第13話
結果的に、転校生がやってきたのはうちのクラスではなかった。
転校生はとなりのクラスに配属されたらしく、朝のホームルームでそれを知ったクラスメイトたち――特に男子――は、がっかりしていた。
ホームルームが終わり、一時限目が始まるまでのあいだ、僕は再び読書にいそしんでいた。
物語が、今ちょうどクライマックスに入ったところなのだ。
今読んでいるのは、未来からやってきた女の子と現代の男の子との青春SF小説。
現代の震災で亡くなってしまうはずの男の子を救うため、女の子が時を越えて現代にやってきて奮闘するというドラマチックなラブストーリーだ。
『ねぇ、生まれ変わりって知ってる? ひとはね、死んだら生まれ変わって、またこの世界を生きるんだって。だから、僕は――』
今、僕が読んでいるところは、男の子がすべての真実を知り、未来へ帰りゆくヒロインへ想いを伝える場面なのだ。
今、まさに――。
どきどきしながら、頁をめくったときだった。
「汐風くーん!」
突然、教室中に聞こえるくらいの大きな声で名前を呼ばれ、現実に引き戻される。
顔を上げ、声がしたほうを見て、目を疑った。
「ち、千鳥さんっ?」
教室の扉のところに立っていたのは、神社で出会った女の子――千鳥さんだった。
千鳥さんは以前会ったときに着ていた白いワンピースではなく、さくらの森高校指定の紺色のセーラー服を着ている。ぴょんぴょんと嬉しそうに飛び跳ねながら、周囲の視線を気にすることもなく、僕に向かって大きく手を振っていた。
僕は目を丸くして、こちらに手を振る彼女を見つめる。
なんで、彼女がここにいるのだろう。
彼女は結賀大学附属病院に入院しているはずではないか。この前だって、ほんの数時間しか外出できない身の上であるとじぶんで言っていた。
それなのに、いる。今目の前に。
えっ、なんで?
退院したということ?
そして、たまたま僕と同じ高校だったと?
いや、そんな偶然が有り得るのか?
……と、そこまで考えて、我に返る。
教室のざわつきにおそるおそる振り返ると、クラス中の視線が刺さった。
やっぱりだ。とてつもなく注目を浴びている。僕は慌てて廊下に出る。
「なんでここに君がいるの」
語気強めに訊ねると、千鳥さんはなぜか得意げな顔をして、
「なんでってそりゃあ、転校してきたからだよ!」
思わず眉間を押さえてため息をつく。やっぱり、そういうことなのか。
「まさか、奈良が言ってた転校生って、君のことだったのか……」
変わったひとだとは思っていたけれど、まさかここまでだったとは。
「学校に行けば汐風くんに会えるものだと思ってたのに、汐風くんいないんだもん。だから探しに来たのっ!」
「ちょ、声がでかいって。ちょっと、こっちきて」
周囲からの視線にいたたまれなくなった僕は千鳥さんの話を遮り、手を取って歩き出す。
「おっ? どこ行くの、汐風くん」
「とりあえず場所を変える」
こんなところではいろんな視線が気になって、まともに話なんてできやしない。
「つーか奇跡過ぎだろ……」
思わず呟きながら、僕は彼女の手を引いて教室を出た。まさかの人物の登場に、僕の脳内は軽くパニックになっていた。




