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ショタヌキとのカフェは今日も思考する  作者: 伊藤テル


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12/19

【12 ショタヌキの御都合】

・【12 ショタヌキの御都合】


 いつも通りカフェ&カフェをしていると、初めてのお客さんが来店した。

 はずなのに、レジ前の高いイスに座っているショタヌキの横顔は引きつっていた。

 知り合い? とか思っていると、そのお客さんはショタヌキを見るなり、頭をポンポンしながら、

「あら偉いわねぇ、本当に仕事しているのねぇ」

 と甘ったるい声で言った時に分かった。多分ショタヌキの母親だ。

 確かショタヌキは母親にあんま懐いているようではなくて、ショタヌキは母親のことを何だか苦手みたいな感じで思っていたはず。

 ショタヌキの母親と思われるお客さんは、

「でももういいのよぉ! 祥太はいっぱい頑張ったからおうちへ帰ってきていいのよぉ!」

 と手を広げて言うと、何か、他の常連さんから拍手が巻き起こった。

 いやでも、えっ、急に? と思いつつ、一応決め打ちで喋らず、近寄ってから、

「どなたでしょうか」

 と質問すると、そのショタヌキの母親と思われるお客さんは鼻で笑ってから、

「分かんないもんかねぇっ」

 とイヤミったらしく言ったので、私はカチンときたので、

「お母さまですよね、分かりますよ。一応泳がせただけです。逆にそういう機微も分かんないですか」

 と私は良くないコミュ障ぶりを発揮してしまったことを言った瞬間から後悔した。

 するとショタヌキの母親が、

「客に対してどういうつもり?」

 と”ハン!”と鼻息を鳴らしてから言ったので、後悔する必要無いっしょ~~、と虹の黄昏ばりの”しょ~~”が脳内に浮かび、

「従業員の母親が従業員に会いに来た場合は、もはやお客さんじゃないですけどね」

 バチバチ火花を散らかしていると、怜那が割って入ってきて、

「まあまあ祥太お母さま、何か用事があったんじゃないんですかぁっ」

 とちょっと顔を引きつらせながらも笑顔でそう言うと、ショタヌキの母親が溜息をついてから、

「祥太を帰らせると言ったじゃない。全然話聞いてないわねぇ、竜神って人の話聞かない種族だからぁ」

 すると怜那が明らかに不快そうな顔をしながら、

「種族は関係無いですけどねぇ」

 と応戦し始めたっぽいけども、ショタヌキの母親は意に返さず、

「というわけで祥太、もう帰りましょう! こんなレベルの低い連中と一緒にいたらレベルが下がってしまうわよ!」

 いやそもそもテメェが修行みたいな感じで人間界に送り込んできたんだろ、と思ったわけだけども、ショタヌキはあせあせするだけで何も言葉を発しない。

 困っている姿はまんま、どうぶつの森のたぬ吉商店だ。たぬ吉商店って脳内でしっかり描写すること今まで無かったけども、本当にたぬ吉商店だ。

 するとショタヌキの母親がイライラしながら、

「早く帰る準備しなさい! 荷物はコイツらに送らせるからさっさと行くわよ!」

 と言った時に、でもまあ帰るのかな、とは思った。

 元々仕事をしたいと言ってきたわけじゃないし。

 このショタヌキの母親は何かこっちへ攻撃的な視線ばかり向けてくるから、きっとあやかしと人間が仲良くすることをよく思っていない連中の一人だ。

 だからここは、うだうだ何か言ってアイデアを練るよりも、このまま身に任せたほうがいいんだろうな。

 でも、割とショタヌキと一緒にいる時間も楽しかったなとは思う。

 私は自分の子供という感覚がまだ無いので、普通に年の離れた弟とか親戚の子みたいな感覚で接していたなぁ。

 一緒に野田ゲーmakerするのも楽しかったし、一緒にいろいろ言いながら、野田ゲーmakerでゲーム作るのも楽しかった。

 ふと、何か嫌だな、と思った。思ってしまった。

 ショタヌキがいなくなることが私は嫌だということにハッキリと気が付いた。

 それにショタヌキがいなくなると、きっと怜那と吉四六もいなくなるような気がする。

 だからそうなれば、あやかしと人間が仲良くするな勢から目を付けられなくても済むかもしれない。

 でもそれも嫌なんだ。

 ショタヌキがいなくなることも嫌だし、今更怜那と吉四六がいなくなることも嫌だ。

 だから、

「祥太くんの意見をまず聞いてくれませんか?」

 と私がショタヌキの母親の腕を掴むと、その手をすぐに払いながら、

「そもそも祥太は仕事することが嫌だったんでしょっ? でももういいの! やっぱりわたしが間違っていたと分かったし! ずっとこれからわたしと一緒よー!」

 と腕を広げて、抱きついてくる想定のアクションをすると、ショタヌキが母親ではなくて私のほうを見てきた。

 潤んだ瞳で懇願するようだった。

 だから私は言ってあげることにした。

「私は祥太くんと一緒にまだカフェしていたいよ」

 すると決心したような顔つきになったショタヌキが声を張り上げた。

「僕は帰らない! 卯愛さんと一緒にカフェの仕事頑張る!」

 常連たちはさっきよりも大きな拍手をし、怜那と吉四六は二人でハイタッチをして喜んだ。

 こんな幸せな空間で、一人だけ怖い顔をしているヤツがいる。

 そう、ショタヌキの母親だ。

 ショタヌキの母親は私のほうを睨み、こう声を荒らげた。

「アンタが私の祥太をたぶらかしたのね! 黙って沈んでろ!」

 私はショタヌキの母親から突然ビンタされたと思ったら、まるでショタヌキが変化する時のように私の体は光り出して、即座に怜那と和装のお客さんが同時に、

「あぁ!」

 と叫んだような気がした、けども、気付いたら私の目の前は真っ暗になって、何だか急激に眠くなってきた。ビンタ気絶?

