第32話
その日の夜、凪から電話がかかってきた。
桜と会ったあと、メッセージを送ったのだ。
凪には助言をもらったから、報告はしなければならないと思って、「ふられました」とひとことだけ。ほかにはなんと打てばいいのか分からなかった。
画面を見ながら、出ようか迷う。
今出たら涙腺が緩んでしまいそうで、怖かった。
でも、先にメッセージを送ったのは僕だ。少し間をおいてから通話ボタンを押す。
「もしも……」
『しおー! ふられたってマジか!?』
とんでもなく大きな声が耳の中で響いて、僕は思わずスマホを遠ざけた。
「うるさ……」
『しお、ごめん。マジでごめん!』
凪はなぜだか何度も僕に謝ってくる。涙腺が緩む暇もない。
「……いや、なんで凪が謝るの」
『なんでって……だってしおが告白したの、俺がけしかけるようなこと言ったからだろ? 俺のせいじゃん!』
すんすんしている凪の声を聞きながら、僕は久しぶりに、そういえば友だちってこんな感じだったっけ、と思った。どこか懐かしいような気持ちに、胸が震えるのを感じる。
どうやら凪は、僕がふられたことに責任を感じてしまっているようだ。告白自体は僕自身が決めたことで、凪が責任を感じる必要なんてぜんぜんないのに。
……だけど、そうか。
あのとき僕は、凪に助言されて覚悟を決めたから。
僕の行動は、彼にまで影響を与えたのだ。そこまで考えてメッセージを送っていなかった。もう少し考えて、凪が気を遣わずに済むような文を送ればよかったかもしれない。
「……べつに、違うよ。僕が言いたかったから言ったんだ。凪のせいじゃない」
『でも……』
「言ってよかったと思ってるし」
呟くと、戸惑いの色を滲ませた凪の声が返ってきた。
『言ってよかった、って……告白を?』
「うん」
『……なんでだよ。ふられちゃったんだろ?』
「まぁね……でも後悔はしてないよ。今は、桜と付き合いたいっていうより、もっと知りたいって思ってる」
『そっかぁ……分かった。俺、これからもめちゃくちゃ応援するから! 相談にも乗るし!』
「うん。ありがと」
まさか、凪がこんなに泣いてくれるとは思わなかった。慰めてくれるとも。
ふられてみなければ分からなかったことだ。ふられたときは悲しかったけど、ただ悲しいだけじゃない。きっとこうやって、僕たちは大人になっていくんだろう。
「つーか、いつまで泣いてんの」
『うっ、うるせーな! 俺だって泣く気なんてなかったよ。でも、ふだんじぶんのことをぜんぜん話さないお前が告白するためにどれだけの勇気出したのかとか考えたら、勝手に涙が出てくるんだよ』
恥ずかしかったのか、凪が喚き出した。
「ははっ……大袈裟だなぁ。でも、ありがと」
笑ってはいけないのだけど、凪のふにゃふにゃした声がおかしくて、僕はしばらくお腹を抱えて笑った。




