミネラルウォーターと思いひとくち含む。
「苦い…酒かな…?」
始めて飲む味だが、馴染みのアルコール臭がする。
「すまないニーム。酒は飲めなかったか?」
「飲めないって訳じゃないいんだけど…」
酒乱の気とアルコール依存性の気があるので極力飲まないようにしたいのです。
とは世間体が悪くて言えないです。少量なら平気だと思うんだけど、今日は食事もしていないし、緊張もしているので、少量でも悪酔いしてしまいそうで恐い。
「それでは神子さまこちらはどうでしょうか?」
ピンク髪の小間使いの少年が差し出したのは素焼きのお椀に入った乳白色の液体。
ひとくち口に含むと、ほんのりとした甘さと炭酸がきいていて胃にスッキリと馴染む。
「おいしい!これなら飲めそうです。ありがとう」
にっこり笑うと、少年も照れたように笑み返してくれる。う〜ん天使スマイル。
それにしてもソフトドリンクはやっぱり子供のほうが詳しいんだな〜と、ご機嫌で飲んでいるとアッシュグリーンの髪の騎士が
「神子さま。そちらがお気に召したようでしたら、こちらもきっとお好きだと思いますよ」
そう言って差し出されたのは薄い黄色に炭酸の発泡が見える透明の飲み物だ。匂いをかいでひと口飲んでみると、柑橘系のすっきりとした甘さにジンジャーのような辛味のあるジュースだった。
「うわ!これもおいしい!なんだか不思議な味ですね〜ありがとうございます!」
始めて体感する味の為、異様に高いテンションで返すと、アッシュグリーンの騎士も嬉しそうに笑い返してくれた。そこからは何故かイケメン達が我先にとドリンクを持ってきてくれたためドリンクの試飲大会となった。正直フードも持ってきてくれ…と思ったが、シャイボーイなため訴えることができなかった。まぁ、後半は何故かテンション上がってきたのでそれすらどうでも良くなってましたが。
…そして、よくよく考えるとその時のテンションの異様な高さに気づけばこんなことにはならなかったんだろうなと、今なら思う。
翌日、僕は与えられた部屋の巨大なベットで目が覚めた。何故か金髪美形の腕枕つきで。
金髪美形と一緒に寝ることは前の家でもそうだったため(ベットが1つしかなかったからだ)何とも思わなかったが、僕を青ざめさせたのは、昨日の記憶が途中からぽっかり抜けているのと、二日酔い特有の頭痛と胸焼けがあったからだ。
ーやばい…!!!絶対これ飲んでる!!しかもすごい量!!!ー
僕の記憶をたどってもお酒を飲んだ記憶はない。が、途中で記憶を飛ばしているということは、イケメン達に薦められたあの甘い飲み物達がアルコール物だったのだろう。
僕は取りあえず現状を把握しようと、起き上り、上にかかっていたシーツを剥がすと、再び固まった。
そこには全裸の自分自身の姿が。
ロボットのようなガチガチの動きで恐る恐る金髪美形を見やると何故かコイツも全裸。
やばい。
絶対やらかしている。
血の気の引いたまま、取りあえず金髪美形から視線をそらし部屋を見渡すと、更に青ざめる光景が広がっていた。
昨日紹介された、僕の側近達が、これまた全裸で死屍累々とその辺
に雑魚寝しているのだ。
「なにこの地獄絵図…」
いくらイケメンでも同性で埋めつくされる肉色の光景は朝からカロリーが高すぎる。どうせ血の気が引くなら女性が良かった。
しばらく灰になったかのようにボーとしていたが、二日酔いに紛れて痛みを発していた腰の痛みに観念して、自ら腹に視線をやった。
「やっぱりやっちゃてるか…」
そこには油性ペンのような黒くて太いインキで描かれた、子供の顔のような落書きがされていた。
「初対面の人たちの前で腹芸…」
腹芸とは、自ら腹に顔の落書きをし、その腹の動きで人々を楽しませるという宴会芸である。
僕の会社は、こういう宴会芸が大好きで飲み会の際は下っ端社員たちは必ず宴会芸を強要され、新入社員にいたっては必ずこの腹芸をさせられる。気の弱い僕は、素面ではとてもそんな恥ずかしい真似が出来ず、いつも泥酔して参加するという苦肉の策を用いていた。
幸い、酔っている時の僕は、明るく社交的で盛り上げ役を買ってでるタイプなようで、飲み会の席では重宝されたのだが、酔った時の記憶が全くないのと、酔うと必ず宴会芸をする体質になり、人前でお酒を飲むのは大の苦手となっていたのだ。
おろらくこの腰の痛みは、この腹の落書きにウインクさせたり、笑顔にしたり怒り顔にしたりと腹筋と背筋をフルに使ったための腰痛だろう…。うぅ…僕は全裸の丸出しで一体なにをしていたんだ…。
あぁ死にたい…と思って頭を抱えていると、横で寝ている金髪美形の腹に目がいった。
そこにはひょっとこのような落書きにアンダーバストのあたりに鉢巻に見たてた、紐がくくりつてあった。
う、うわーーーーーーっ!!!!