 何だか怜那とショタヌキがギャーギャー騒いでいるようだけども、言葉としてあまり聞き取れない。本当に気が遠くなるような。

 なんとか、ショタヌキがどう言っているか知りたくて、耳をショタヌキだけに向けてロックオンすると、

「訓練していない人を変化させるなんて! ねぇ! 何分っ? 何分変化にしたのっ?」

 するとやっぱりショタヌキと声が似ているのか、ショタヌキの母親の声も脳が拾った。

「さぁ? どうだろうねぇ? もしかしたらこのアマは一生信楽焼かもねぇ?」

 ここで多分和装のお客さんのドデカ声を発したみたいだが、もう全然脳が認識できない。

 というか、えっ、私、変化させられたの? 信楽焼に?

 そう言えばショタヌキとこんな話をしたことがあった。

 タヌキのあやかしは変化の術ができて、中級になると、変化した状態で動けて、上級は対象相手に変化を付与できるって。もしかすると私、その状態で、確か、元に戻る時間も、付与した側が決められて、でも一応こっち側が解くこともできるけども、訓練していないとなかなかって。何か、そんな、感じ、キンタマ……あぁ、私、自分が知る限りの信楽焼になるのかもしれない、私、信楽焼のこと、キンタマとしか思っていないから、きっとキンタマと思ってそのまま沈んでいくんだと思う。キンタマ……私はキンタマの置き物……キンタマ……。



「卯愛さん! 大丈夫ですか!」

 どこからともなく、ショタヌキの声が遠くから聞こえてきた。

 何時間経過しただろうか、意外と数分しか経っていないかもしれない。

 でも間違いなくショタヌキの声が聞こえてきて。でも目の前は真っ暗闇だ。ショタヌキの姿も見えない。

「怜那が温めてもダメで! 吉四六が料理の香りを嗅がせてもダメで!」

 いや、そんなダメだった方法は別にいいんだよ、つまりはどういうことなんだよ。

「今、卯愛さんを僕が風呂敷になって包み込んで語り掛けています! 聞こえますか!」

 聞こえるって、どう表現すればいいんだっけ。

 だって信楽焼は喋られないわけだし……キンタマ。

「……! 卯愛さん! キンタマって何ですか! 聞こえているんですか!」

 嘘……私、キンタマだけ喋れているの?

 こんなことならキンタマ二回言ったらイエスとか決めてれば良かった。キンタマ三回言ったらノーとか。シングルキンタマはキンタマね。

「卯愛さん! これから僕が言う通りに念じてください! きっと術が解けるはずです!」

 ショタヌキの言う通り、やってみるということか、分かった……伝われ、キンタマキンタマ、イエスだよ。

「そんなキンタマなんて言わないでください! でも言えるということはまだ元気ということですね! 分かりました! 教えます!」

 そこからショタヌキが私へ術を解く方法を説明し、私はダブルキンタマで答えた。

 その結果、私は元の私の世界に戻り、また自分の姿を取り戻したのだ。

「卯愛さぁぁあああああああん!」

 とずっと私に抱きついているショタヌキ。

 怜那はギャン泣きしていて、吉四六が和装のお客さんと共に、またしても始めて見たお客さんと会話している。

 場は騒然としていた。

 何だか分からず、とりあえず私はショタヌキを抱き締め返すと、ショタヌキの母親が少しホロリと目頭をハンカチで押さえながら、

「まさかそんな絆が生まれているとは……一生信楽焼にする念を送ったはずなのに、こんな訓練していないアマに破られるなんて……感動、合格よ、祥太はまだまだこのカフェにいていいわよ……」

 何か怖いこと言ってんな、と思ったけども、もう無事だし、いいか、と思った。

 ショタヌキの母親は話を続ける。

「では祥太、しばしのお別れね。わたしはあやかしの里に戻るわ」

 と言ったところで、吉四六と和装のお客さんと会話していた、見知らぬお客さん(何か学ラン着てるけども大人)がショタヌキの母親の腕をぐっと掴みながら、

「何があやかしの里だ。オマエはこれから罰則所だ」

 と言って、多分なんだけど、連行されていった。全然罪だった。犯罪だった。

 和装のお客さんが私へ、

「あういう犯罪者は処罰されるので大丈夫ですよ」

 と優しく微笑んだわけだけども、ショタヌキの母親、普通に犯罪者になったけども、ショタヌキの胸中はいかに。

 ショタヌキは私から一旦離れてから、

「お母さん、ついに五回目だから処罰重くなるなぁ」

 と言って、全然初犯じゃなかったんだ、ヤバ過ぎる。

 何かショタヌキも別にショック受けている様子も無いので、じゃあ良かった。

 子供にトラウマが残るのは良くないけども、何か慣れっこだったので、そこは本当に良かった。


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