第50話
駅までの道を歩いていると、少し先の道路のまんなかに、黒い物体が見えた。
いたのは、ネコ太郎だった。道路のどまんなかで、呑気に耳のうしろを脚でかいている。
「みゃあ」
相変わらずマイペースな猫だ、と思いながらも放っておけず、
「おーい、そこ、道路だから危ないぞ」
と声をかけてみる。するとネコ太郎はぴたりと動きを止めて、僕を見た。
そして、
「にゃあ」
と鳴き、その場でのんびりと毛繕いを始める。
どうやら猫語で「うるせえ」と言われたようだ。またか。そういえば、こいつはそういう奴だった。
ほっとこう、と思い直し、再び歩き出す。しばらく歩いていると、てんてんてん、と目の前をなにかが横切った。ネコ太郎だ。
「……お前」
歩きかたがうさぎのようで、思わず笑みが漏れる。
「なんだよ、お前。また着いてきたのか?」
もう一度話しかけてみると、ネコ太郎はちらりと僕を見て、再びてんてんと歩き出す。ネコ太郎はやはり、あの場所へ向かっているように見える。
スマホで時間を確認する。電車が来るまでには、まだいくらか時間に余裕がある。少しなら寄り道しても大丈夫だろう。
僕はネコ太郎を追いかけることにした。ネコ太郎は通りを曲がって狭い横道を進んでいく。
道の先には、小さな神社がある。
大きな朱色の鳥居には、『紫之宮神社』という文字。
鳥居をくぐり、僕はまっすぐあの場所へ向かった。
僕の目の前には、能舞台と大きな桜の木。
横から覆うように枝が広がり、青々とした桜の葉が舞台に優しい影を落としていた。
鮮やかな桜の葉に魅入っていると、「にゃあ」という声が聞こえた。
「……あ、お前」
見ると、ネコ太郎は我が物顔で舞台に上がっている。そしてやっぱり、背中を舞台の床に擦り付けていた。
「にゃあ」
図々しい奴め、と思いながらも僕はなんだかんだネコ太郎とたわむれる。しばらくして撫でられることに飽きたらしいネコ太郎は、軽やかに身をひるがえしてどこかへ行ってしまった。
暇つぶしの手段を失くした僕は、時間を確認するため、スマホを探す。ポケットに手をやるが、ない。
あれ、どこにやったっけ。
ひやりとして、今度はリュックのなかを探す。ふと、桜に貸していた文庫本が目に入った。
文庫本を取り出し、なかを開く。――と、ひらりとなにかが足元に落ちた。
落ちたものを拾って、目を瞠る。
「手紙?」
それは、黒猫が描かれた可愛らしい封筒だった。宛名の欄には『錦野汐風さま』とある。ちょっと下手くそな字だ。
どくん、と大きく心臓が鳴った。
――これは。
おそらく、桜が僕に宛てたものだ。
「いつの間にこんなの……」
僕は手紙を開封した。