僕は金髪美形にも宴会芸を強要したのかーーーー!!!!
その日本文化独特のおもしろいおっさんの顔を金髪美形が自主的に描いたとは思えない。どう考えて、僕がが描いてこのイケメンに腹芸をさせたのだろう。
やばい…起きたらぶっ殺される。
普段クールぶっているコイツのことだから、こんな三枚目芸をさせて無事でいるとは思えない。
魂の抜けた瞳で周囲の全裸の人々を見回すと、みんな腹やら顔やらに落書きされている。色男オーラを振りまいていたワインレッドの巻き髪の教育係など下尻を犬の口に見たてたかわいい犬顔を尻に描かれている。
ピンク髪の少年にいたっては、まだ毛が生えていないことを生かされたのだろう、某児童アニメの園児がよくやる、局部にゾウさんの落書きがされている。
さらに絶望的なのが、陛下さんと神官長さんで、陛下さんがソファーに座り、神官長さんはその足元の床で座りながら2人とも寝ているのだが、陛下のデカいイチモツが神官長さんの頭に乗せられている。…あれは女性には絶大な不人気を誇る宴会芸の『チョンマゲ』だろう。
ゾウさんやワンちゃんは、まだ似た生き物がいるかもしれないから責任逃れはできるかもしれないが、チョンマゲは絶対無理だ。
このファンタジーな洋風の世界にお侍さんがいるとは思えない。
絶対僕がやらせている!!!
あれだけ嫌いだったパワハラ…いやこれはセクハラか?を僕が他人にする日がくるとは…情けなくて涙がでる。
というか国の偉い人たちにこんな無礼な振る舞いしたってことは僕ヤバくない?不敬罪とかでつかまるんじゃない?うぅ…どうしようどうしよう…。ギロチンとかで首チョンとか…でも貴重らしい神子だから禁固刑とか…?
暗い考えに囚われ、あうあう呻いているとふいに後ろから抱きしめられた。
「ニーム、先に起きていたのか?俺も起こしてくれればよかったのに。」
そう囁きかける金髪美形の声は甘くて優しい。どうやら怒っていないようだ…。
「なぁ、昨日のこと怒ってないのか?」
「怒る?なぜだ?昨日のニームは素晴らしかった!!!」
興奮気味にうっとりとした目でそう告げれれる。
よ、よかった!金髪美形は思ったよりお笑い好きの下ネタ好きだったようだ!さすが懐の深い男だ!
「そうだぜ〜神子殿〜!昨日は楽しかったせ!」
いつのまに起きたのか陛下さんが丸出しのまま、近づいてきていい笑顔でいい切った。
「陛下、丸出しやめてください。」
そう言って陛下さんに何かを羽織らせている神官長さんにも怒りの気配はない。
ほっ…とりあえず、首チョン疑惑はないようだ。
「いや〜それにしても神子殿にあんな二面性があるとはな〜そりゃあ傭兵王も夢中になるわな〜」
「そうですね。普段は癒し系の神子殿が酔われるとあんな艶やかになられるとは…」
「なんか神子殿が寝られた後もこいつらまた一緒に飲みたいー!つってたぜ」
陛下さんの言葉にほっと胸を撫で下ろす。潰れている側近の人たちもどうやら怒っていないようだ。緊張していたので陛下さんと神官長さんの言葉はあまり耳に入ってこなかったけど、都合がいいことだけはしっかり聞き取れた!
「いや〜でも地方領主たちも喜ぶでしょうねーこんなかわいくて艶やかで面白い神子さまが巡業してくれるなんて…接待しがいがあるってもんですねー」
神官長の呑気な発言にはっと俺は気づいた。
ひょっとして巡礼の旅で、お世話になるところ全てで酒を薦めれられる?
元の世界でも、大人の接待には必ずアルコールがでてきていた。
昨日の感じからするとこちらの世界でもそれは同じなのだろう。
「いや!僕はもうお酒は飲まないです!」
「またまたー。なんで?神子殿お酒飲むと楽しいじゃん」
「そうですよ〜みなさん喜びますよ?」
「ニームは私と2人の時だけ飲めばいい」
うぅうぅ…みんな勝手なことを!
「とにかく!僕は酒癖が悪いので飲みません!!」
はっきり言ってこんなはずかしい思いはもうしたくない。
そう、僕は二日酔いと腰の痛みを胸に刻みながらそう誓った。
が、当然気が弱くサラリーマン気質が強い僕のこと。
行く先々で、年配の方や、やり手オーラ全開の実業家、善意でもてなす気まんまんの人々を無下に出来ず…けっきょくちょっとだけが大樽一杯にまでなり、全国各地で浴びるように酒を飲み続けた結果、宴会神子の名を欲しいままにしてしまった。
後の世に、豊穣をもたらした偉大な神子として伝記で伝えられると同時に、人々の口伝に宴会芸の神さまと男殺しと人々に語り継がれるようになることをこの時の僕は知るよしもなかった。